■第だい３７話わ　エルフちゃんとお正月しょうがつ

　新年しんねん、元旦がんたん。朝あさの七時しちじに一家いっかで居間いまに集合しゅうごうした。
　ちなみに本来ほんらいなら「元旦がんたん」は新年しんねんの朝あさのことで「元日がんじつ」とは異ことなるが、近年きんねんよく混同こんどうされる。
　うちの居間いまには小ちいさな神棚かみだながある。最近さいきんの家いえには珍めずらしいが災害さいがいや自国じこく文化ぶんかに詳くわしい親父おやじだけはある。
　家長かちょうの親父おやじが徳利とっくりを神棚かみだなに捧ささげる。

　パンパン。

「あけまして、あけましておめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」

　神社じんじゃに参拝さんぱいするのと同おなじように神棚かみだなに祈いのる。

「それじゃあ、お神酒みきね」
「お神酒みきですぅ」
「ふふ」

　目めを輝かがやかせるララちゃんに妹いもうとのエリカがふふっと笑わらう。
　うん、うちは平和へいわだ。素晴すばらしい。
　徳利とっくりに日本酒にほんしゅが入いれてある。
　盃さかずきをそれぞれ順番じゅんばんに持もち、少量しょうりょう入いれて呑のむ。
　未成年みせいねんは匂においを嗅かぐだけだ。口くちをつけてもいい。
　俺おれはあまり好すきではないけど、神事しんじだからと思おもっている。

「これが日本酒にほんしゅですぅ」
「うん。異世界いせかいではどうなの？」
「えへへ、ワインが多おおいですかねぇ」
「ワイン飲のむんだ？」
「たまに少すこしだけですぅ」
「なるほど」

　ちょっとだけ飲のむらしい。
　食前酒しょくぜんしゅみたいな感覚かんかくだろうか。

「お年玉としだまだぞ」
「「「わーい」」」

　俺おれたち三人さんにんともお年玉としだまを貰もらった。

「ごごご、五万ごまん円えんも入はいっていますっ」
「みんな去年きょねんは頑張がんばったからな、出血しゅっけつ大だいサービスだ」
「「「やったーー」」」

　俺おれも一緒いっしょになって大喜おおよろこびをした。
　ララちゃんは異世界いせかいから来きたのに頑張がんばった。そしてエリカを治なおした。
　エリカは病気びょうきだったのに頑張がんばった。成績せいせきはぐんぐん伸のびていて埼台さいだい東ひがし高校こうこうの合格ごうかくラインまで登のぼってきた。
　俺おれはララちゃんやエリカのサポートを主おもに頑張がんばった。
　ピンポーン。

「おはようございます」
「おお、新年しんねんあけましておめでとう。ハルカ」
「新年しんねんあけましておめでとうございます。景都けいと」

　別べつに何なにがあるわけでもないけどふふっと笑わらう。新年しんねんからいい感かんじだ。

「おおハルカちゃん、はいお年玉としだま」
「ありがとうございます」

　ハルカはまだ親戚しんせきではないがうちとハルカんちの仲なかなのでこうしてお年玉としだまを上あげる風習ふうしゅうがあった。

「おじさん、五万ごまん円えん！　こんなにたくさん」
「去年きょねんはエリカの病気びょうきも治なおってみんな頑張がんばったからな、特別とくべつサービス」
「ありがとうございます」

　ハルカがぺこぺこ頭あたまを下さげる。
　別べつに正月しょうがつだからといっても普段着ふだんぎだ。薄うすピンクのダウンジャケットがかわいい。
　下したはこのくそ寒さむいのに青あおいミニスカートだったりするんで、女子高生じょしこうせいは侮あなどれない。

「ではまた新学期しんがっきに」
「おお、じゃあな」

　俺おれたちは山やまの方ほうへ行いっておじいちゃんちをハシゴする。
　父方ちちかたと母方ははかたと両方りょうほうへ行いった。
　ララちゃんの分ぶんのお年玉としだまもちゃんと貰もらえた。どちらも一万いちまん円えん。
　お昼ひるはお雑煮ぞうにを御馳走ごちそうになった。
　わが県けんでは雑煮ぞうにはお餅もちの醤油しょうゆベースの澄すまし汁じるで、味噌みそやお汁粉しるこ系けいではない。

