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琵琶湖のフランケン

命とはなにか
「退屈だなあ」

――俺は、リュウイチロウ。三十歳を越えてほとんど経っていない、おっさんになりたての怪我人だ。
 詳細は話せないが昔に遭った事故が原因で右足を失って以来、滋賀県の琵琶湖近辺で無職として過ごしている。
 生活費は一応、同居している弟が少しばかりだが稼いでくれているし、実家の父と母も、片足をなくした件を気の毒に思ってくれたのか金を送ってくれる。
 もっとも、それでもなお贅沢と縁遠い生活をしているのには変わりない。俺は今日も琵琶湖で、遊びと食料調達を兼ねたバス釣りをしている。

――こんな体になるずっと前から今に至るまで、母ちゃんを除けば男性の親族とダチばかりに囲まれていた俺だが、そんな俺に突然妹分ができることになった。

「……ほら、食えよ」

 釣り上げた大きなバスやコイをゴザの上に敷いてやると、ボロボロの衣服を着た、小さな女がヤブから出てきた。その女には、角が生えていた。そして俺がなくした方とは反対の脚が、金属でできていた。右手も同じく、作り物だった。

「……アムアム」

 汚らしい咀嚼音をあげながら、寄生虫がついているかもしれないのにも関わらずこいつはいつも生で川魚を食べている。
 こいつは肉や魚しか食べないみたいだが、内臓もキッチリ残さず食べて、骨だけにするのは見事だ。

「……ゴチソウ、サマ。リュウ」

 最近は一応、俺のあだ名と「ごちそうさまでした」が言えるくらい言葉を覚えてきたようだが、こいつと初対面の時、俺は死を覚悟したほどだった。
 見た目は人間の面影はあるが、獣同然の知性しかなかったこいつは、俺を食べようとしてきた。その時、晩飯にするつもりだったバスの入ったクーラーボックス倒してバスをぶちまけたのが、九死に一生を得た瞬間だった。
 こいつは、生のままバスを一匹残さず食べてしまった。俺は運よく助かったことよりも、獣のように生のまま肉を食らうこの女への恐怖が勝ってしまった。

――こいつと初めて出会った場所は、お気に入りの釣り場だったが、こうなったら捨てざるを得なかった。
 だが、別の釣り場に移っても、こいつは俺を追いかけてきた。だが魚の味を覚えたのか、俺を襲うようなことはせずに、釣ったバスやコイを要求するようになった。

 はじめは、死ぬのが怖いからという理由でエサをやっていたが、こいつがだんだん俺になついてきた頃には、恐怖を感じることはなくなった。




 そんな日々を半年以上過ごした後だった。俺は突然滋賀県警に任意同行を求められ、弟の車で指定の警察署に行くことになった。
――そこで見たのは、半年以上ずっと一緒に過ごしてきた妹分の亡骸であった。
 俺と警察は互いに問い詰めあった。

『なぜ、こいつを殺した』『なぜ、この娘を匿った』

 話し合いにまるでならないまま、警察署を出る際に一人の男が捨て台詞のようにこう言った。

「――身寄りのない男が、身寄りのないフランケンシュタインに心ひかれたか」

――言葉の意味は、わからなかった。だけど、妹分が本当にこいつらの言う「フランケンシュタインの怪物」であったと初めから知っていたとしても、きっと見捨てなかっただろう。
 片足をなくしてまともに働けなくなった俺も、人間のワガママで連れてこられたブラックバスも、あの警察官達も含めて五体満足で働いている社会人達も、そしてなにより、そしてなにより、俺の妹分も! すべて明日を生きる権利がある命なのに変わりはない!

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