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少年賢者アルム・サロクの事件簿 ~小さい天才は謎を相手に無双する~ 【魔法陣殺人事件】編

溢れる叡智、止まらぬ計算、折れる筆。
 ――――――セバスチャンから得た情報は、決定的だった。

「……やっぱりな! これで、爆破についても説明がつく!」
「そうなの?」

 厨房でもらったフルーツが気に入ったのか、リリーは俺の横でもの凄い勢いで食べている。少し残ってれば十分だし、別に証拠というわけでもないからまあ別にいいんだけど、あんまり食べ過ぎないでほしい。

「ああ、だが、となると、不自然なことがある。これだよ」

 俺は懐から、現場で見つけた黄色い欠片を取り出す。リリーはきらきら光る欠片を、「わぁ、綺麗……」と目を輝かせながら見ていた。

「ねぇパパ、これ、何なの?」
「これか? これはな――――――」

 俺の答えに、リリーは目を丸くして、首を傾げた。

「……え? 何でそんなものが、爆発現場にあったの?」
「それは、これが殺人の凶器だからだよ。そして、爆発に必要なものは、別で用意していたはず。それが、現場にはなかった。そりゃそうだよ、あればすぐにバレちまうんだから」
「……それって、遺体の事?」
「いや、遺体じゃない。遺体と別にもうひとつ、あの現場には本来あるべきものがなかったんだ」
「じゃあ、それはどこにあるの?」

 リリーの疑問に、俺はニヤリと笑う。その笑顔に、リリーは何か、嫌な予感を感じたらしい。そっと、俺から距離を取ろうとする。
 だが、逃がさない。俺はリリーの腕をつかむと、ギラリと目を光らせた。

「リリー!」
「な、何……? パパ、目が怖いんだけど……」

 怯えるリリーに対し、俺は彼女に、ある命令を下した。悪魔使いデモンテイマーとして。

「――――――紙とペン、借りられるだけ借りて来てくれ。屋敷中からだ」

*****

 屋敷内が、にわかに騒がしくなってきた。一体何事かと、使用人やセバスチャン、さらには賓客の学者たちまで、騒ぎの元となっている場所に集まり始める。

「……一体、何事かね? 騒がしいが」
「あ、旦那様!」

 屋敷のざわつきを聞きつけたギルバーツ・ランベルト侯爵が、人だかりの出来ている場所でメイドの一人に問うた。

「……ダリアが体調を崩している。できれば、静かにしてほしいのだが……」
「申し訳ありません。ですが、あれを……」
「あれ?」

 メイドにそう言われてギルバーツが覗き込んだ場所。それは、旧館にある図書室。
 そこで、彼が目にしたのは――――――。

「……あれは、アルム・サロクくんか?」

 学者たちが「おお……」と息を呑みながら、俺を見ている。俺の隣では、リリーが恥ずかしそうにしながら、大量の紙束を持っている。
 そして、俺が何をやっているかと言えば。

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッ!!

 ものすごい勢いで、紙に何かを書き殴っていた――――――。

*****

 机に大量に置かれた紙の上で、俺は一心不乱に書きまくる。
 あまりにも勢いよく書くので、ペンが折れたり、インクがなくなったりしたものは、そのまま投げ捨てて次を書く。

「―――――――ペン!」
「はいっ」

 まるで手術の助手のように、リリーは俺の言ったタイミングでペンを差し出してくる。屋敷から借りられるだけ借りたそうだが、足りるかどうかは怪しい。

 そして書きなぐりながら、俺は思考を急激に加速させていく。

 ――――――爆発事故。

 ――――――書斎と後ろの壁の爆発。

 ――――――ギルバーツ侯爵の「乾杯」の音頭。

 ――――――現場になかった、マーカスの遺体。

 ――――――黄色い欠片。

 ――――――先代侯爵の研究。

 ――――――厨房でもらった、パーティーで食べた果実。

 数式を書き殴りながら、俺の思考はすらすらと、事象も頭の中で整理し、結びつけていく。

 そして、大量の紙とペンを犠牲にして、図書室の一角で机に向かい続けること、実に10分。

「――――――全部、見えたぞ……!! 真実って奴が!!」

 ボキっ!!

「あぁ――――――――――――っ!?」

 俺が最後の数式を完成させると同時、持っていたペンも限界を迎えた。
 全身汗だくで、ほぼ呼吸も最低限になっていた俺は、息も絶え絶え。喉がとんでもなくカラカラで、視界も少しぼやける。

「パパ、大丈夫!?」
「……リリー、水くれ、水……ぜぇ、ぜぇ……!」
「う、うん!」

 リリーが手渡した水を一息に飲み干すと、ようやく視界が元に戻ってきた。……思っていたより、たくさんの人に注目されている。

「あ、アルムくん。これは一体何事かね……!?」
「……今回の事件で気になったことと、その計算式です」

 散乱した紙を見やりながら戸惑う侯爵に気づいた俺は、息絶え絶えでそう答えた。
 あの状態で集中していると、完全に周りが見えなくなってしまうのが難点だ。呼吸することも忘れてしまうので、答えが出ないといつまでも集中し続けて、最悪死んでしまう。なのでおおよその答えの目星がついた時でないと、こんな芸当はできないのだが――――――。

「……気になったこと、とな?」
「はい。―――――謎は、全て解けました……!」
「……あ、アルムくん……! 君……! それ、それは……!」
「はい?」

 ぽかんとする侯爵の横で、学者の一人である老人がわなわなと震えながら、俺の方を見ていた。何だろうと思ったら、俺の手にある折れたペンを指さしている。

 どこかで見覚えがあると思ったら、この人が開発したという「考えたことをありのままに書ける魔法のペン」だった。……真っ二つになっているけど。

「……リリー?」
「ペンが足りなくなっちゃったから、そのおじいさんから借りたの」
「そ、そのペン……開発するのに、いくらかかったと……!?」

 わなわなと震えた学者は、そのまま白目を剥いて倒れてしまった。

 ――――――道理で、最後の方は自分でもすらすら書けると思ったよ。
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