　年賀状ねんがじょうも配達はいたつされてきた。
　友達ともだちやおじいちゃんの家ち、それからタクシーのおじいちゃんと孫娘まごむすめの瑞希みずきちゃんからもきていた。
　瑞希みずきちゃんも一ひとつ下したで妹いもうとと同おなじ学年がくねんだ。
　年賀状ねんがじょうには『調子ちょうしがよく、もうすぐ退院たいいんです』と写真しゃしんと共ともに印刷いんさつされていた。
　手書てがきで『本当ほんとうにありがとうございました』と追記ついきされている。
　高校こうこうが別べつになった中学ちゅうがくの友達ともだちとも何名なんめいか年賀状ねんがじょうは続つづいている。男子だんしだけだけど。

　夕ゆうご飯はんは豪勢ごうせいだった。
　茹ゆでカニ、生なまエビ、ホタテの大おおきな貝柱かいばしら、本ほんマグロのお刺身さしみ、それから数かずの子こ。
　あとおせちセットが置おかれている。

「美味おいしいモノいっぱいですぅ」
「あぁ、これが日本にほんのお正月しょうがつ、だと思おもう」
「すごいですぅ。まるで貴族きぞくみたいですぅ」
「あはは、ララちゃん貴族きぞくか、いいね、貴族きぞく」

　親父おやじにも大おおうけだった。
　実じつをいえばここまで豪華ごうかなのは初はじめてだ。よっぽどエリカが回復かいふくしたのがうれしいと見みえる。
　まあそれだけ今いままでずっと苦労くろうしてきたということだろう。

　二日ふつか三日みっかとカニとおせちの残のこりそれから雑煮ぞうにを食たべた。
　四日よっかはうちではキムチ鍋なべだ。締しめのチーズトッピングの雑炊ぞうすいも忘わすれない。
　毎日まいにち忙いそがしく過すぎていく。
　新学期しんがっきが始はじまり一月いちがつ七日なのか。学校がっこうから戻もどってきて今日きょうの夕ゆうご飯はんはアレと決きまっていた。

「雑草ざっそう雑炊ぞうすいですかぁ」
「まあそんな感かんじ。七草粥ななくさがゆっていうんだ」
「ほへぇ」

　春はるの七草ななくさを入いれて食たべる。厄除やくよけなのかな、よくは知しらないけど。

「それじゃあ、景都けいと、エリカ、ララちゃん、しっかりやってね」
「ああ、行いってらっしゃい。転移てんい門もんはどう？」
「発掘はっくつが順調じゅんちょうに進すすんでる。いつ起動きどうするか分わからないから手探てさぐりだけど一周年いっしゅうねんには間まに合あわせる」
「分わかった。頑張がんばって」
「おおっ！　行いってくる」
「行いってきます～」

　両親りょうしんが家いえから出でていく。
　両親りょうしんのちょっと長ながい年末ねんまつ年始ねんし休やすみはこうして終おわりを告つげた。
　遺跡いせきの発掘はっくつが進すすんでいて忙いそがしいらしい。
　場所ばしょは南みなみ太平洋たいへいようの聞きいたことがないような島国しまぐにだそうだ。

　それに前後ぜんごして日曜日にちようび。
　この日ひ、地区ちくのどんど焼やきというお祭まつりがあった。
　場所ばしょは東川とうせん寺じの境内けいだいだ。神社じんじゃでやる場合ばあいもある。
　うちの近所きんじょだと規模きぼは小ちいさいけど吉田神社よしだじんじゃとかでやっていると思おもう。

「なにこれぇ、火ひが燃もえてるですぅ」
「ああ、こういう行事ぎょうじ」
「変かわっていますねぇ」
「そうかもね」

　うちにもしめ縄なわの正月しょうがつ飾かざりがあった。
　今年ことしは両親りょうしんが年末ねんまつに買かってきた豪華ごうかなものが使つかわれた。ダイダイもついていた。
　門松かどまつまではさすがに置おいていない。
　正月しょうがつ飾かざりは燃もやしてしまい、ダイダイは長ながい竹たけの棒ぼうの先端せんたんに刺さす。
　そうして飾かざりなどを燃もやしている炎ほのおでダイダイを焼やくのだ。
　餅もちも一緒いっしょに焼やくこともある。

「お餅もち熱あついですぅ」
「気きをつけて食たべて」
「はいですぅ」
「久ひさしぶりだなぁ」

　妹いもうとも懐なつかしんでいた。
　ダイダイは竹たけの棒ぼうのまま玄関げんかん付近ふきんに刺さして魔除まよけとするんだと思おもう。

　ララちゃんがお餅もちを頬張ほおばってる顔かおはほっぺが膨ふくらんでいて子こリスみたいで思おもわず写真しゃしんを撮とりたくなるくらいかわいかった。