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裏庭が裏ダンジョンでした

一番てっぺんに! 2
 この外の世界には黒く長い髪で、一見戦闘にしか興味が無いように見えて実は主人公が大好きなことを隠している女と。

 金髪を左右で結んで意地悪な事を言いながらも実は主人公が好きで好きでたまらない女が居ること。

 そして、見ると胸が高鳴る挿絵、祖父から話には聞いていた『女』とやらの挿絵の笑顔を見ると、ドキドキして夜眠れなくなってしまったこと。

 ムツヤは外の世界に出てみたくなった。

 そして、そのハーレムというものを作ってみたくなる。

 そんなムツヤだったが、この場所と外の世界は『けっかい』とか言う青白く光る壁で隔たれていた。

 これがまたやっかいで、剣で斬りつけても弾かれ、触ると電気が走って物凄く痛いのだ。

 脚力を魔法で強化して飛び越そうとしても、どこまでもどこまでも空高く壁は続いている。

 ムツヤは何度もその壁を壊そうとした。それはもう何度も壊そうとした。

 壊そうとして『スゲー爆発が起こる玉』を何度も投げつけた事もある。

 100個ぐらい投げつけてもビクともしなかった時はちょっとだけ涙が出た事もあった。

 そんなある時にムツヤを見かねてか祖父のタカクが言う。

「外の世界は危険だ、お前が行ってもすぐに怪物の餌食になってしまうだろう」

 組んでいた腕を崩してタカクは続けて言う。

「しかし、あの裏の塔の最上階にまで行けるぐらい力を身につけたらこの結界を解いて外の世界へと行かせてやろう」

 その言葉を聞いた日からムツヤは塔の最上階を目指す日々が始まった。

 物心が付く前から塔の60階までは冒険をしていたムツヤだったが、そこから先の階段には『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』が居る。

 近付きたくなかったので、いつもそこまで行って帰ってを繰り返していた。

 それでも塔は毎回入る度に使い道も名前も知らないけど、面白そうな物がたくさん落ちている。

 そして、それを試して遊ぶモンスターも充分に居たので、遊ぶだけだったら退屈はしなかった。

 ムツヤは塔の外まで来るとカバンから鎧を取り出す。

 走る時に邪魔になるので装備はこの便利な肩掛けのカバンにしまってある。

 だが、カバンは剣を入れるには少し小さいように見えた。

 中身が入っていたとしても全然膨らみが無かったのだが、カバンから取り出されたムツヤの手にはしっかりと鎧が握られている。

 仕掛けは簡単で、このカバンは念じながら手を突っ込むと入れておいた物をすぐに取り出せるのだ。

 更にいくらでも入るし、食べ物や薬を入れても腐らないのでムツヤの大切な宝物だった。

 まぁ、宝物と言ってもこのカバンは年に1度ぐらいは落ちているので家には10個以上予備はあるのだが。

 その予備はただ家に置いても仕方がないので、1つはタカクが体調を崩した時にと薬をたくさん入れたカバンを作ってある。

 他には多くとった魚やモンスターの肉、食べきれなかった食事も入れておく食料の備蓄用に家に1つと。

 もう1つはカバンの口を広げられたままトイレの底に置かれている。こうすると臭わない上に虫も沸かず、肥溜めに持っていく時も楽なのだ。

 後はゴミ箱に2つ使い、残りは特に使い道が思い浮かばなかったので家のタンスに入れてある。

 このカバンは使い道によっては無限の可能性があるはずだった。

 商人であれば、自分の身と馬一頭あれば無数のキャラバン隊を連れる事が出来るようなものだ。

 ありとあらゆる物を入れて移動し、売って莫大な富を生み出す事が可能だろう。

 戦争で使うのならば、余剰の武器をしまい込み、軍隊の移動中の負担を減らせる上に、腐らずに調理済みの食事がいつでも取り出せる夢のような武器庫兼兵糧庫にもなる。

 そんな、夢のような道具がご家庭の救急箱と貯蔵庫。

 それならまだマシだが、トイレにも使われている事を商人や軍師達が知ったらと思うといたたまれない。

 このカバンの存在を知ったら彼らどころか世界中の人間が喉から手が出るぐらいに欲しがるだろう。

 そんなカバン自体が値千金であるというのに、収集癖と貧乏性を兼ね備えたムツヤは基本的に塔で拾ったものは全部このカバンの中にしまっていた。

 取れた腕がくっつく薬から、何に使うのか分からない道具まで全てだ。悪知恵の働くものがこのカバンを手にしたらと思うと恐ろしい。

 話は戻り、ムツヤは裏ダンジョンである塔の扉を開けて中に入る。まず出迎えて来るのは『でっかいサワガニ』みたいなモンスターだ。

 こいつはムツヤが5歳の時から戦っているのでもはや敵というより親しみのあるおもちゃのような扱いだ。

 一度、飼ってみようと思い、家に連れて帰ってみたが、餌をやろうが撫でてやろうが襲いかかってくるので、諦めて手刀で粉砕した。

 その際にムツヤは加減を誤って部屋中にかにみそを飛び散らせ、タカクに酷く怒られたのを覚えている。
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