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少年賢者アルム・サロクの事件簿 ~小さい天才は謎を相手に無双する~ 【魔法陣殺人事件】編

現場検証と、学者たちの見解。そして、アルムの見解。
 メイドの一人が大慌てで村の駐在を連れてきたと同時、ごうごうと燃えていた書斎の炎はようやく鎮火した。

「こ、こりゃひどい! けが人は!?」
「マーカス、マーカスが中に!」
「何だって!? マーカス様が!?」

 駐在が新館へと駆けこんでいく。気になったので、俺も後を追った。

「あ、こら、君! あぶな……」
「リリー!」
「はーい!」

 止めようとする大人たちをリリーにブロックさせ、俺は新館の中へと飛び込んだ。

 新館は旧館と比べてやはりというか、綺麗なものだ。壁もつやつやしていて、汚れの一つもない。駐在が駆けていくのを着いて行くように、俺も3階へと駆けあがる。そして現場の書斎へとやってくると、そこでようやく駐在が俺に気づいた。

「あ、こら! 君、どこから入った!?」
「……これは……!!」

 書斎だったであろう部屋は、もはや書斎とは呼べないありさまとなっている。何しろ、書と呼べるものはことごとく燃えて焼け焦げてしまっていたからだ。

「……ひ、酷いな。それに、焦げ臭い」

 駐在は顔をしかめていたが、床に落ちていたあるものをつまみ上げた。

「……何だ、これは?」
「見せて!」

 駐在の拾った紙を見ると、ほとんど燃えてしまっているが、円の一部のような紋様が描かれているのがわかる。

 それを見て、俺はピンときた。

(……【魔法陣】……!!)

 紋様となっているのは、【魔法陣】に使われている【魔法文字】である。しかもそこに書かれているのは、ランベルト侯爵の代名詞ともいえる、【増幅魔法陣】に共通する文字だ。

「何だこりゃ? 何かの絵か?」
「これ、【魔法陣】だよ。それにこれ、多分【爆発魔法の魔法陣】だと思う」
「ば、【爆発魔法】っ!?」

 マーカスの趣味嗜好など知るところではないが、少なくとも自分の書斎に爆発物を置いておくようなことはないだろう。そして【魔法陣】ということは、それ以外に考えられない。

 つまり、この部屋で【爆発魔法】が発動したということだ。

「なんてこった!!」
「……ちょっと失礼するよ」

 駐在がショックを受けている間に、俺は爆発現場に入る。吹き飛んだ部屋には、窓から飛んできたと同じく、マーカスの着ていた衣服の切れ端が散らばっていた。

「……ん?」

 現場の足元に、きらきら光るものを見つける。そっと拾ってみると、それは黄色く光る何かの欠片だ。

「何だろう、これ……?」
「こら! 子供が現場に入っちゃいかん!」

 そこで駐在のおじさんに摘まみだされ、俺は書斎から追い出されてしまった。
 そして追い出された書斎の外には、神妙な顔をした大人たちがいる。その横には、リリーも。

「……アルム・サロクくん。君は、どう見るかね? この現象を」

 ここにいる全員、その道のプロたちだ。つまりは、魔術学者たち。「賢者の里」出身である俺の見解を聞きたいんだろう。

「……書斎には、【魔法陣】がありました。恐らく、爆発の原因は、【爆発魔法】です」
「ふむ。やはりそうか。我々も、同じ見解だよ」

 学者は満足そうに、俺の目を見てほほ笑んだ。

「これは、【爆発魔法の魔法陣】が発動したことによるもの。――――――つまりは、事故だ」

「ええ。【魔法陣】は本来、魔力を外部に依存します。魔力を流し込む媒介となる者がいない限り、魔法は発動しませんからな」

「そして、現場に散乱しているマーカス殿の衣服を見るに、発動の媒介となったのは、彼自身」

「うっかり地面に落ちていた【魔法陣】を踏んだか、あるいは余興として発動させようとして火力調整を誤ったか……その、いずれかでしょう。いずれにせよ、悼ましいものですな」

「で、では……これは、事故ってことですか?」
「うむ、間違いなかろう」

 妙齢の学者の発言に、駐在はすっかり信じ込んでしまったらしい。そのまま、「じゃあ、詳しい事故の経緯をお伺いしたいんですが……!」と、一緒に歩き去ってしまった。

「……パパ、これは本当に事故なの?」
「……いや、違う……」

 この現場には事故で片付けるには強い違和感がある。現場で拾った黄色い欠片。【爆発魔法】、そして【魔法陣】……。

「……これは、殺人だよ……!!」

 俺は強く、はっきりと言い切った。
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