■第だい２５話わ　エルフちゃんと防災ぼうさい訓練くんれん

　夏休なつやすみ後半こうはん。
　父親ちちおやと母親ははおやが俺おれんちに帰かえってきた。いわゆるお盆休ぼんやすみだ。

「ただいま、ケート、ララちゃん元気げんきにしてる？」
「おかえりお母かあさん、親父おやじ」
「こんにちはっ、お久ひさしぶりですぅ」

　ということで数日すうじつ間かん、俺おれんちに泊とまっていくというと変へんか。自分じぶんの家いえだから。
　別べつに前まえから出張しゅっちょうも多おおかったが中学ちゅうがくに上あがってから母親ははおやまで一緒いっしょにくっついていくようになって、妹いもうとは入院にゅういんをするようになり、俺おれは一人ひとりで生活せいかつしてきた。
　親おやがいることにもいないことにも別段べつだんなんとも思おもわない。

　それでさっそく最近さいきん元気げんきになってきた妹いもうとの病院びょういんへ車くるまで向むかう。
　父親ちちおやの自家用車じかようしゃだが、なんだかこれに乗のるのは懐なつかしい感かんじがする。

「元気げんきだった？　エリカ？」
「お母かあさん、お父とうさん、あのね、あのね、私わたし、もうだいぶ元気げんきになって、そのうち退院たいいんできそうなんだよ」
「あらそうなの？　よかったじゃない、おめでとう」
「おめでとう、エリカ」

　父親ちちおやも母親ははおやも目頭めがしらが熱あつい。
　海外かいがいを飛とび回まわっていたが、その目的もくてきの一ひとつにエリカの治療ちりょうを探さがすことがあった。
　公式こうしきには何なにもないことになっているが、もしかしたら国際こくさい問題もんだい児じのエルフのララちゃんを日本にほんで受うけ入いれさせて家いえにまで連つれてきたのは、そういうカラクリがある可能性かのうせいはあった。
　それが実みを結むすんだとしたら、これほどうれしいことはないだろう。

　病院びょういんスタッフもいるので、父親ちちおやも母親ははおやもララちゃんについて言及げんきゅうはしない。なかなかの仮面かめんっぷりだが、本心ほんしんでは感謝かんしゃをささげているのだろう。
　たまにララちゃんのほうをチラチラ見みていた。

「ララお姉ねえちゃんには、本当ほんとうによくしてもらってるよ。それからお見舞みまいのお兄にいちゃんもハルカお姉ねえちゃんにも」
「ああ、よかったな」
「うんっ」

　前まえはこうやって元気げんきに振舞ふるまおうとして返事へんじをすると、すぐ咳せき込こんだりしていた。
　今いまはもう本当ほんとうに平気へいきらしい。
　顔色かおいろも前まえはもっと青白あおじろい感かんじだったが頬ほおがほんのり赤あかくなって、元気げんきを取とり戻もどしてきているのが分わかるほどだ。
　こうやって見みると妹いもうともかなりの美少女びしょうじょだな。シスコン兄あにの補正ほせいを抜ぬきにしても、そう思おもう。

　妹いもうとは相変あいかわらず原因げんいん不明ふめいということになっていて病院びょういんから出でられないので、俺おれたちは母親ははおやの実家じっかとこの前まえにもキャンプで行いった父親ちちおやの実家じっかの両方りょうほうに顔かおを出だして、墓参はかまいりをした。

「ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが眠ねむっているんですねぇ」
「そうだよ。その後あとは順番じゅんばんにお墓はかに入はいるのが日本にほんの伝統でんとう」
「なるほどぉ。エルフの里さとだと一族いちぞくごとに墓地ぼちがあるけれどお墓はかは個人こじんごとですねぇ」
「なるほどねぇ」

