●５０ 収納しゅうのうのリュックサックrucksackだよ

　収納しゅうのうのリュックサックrucksackを売うりに出だした。
　結論けつろんから述のべるなら、初日しょにちはものすごい売うれた。
　それもバッグbag目当めあてでなくて、たまたま寄よっただけの冒険ぼうけん者しゃさんたちに。

「おい、ちょっとこっち見みてみ」
「リュックサックrucksackだな。えっと普通ふつうのリュックruckならめっちゃ高たかいな」
「バカ言いうなよ」
「分わかってる。ちょっと信しんじられなかっただけだから。これ収納しゅうのうのリュックruckだろ」
「だよな」
「何なん倍ばい？」
「八はち倍ばいだな」
「え……それでこの値段ねだんなの？」
「ああ」
「まじでか……」

　冒険ぼうけん者しゃが来きて、コント[skit]みたいな会話かいわをしていた。
　あー、どうも量産りょうさんしすぎたせいで、値段ねだんがめっちゃ安やすくできたんだよね。

　あと他ほかの冒険ぼうけん者しゃに聞きいたんだけど、王都おうとで手てに入はいる収納しゅうのうの魔道具まどうぐは三さん倍ばい圧縮あっしゅくが普通ふつうで、高たかくても五ご倍ばいぐらい。
　これは八はち倍ばいぐらいだね。
　お値段ねだんは三さん倍ばい圧縮あっしゅくのお店みせの三さん分ぶんの一いちくらいらしいよ。

「えっといくらだけ」
「お値段ねだん丁度ちょうど金貨きんか一いち枚まい」
「高たかいけど、けども。めっちゃ安やす」

　普通ふつうのお店みせは金貨きんか三さん枚まいぐらいのお値段ねだんなんだね。
　収納しゅうのう石せきの一いち回分かいぶんで、私わたしなら何なん個こもできるから、コストcostパフォーperfor-マンスmanceが全然ぜんぜん違ちがうらしい。
　魔力まりょくポーションpotionはというか回復かいふくポーションpotionもそうなんだけど、何なん個こもたくさん飲のむと、ポーションpotion中毒ちゅうどくという症状しょうじょうが出でて、酷ひどいと場合ばあいによっては死しんでしまう。
　元もとのリュックサックrucksackもちょっと高たかいというのも問題もんだいだったりするし。

　すぐに携帯けいたい炉ろが欲ほしいと思おもっていたけど、収納しゅうのうのリュックruckも需要じゅようがあるなあと子供こどもたちを見みていて思おもいついたのが、よかったみたい。
　いやあ、直感ちょっかんって当あたるといいよね。
　当あたらないと悲惨ひさんだけど。

　それから噂うわさを聞ききつけた冒険ぼうけん者しゃが来くるわ来くるわ。
　王都おうとでは、あんまり冒険ぼうけん者しゃがいないといっても、西にしの森もりに行いく人ひとはそこそこの数かずいるらしい。

「収納しゅうのうのリュックruck、まだ売うってますか」
「収納しゅうのうのリュックruckの話はなし聞きいて来きたぜ」
「なんか収納しゅうのうのリュックruckがすげえお買かい得どくって」

　続々ぞくぞく来くる。

「収納しゅうのうのリュックruck、あの、借金しゃっきんでいいので、売うってくれませんか……」
「いやあ、さすがに借金しゃっきんはだめですね。どこかで借かりてくるならいいですけど」
「そうですか」

　しょんぼりしていく、ちょっと貧乏びんぼうそうな青年せいねん。
　ごめんね、さすがに借金しゃっきんで売うるのは無理むりだわ。うちも安やすく売うっているから、儲もうけもそこまで大おおきいわけじゃないし。

　これはもしかしたら、普通ふつうの値段ねだんで売うれば、丸儲まるもうけなのでは。
　あ、でもそんなに高たかかったら買かえないのか、みんな。
　高たかいと売うれない。
　安やすいと儲もうけがあんまりでない。
　なかなかいい塩梅あんばいを探さがすのは難むずかしい。
　こればっかりは、今いままでの経験けいけんだけでは無理むりだった。

「ちょっとミレーユさん」

　あ、お店みせに直接ちょくせつメイラさんが走はしって来くる。超ちょう珍めずらしい。
　今日きょうも美うつくしいですねお姉ねえさん。

「あ、はい。ミレーユです。ご機嫌きげん麗うるわしゅう」
「はいはい。挨拶あいさつとかいいから、この騒さわぎ、なんなの、収納しゅうのうのリュックruckですってね」
「お耳みみが早はやいようで、はい。ちょっと量産りょうさんしてしまいまして、一掃いっそうセールsaleなんですよ」
「一掃いっそうセールsaleだったのか」
「あ、いえ、あの、ずっとこの値段ねだんで売うる予定よていなんですけど」
「それはセールsaleとは言いわない」
「あ、はい」
「どうしてこうなったんだ」
「いやあ、あのう」
「悪わるい、奥おく通とおしてくれるかい」
「はい」

　お店みせの奥おく、二に階かいに上あがって話はなしを続つづける。
　事ことのいきさつ、収納しゅうのう石せきをちょっとお買かい得どくに買かい込こんだことと、自分じぶんには量産りょうさんが可能かのうなことを説明せつめいした。

「はあ、まったく」
「普通ふつうに作つくっただけですよ。ちょっと子供こどもたちの分ぶんのついでに」
「ついででこれか」
「いやあ、まあ、面目めんぼくない」
「で、もっと量産りょうさんできるの？」
「やろうと思おもえば、もうちょっといけますね。ただリュックruckを買かってこないといけなくて、それが面倒めんどうくさいんです」
「分わかった。リュックruckはこっちで何なんとかする」
「え、あれ」
「協力きょうりょくしよう。なにギルドguildに頼たよってくれ」
「あーよかった。めっちゃ怒おこられるのかと思おもっていた」
「いや怒おこりたくても、もう売うってしまっている。後あとの祭まつりだ」
「そうですね」

　こうしてリュックruckの増産ぞうさんがギルドguildの加盟かめい店てんで行おこなわれている。在庫ざいこも回まわしてもらっている。
　お値段ねだんも小売こうりで買かってくるより、なんと安やすい。卸値おろしねで買かえた。
　お得とくお得とく。

　私わたしはせっせと、集あつまったリュックruckを可能かのうな限かぎり、八はち倍ばい圧縮あっしゅくの収納しゅうのうの魔道具まどうぐにしていった。

　商人しょうにんたちにも飛とぶように売うれていた。
　ポーションpotionみたいにナマモノではないので、あればあるだけ売うれるらしい。
　でも、そう簡単かんたんにも行いかない。
　王都おうとでの収納しゅうのう石せきの在庫ざいこが消きえた。他ほかの業者ぎょうしゃも焦あせって買かい集あつめているらしく、収納しゅうのう石せきの値段ねだんも上あがり気味ぎみだった。
　収納しゅうのう石せきはもともと高値たかねだったためにそこまで売うれていなくて需要じゅようが無ないとみなされていた。その在庫ざいこが少すくなかったのが問題もんだいだったらしい。
　収納しゅうのう石せきがないと、収納しゅうのうのリュックruckにはできない。継続けいぞく販売はんばいは無理むりということになって、一度いちど撤退てったいということになる。

　それでも高たかい商品しょうひんの利益りえきは桁けたが違ちがって、それなりの儲もうけにはなりました。