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少年賢者アルム・サロクの事件簿 ~小さい天才は謎を相手に無双する~ 【魔法陣殺人事件】編

終話:少年賢者には難しい謎。
「……という、事件だったんです」
「なるほど。いやぁ、つくづく俺が行かなくて良かったなあ」

 事件後、ベイカーンに戻って来た俺は、ホルムス卿にことの顛末を報告していた。
 ホルムス卿も事前に噂は聞いていたようで、帰って早々、彼の屋敷へと連れ込まれたのである。

「結果オーライでしょ。普通、貴族がパーティーサボって冒険者に行かせるなんて、前代未聞ですよ」
「まあそう言うな。……前代未聞と言えば、ランベルト家な。改易処分だってよ」
「え!?」
「扱いとしては、お家乗っ取りの罪。ま、不倫は貴族文化の華だが、明文化されてるわけじゃない。公になっちまった以上、処分はしないとな」

 つまりは、やるならバレないようにやれ、ということか。

「あの領地は隣の領主が均等に分けるだろうさ。しばらくは騒がしいかもだが、じきに落ちつくだろうよ」
「じゃあ、屋敷の人たちは……」
「彼らの再就職先を探すのが、ランベルト侯爵最後の仕事さ」
「……そう」

 それを聞いてちょっと安心した。ギルバーツやフジノはある意味事件の関係者だが、セバスチャン含む他の使用人たちは、巻き込まれただけだし。どうするのだろうと、心配だったのだ。

「いやー、それにしても、お前の評判はえらい事になってるぞ。何せ、ほぼ現場に入らずに、犯人を当てちまったんだからな! さすがは「賢者の里」の末裔だよ、お前は」
「……別に、殺人はクイズじゃないんだ。当てたところで、あんまり嬉しくもないよ」

 ……それに。あの事件について、俺には一つだけ、解けない謎がある。

 それがどうにも引っかかってしまって、今は食事もあまり喉を通らないのだ。

******

 それは事件が終わり、メリナの家に帰る時のことだ。

「アルムくんは、凄いね。本当に解決しちゃったし、マーカス様も見つけちゃうんだもの!」
「……それなんだけど、メリナさん、ちょっといいかな?」
「あら、なぁに?」

 首を傾げる彼女に、俺は我慢できずに聞いた。ずっと聞きたくて仕方なかった事があったのだ。

「聞き込みしてる時に聞いたんだけど……メリナさん、【昔は夜まで屋敷で働いていた】って、ホント?」

 そう。新館についての聞き込みをしていて、俺は気付いてしまったのだ。

 昼過ぎに帰るメイドは、メリナしかいないことを。他の使用人も早番遅番はあれど、昼過ぎに帰る人はいない。

 と、なれば。マーカスが決まってメリナの着替えを覗いていたとしても、彼女以外は誰もいないという事になる。

 それも、彼女のシフトが変わったのは、新館が出来上がり程なくしてのことらしい。これはセバスチャンにも確認したので間違い無いはずだ。

「メリナさん、貴方……知ってたんじゃない? マーカスさんが、自分を覗いていたことに……」

 俺の問いかけに、メリナは目を丸くする。
 そして次の瞬間には、悪戯っぽく笑った。

「……さあ。どうだろうねぇ?」

 そのまま帰路を歩く背中を、俺もリリーも、ポカンと見つめることしかできず。

 迎えの馬車が来たので、俺たちはそのまま帰って来てしまったのだ。

******

「……こんな感じ。証拠も何もないから、どうにもならないんだけどね」
「ほうほう、ほう……」

 俺の話を、ホルムス卿は傾聴していた――――――ニヤニヤ笑いながら。

「それは何とも、また興味深いな!」
「知ってたのか、それとも知らなかったのか。どっちなのか、どうにも分からなくて……」
「ふふん。それは違うぞ、アルム。俺にはわかる」
「へ?」

「そのメリナって女はな、知っても知らなくもない。ただ、【わかってた】んだ」

「……はぁ?」

 ホルムス卿の自信満々の答えに、俺は間の抜けた声を出してしまった。
 言っている意味がわからない。それは、知っていることになるんじゃないの?

「ちっちっち。【知っている】と【わかっている】は、似て非なるもんだぜ。女ってのは、鋭いからな。そういう視線には気づくもんさ」
「……それなら何で教えてくれなかったんだろ。そうすれば、もっと早く事件解決できたかもしれないのに……」
「あっはっはっは! いやぁ、わかってない! 実にわかってないぞ、アルム!」

 大笑いするホルムス卿に、俺はイラッとくる。何だよ、人が悩んでいるのを嬉しそうに。

「なーに、心配するな。お前さんもあと5年……いや、3年もすれば、わかるようになるさ。自然とな」
「そんなにわかるまでかかるのかよ!?」

 俺が不満げに叫ぶのを見て、ホルムス卿はさらに腹を抱えて笑い転げていた……。

<了>

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