　そっかお墓はかの作つくり方かたも国くにによって違ちがう。

「火葬かそうなのは一緒いっしょですね。エルフの里さとというか向むこうの世界せかいではゾンビになってしまうので」
「おう、そうだった。怖こわっ」
「ゾンビは怖こわいですよぅ。ごく稀まれに森もりの中なかの死体したいがゾンビになって襲おそってくるですぅ。冒険者ぼうけんしゃは命いのちがけなのですぅ」
「ララちゃんよくそんな職業しょくぎょうしてたよね」
「冒険者ぼうけんしゃはあこがれの職業しょくぎょうですからねぇ。一攫千金いっかくせんきんも夢ゆめじゃないんですよぉ」
「なるほど」

　夏休なつやすみも終おわり、防災ぼうさい訓練くんれんがあった。

『訓練くんれん。地震じしんです、地震じしんです。これは訓練くんれんです』
「わわっ、なんですかこれっ」

　事前じぜんに知しらされているとはいえ、今いままでなかった放送ほうそうにララちゃんもびっくりしている。
　机つくえの下したに隠かくれることになっているので頭あたまを突つっ込こむ。
　それから防災頭巾ぼうさいずきんというものがあるので、それを被かぶって並ならんで校庭こうていに避難ひなんする。

「なんだか軍隊ぐんたいみたいですぅ」
「まあそう思おもうよな」

　なんというか自分じぶんが知しってる範囲はんいの知識ちしきだと空襲くうしゅう警報けいほうの避難ひなんに似にている。いややったことはないけど。軍隊ぐんたいっぽい集団しゅうだん行動こうどうなのもまあそうだろう。
　地震じしんや火災かさいで実際じっさいに避難ひなんが必要ひつようになる可能性かのうせいは常つねにある。
　この日本にほん列島れっとうに住すんでいれば実感じっかん自体じたいは誰だれにだってあるだろう。
　ただ自分じぶんの番ばんが回まわってくるとはあまり思おもっていないのも事実じじつだと思おもう。

「頭あたまを保護ほごするんですねぇ」
「そうだよ」
「確たしかに冒険者ぼうけんしゃも頭あたまが取とれちゃって死しんだ子ことかもいましたね」
「怖こわいこと言いうね」
「手足てあしの怪我けがならひたすら痛いたいですけど、ハイポーションを使つかえばほとんど治なおるんですけど、なぜか頭あたまはダメなんですよねぇ」
「なぜかって、まあ、なんでって言いわれると脳のうみそが入はいってるから、だよな、うん」
「頭あたまが取とれたら頭あたまを復活ふっかつさせちゃダメなんですかね」
「自意識じいしきって頭あたまに詰つまってると考かんがえられるから、さすがに頭あたまがないのはダメなんだろうね」
「なるほど、地球ちきゅうのほうが医学いがくというのが進すすんでいるんですね」
「らしいね。でもポーションで治なおるならそれでもいいよね」
「はいっ」

　どちらかではなく両方りょうほうできれば万々歳ばんばんざいだと思おもう。
　こうしてララちゃんも防災ぼうさい訓練くんれんをして、また一ひとつ経験けいけん値ちを積つんだ。
　やはり見みるだけと経験けいけんするのでは違ちがうようで、感心かんしんしていた。

「夏なつもいよいよ終おわりですねぇ」
「うん」
「次つぎは何なにですかぁ」
「えっとね、体育たいいく祭さいだね。運動会うんどうかい」
「体育たいいく祭さいなんですか運動会うんどうかいなんですか？」
「えっと学校がっこうによるね。うちは体育たいいく祭さいだと思おもう」
「なんで名前なまえが違ちがうんでしょうね」
「さぁ俺おれも考かんがえたことがなかったから」
「不思議ふしぎですぅ」

　さすがエルフさん。色々いろいろ疑問ぎもんに思おもうようで俺おれたちは当あたり前まえだと思おもっていることでも、聞きいてみるとなるほどそれも疑問ぎもんだなというのが結構けっこうある。
　ということで次つぎは体育たいいく祭さいだ。
　みんなララちゃんとハルカの活躍かつやくが見みれるとあって、最近さいきん張はり切きっている。まったく男おとこってやつはこれだから。
　まあ俺おれも男おとこなので楽たのしみではある。他人たにんのことは言いえない。