●５１ 王都おうとで火事かじだよ

　九月くがつに入はいって、ちょっとずつ涼すずしくなってきた。
　先月せんげつも滞とどこおりなく、各所かくしょに支払しはらいを済すませて、あとベッドbedセットsetの借金しゃっきんも払はらってもう大丈夫だいじょうぶになりました。

　そんなある日ひ。

　カンカンカンカン。

　鐘かねが鳴なる音おとが、王都おうと内ないに響ひびき渡わたった。

「え、なに？」
「ミレーユさん、火事かじみたいです。この音おとは間違まちがいないです」

　マリーちゃんが跳とんできた。

「ささ、見みに行いきましょう。近ちかくだったら荷物にもつ持もって逃にげないと、死しんじゃいますよ」
「あ、そうだね」

　確たしかにお隣となりとかその隣となりという可能かのう性せいもないわけではない。
　王都おうとの建物たてものは、ベースbaseは石造いしづくりなんだけど、屋根やねとか柱はしらとか梁【はり】なんかは、木きの家いえが多おおい。
　だからけっこう燃もえ移うつる可能かのう性せいがある。
　こういうとき、密集みっしゅうして建たっている王都おうとみたいな大都市だいとしは危険きけんだ。

「あ、ちょっとまって、あるポーションpotion全部ぜんぶ持もってく」
「あ、はい、手伝てつだいます」
「じゃあ私わたし、一応いちおう、練ねり薬草やくそうとか集あつめてきます」

　私わたしとシャロちゃんでポーションpotionを集あつめて、その他ほかの関連かんれん製品せいひんをマリーちゃんにお願ねがいして集あつめる。

「よし、だいたいオーケーOKey」
「ではいきましょう」
「行いきます」

　三さん人にんで収納しゅうのうのリュックruckを背負せおって、空そらを見上みあげる。
　煙けむりはどっちだ。あっちだ。住宅じゅうたく街がいの方向ほうこう、やや貧困ひんこん街がいが近ちかいと思おもう。

　万まんが一いちということもある。
　貧困ひんこん街がいは場合ばあいによっては、放火ほうかされることもある。怖こわい人ひとはいる。

　三さん人にんで煙けむりを目指めざして走はしった。

「あ、二人ふたり共ともは速はやいよぉ」

　シャロちゃんがすでにへばっていたので、ちょっと足あしを遅おくらせる。
　三さん人にんで行いった方ほうがいい。

　煙けむりはどんどん近ちかくなっている。

　角かどを曲まがったらなるほど、まだ消火しょうか中ちゅうだった。
　珍めずらしい王立おうりつ騎士きし団だんの魔術まじゅつ師し部隊ぶたいが、魔法まほうの水みずで火ひを消けしていた。

　揃そろいの紫むらさきのマントmantleがその威厳いげんを表あらわしている。紋章もんしょうは鷹【たか】に杖つえだ。

　いちいち水みずを汲くみ上あげて、バケツbucketで消けしていては間まに合あわない。
　町まちに火ひが回まわったら、魔術まじゅつ師し部隊ぶたいの人数にんずうではとても消けせなくて、王都おうと全体ぜんたいが燃もえてしまうかもしれない。
　だから魔術まじゅつ師し部隊ぶたいは、すぐにやってくる。
　初期しょき消火しょうかは重要じゅうようだった。

　空そらとか飛とんで来きたらすごいんだけど、残念ざんねんだけど魔術まじゅつ師し部隊ぶたいで空そらを飛とべる人ひとはいない。
　いやあ、世よの中なかには空そらを飛とんだりする人ひともいる。
　自分じぶんで飛とんでるわけではないけど、ワイバーンWyvern部隊ぶたいも数かずは少すくないものの王都おうとにはいて、昼間ひるまはだいたい交代こうたいで誰だれか一人ひとりは空そらを飛とんでいる。

　だから王都おうとの空そらには一いち羽わのワイバーンWyvernが必かならず見みえる。
　さすがに夜よるは飛とんでないけど。

「お疲つかれ様さまです。錬金術れんきんじゅつ師しです。ポーションpotionをどうぞ」
「ああ、助たすかります」

　魔術まじゅつ師し部隊ぶたいの人ひとにポーションpotionがあるのを伝つたえる。
　基本きほん的てきに攻撃こうげき魔法まほうと回復かいふく魔法まほうは系統けいとうが違ちがっていて、両方りょうほうできる人ひとは少すくない。

　住民じゅうみんの人ひとで火傷やけどをした人ひとなどが、横よこたわっているので、具合ぐあいを見みて、ポーションpotionを使つかっていく。
　中級ちゅうきゅうポーションpotionと低級ていきゅうポーションpotionを患者かんじゃの容体ようだいを見みながら、使つかい分わけていく。
　そして隠かくし財産ざいさんである、中ちゅう上級じょうきゅうポーションpotionも三さん本ぼんだけある。いざという時ときは使つかおう。

　午前ごぜん中ちゅうだけどポーションpotionの準備じゅんびは終おわっていたし、昨日きのうまでの残のこりのポーションpotionもある。

「助たすかります」
「ありがとうございます」

　ポーションpotionで一ひと通とおり生いきている人ひとを回復かいふくさせた。
　その後あとは、一応いちおう元気げんきそうな魔術まじゅつ師し部隊ぶたいにも、練ねり薬草やくそうを配くばっていく。

「お、練ねり薬草やくそうか。珍めずらしいな、ありがたい」
「いえいえ」

「どこの錬金術れんきんじゅつ師しだい？　見みない顔かおだ」
「え、あはい、私わたし、ミレーユ錬金術れんきんじゅつ調薬ちょうやく店てんのミレーユです」
「あっ、あの、例れいの」
「例れいの？」
「いえ、今年ことしに入はいってから噂うわさはかねがね」
「は、はあ」

　そう言いわれてしまうと、ちょっと照てれる。
　いい噂うわさならいいけど、どうだろうね。変へんなこと言いわれていたら、恥はずかしい。

　話はなしかけられたのは、背せがとても高たかい魔術まじゅつ師し部隊ぶたいの隊長たいちょうらしい。
　他ほかの人ひとが敬意けいいを払はらっているのが分わかる。

「なるほど、確たしかに。うんうん、えらいえらいねぇ」

　頭あたまをなでなでされた。
　むむ。また子供こども扱こいじゃん。もう。レディーladyだって言いってるのに。

「もうっ、子供こどもじゃないですからね」
「ああ、こりゃあ失礼しつれいしました」
「いえ、いいんです」

　きりっとした顔かおをしていた。
　さすがに火事かじ現場げんばで、にこにこするわけではないみたい。そういうところは場ばをわきまえている。えらい。

　緊急きんきゅう性せいの高たかい人ひとは、秘蔵ひぞうのポーションpotionで助たすかっていた。あってよかった、ポーションpotion様様さまさま。