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少年賢者アルム・サロクの事件簿 ~小さい天才は謎を相手に無双する~ 【魔法陣殺人事件】編

少年賢者の推理:ランベルト先代侯爵の秘密
 俺が指さしたことにより、全員が驚愕の表情で見やる中、ダリアは不思議なほどにぽかんとした顔をする。

 だがしばらくすると、くすくすと笑い始めた。

「……何か、おかしいですか?」
「い、いや、ごめんなさいね? やっぱり、子供だなぁと思って。さっきまでの推理は素晴らしかったと思うけど、そこまで発想がとんでしまうあたりが、ね?」

 挑発のように聞こえるが、不思議と嫌な感じはしない。彼女のおっとりとした雰囲気や言い方が、そう感じさせるのだろうか。……まるで人畜無害、殺人などというおぞましい行為ができるとは、周囲には思えないくらい。

 だが、俺のたどり着いた結論が確かなら、彼女こそがマーカスを手にかけている。それを、引き下がるわけにはいかない。

「……それに、どうして私なのかしら? マーカスの属性を知っていてこのお屋敷に昔からいるのなら、もう一人いると思うのだけど……」
「それは、ご主人のギルバーツ侯爵の事ですよね?」
「なっ!? わ、ワシだと!?」

 俺とダリアの会話に、ギルバーツはぎくりと身を震わせた。

「だ、ダリア!? 何を言って……」
「彼は犯人ではありませんよ。さっきも言ったでしょ、【高度な魔術の知識がある人が犯人】だって」

 そう。ギルバーツにそんな知識がないのは、昨日の時点ですでに分かっている。
 彼は俺が書きなぐった計算式を見て、心の底から何のことだかわかっていなかった。つまり、彼にそういった知識はない。なので、シロ。

「昨日俺が計算したことを踏まえると、犯人はかなり用意周到な準備をしていたはずなんですよ。それくらい、今回の犯行は計画的だったんだ」
「……計算、ね。夫も昨日言っていたけど、貴方昨日、何を計算していたの?」

「【爆発の規模】と、【角度】。そして、【距離】だよ」

 その瞬間だ。柔和な笑みを浮かべていた彼女の、表情に揺らぎが生じたのは。

 ほかのギャラリーたちも、何だったらアインハルトすらも、一体何のことを言っているのか理解できないでいる。このキーワードに反応するのが、紛れもなく犯人だという証拠だ。

「……【角度】と【距離】……? 【爆発の規模】なら、まだわかるが……」
「い、一体何の……?」
「そもそもあの爆発には、さらに役割があったんだ。【雷魔法の痕跡を消すこと以外にも】ね」

 その証拠となるのは、書斎の後ろの壁。爆発で吹き飛んだあの壁に、どうしても違和感があった。

 書斎周辺の部屋には影響がなかったのに、何で後ろの壁だけ被害があったのか? いや、どうして敢えて被害をもたらしたのか?

「……これもカモフラージュだったんだよ。【爆発を起こすためのキーアイテムを、書斎から移動させるため】のね」
「……さっきから、何を言っているのかさっぱりわからないのだけど……?」
「さっき言っただろ? 【水属性のマーカスさんでは爆発魔法陣を起動することはできない】って。だったら、【別の何かで魔法陣を起動したことになる】」
「だ、だが、【魔法陣】は魔力を流し込まなければならない。【炎属性の魔力】が必要になると、君が言っていたじゃないか」

「そう。だから彼女は、【炎属性の魔力を流した】んですよ」
「……ふ、ふふふふ。本当に面白い推理だけど、それは無理よ。だって私、【爆発の時には皆さんと一緒に広間にいた】のよ?」

 そう。爆発の瞬間には、ダリアには完璧なアリバイがある。一般的な【爆発魔法陣】は、魔力を流してすぐに発動するものだ。つまり、彼女は爆発を起こすことはできない。――――――あくまで、一般的には。

「……それを可能にするヒントが、書斎に落ちてたんだよ。……それが、これだ」

 俺はハンカチに包み込んだあるものを取り出して、彼女の前に突きつける。黄色い、何かの欠片だ。

「……それは、何?」
「とぼけても無駄だよ。貴方が爆発で隠滅しようとした、マーカスさんを殺した凶器さ」
「な、何を言っている? マーカス様を殺したのは、【雷魔法の魔法陣】だと……!」
「その【雷魔法を発動させるために使った触媒】。この欠片は、それさ」

 俺は欠片を、学者たちに見せる。ルーペで観察していた学者の一人が、目を大きく見開いた。

「……これは、【トパーズ】じゃないか……!!」

 学者の言葉に、ダリアの穏やかな雰囲気が大きく揺らいだ。頬には汗が滴り、唇を緩くだが噛みしめている。この事実に、彼女は気づかれたくなかったのだろう。

「そう。この欠片は【トパーズ】。言わずと知れた、名のある宝石。宝石商の間でも、幅広く、高く取引されている」
「で、でも、ここは侯爵家よ? 家に宝石の一つや二つ、あっても、おかしくないわ!」
一つや二つじゃない。 この屋敷にはもっと沢山宝石があったはずだ! 【先代侯爵がかき集めていたんだから】!」
「……っ!!」

 ダリアの表情が大きく歪んだ。やはり、この点こそが、この事件に使われたトリックの重要なところなのだ。

「……アルムくん、貴方、まさか……!?」
「――――――30年以上前、先代侯爵の時代、【彼は、増税してまで宝石を買っていた】。それは、魔術研究のため」
「魔術研究……ま、まさか!」
「そう。ランベルト侯爵の魔術の専門は、【魔法陣】じゃない」

 【魔法陣】なんかよりももっと、資金が必要な魔術。単純に、研究対象が高価なものである魔術。

「――――――【ランベルト侯爵の魔術の専門は、宝石魔術だったんだ】!!」
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