■第だい２１話わ　エルフちゃんと夏休なつやすみ

　七月しちがつも下旬げじゅん。もうすぐ海うみの日ひを挟はさんで夏休なつやすみになる。
　終業しゅうぎょう式しきで校長こうちょう先生せんせいが長ながい話はなしをしていた。

「えーあー、みなさんも事故じこに気きを付つけて、変へんな気きを起おこさないで、楽たのしく過すごしてください」

　どこかの本ほんからネタを頂戴ちょうだいしたらしく、埼台さいだい市しの成なり立たちがどうとかこうとか、戦国せんごく武将ぶしょうの誰だれそれが領土りょうどとしていたとか、江戸時代えどじだいには川かわでの輸送ゆそうが発達はったつして米こめを江戸えどに運はこぶための要衝ようしょうだったとか、いろいろだ。
　とにかく終業しゅうぎょう式しきも終おわり、教室きょうしつへ戻もどる。

「あぁぁ、テストも返かえってきたし、やっと終おわりだな」

　俺おれたちの班はんは四人よにんとも赤点あかてんはない。

「ケート君くん、夏休なつやすみ、夏休なつやすみですよ」
「ああ、そうだな」
「私わたし、初はじめての夏休なつやすみです。アニメで見みました。ソロキャンプとかするんですよね」
「まあキャンプには行いこうか。おじいちゃんちが県内けんないなんだけど山やまの方ほうの近ちかくの川岸かわぎしにキャンプ場じょうがあるんだ」
「いいですね。行いきましょう」
「あと夏祭なつまつり。埼台さいだい市しも毎年まいとし、利根川とねがわで花火はなび大会たいかいがある」
「それもいいですね。お祭まつりっ、私わたし憧あこがれです。アニメで見みました。浴衣ゆかたを着きるんです。あと露店ろてんめぐりですね」
「おお、そうそう、そんな感かんじ。実際じっさいに行いくと思おもったよりしょぼかったりするけど」
「そうなんですか。でも雰囲気ふんいきですよね。雰囲気ふんいき」
「まあね」

　ララちゃんがうれしそうにぴょんぴょん跳はねる。
　まあ跳はねるとお胸むね様さまもぽよんぽよん揺ゆれるわけですが、眼福がんぷく、眼福がんぷく。
　ただ前まえの席せきのクラスメートたちも視線しせんをチラッチラさせてララちゃんの胸むねが揺ゆれるのを盗ぬすみ見みている。
　まったく情なさけない。俺おれみたいに会話かいわを装よそおいつつ堂々どうどうと見みれないのかね。

「海水浴かいすいよくにも行いこう。あと市民しみんプール」
「海うみだったりプールだったりするんですか？」
「うん。海うみは波なみがあるししょっぱいし、プールは市内しないで近ちかいから楽らくだよ」
「そうですね。海うみはえっとちょっと遠とおいです」
「ああ一時間いちじかん以上いじょうかかるね」

　海うみは行いくとしたら湘南しょうなん方面ほうめんになってしまう。東京とうきょうを抜ぬけて神奈川かながわの中央ちゅうおうまで行いかないといけない。
　直線距離ちょくせんきょりで言いえばもう少すこし近ちかくもあるけど、いい感かんじに電車でんしゃが走はしっていない。

「あのですね。エルフの里さとにもあるんですよ、夏休なつやすみ」
「へえぇぇ」
「こちらでいうところのバカンスですね」
「おおぉお、バカンス」

　なにやらカッコイイ響ひびきのある言葉ことば、バカンス。

「それまでにお金かねを貯ためておいて、二週間にしゅうかんぐらい休やすむんです」
「へぇ」
「それで、エルフの森もりの中なかには何なんか所しょも泉いずみがあるんですけど、そちらに泊とまりに行いくんです」
「いいね、泉いずみ。ちょっとエルフの泉いずみとか行いってみたい」
「でしょでしょ」

　うれしそうにエルフの里さとの話はなしをする。

「まあ帰かえれないんですけどね」
「う、うん」

　ちょっとだけしんみりする。

「でも今いまはケート君くんがいるから平気へいきですぅ」

　ニコニコ笑顔えがおを俺おれに向むけてくれる。プライスレス。
　俺おれは鼻はなの下したを伸のばしてしまいそうだ。かわええのう。
　孫まごを見みるおじいちゃんみたいな気持きもちだ。

「いっぱい遊あそびましょうね」
「おう」

　こうして午前ごぜん中ちゅうだけの終業しゅうぎょう式しきをしてハルカも一緒いっしょに家いえに帰かえる。

　翌日よくじつ。

「朝あさですよぅ」
「おう、もう朝あさか」
「今日きょうはゆっくりさんですね。ケート君くん」
「今日きょうから夏休なつやすみだからな」
「えへへ、じゃあ私わたしもゆっくりします」

　二人ふたりで朝あさご飯はんを作つくって食たべる。
　そうはいっても味噌汁みそしるの素もとと冷凍れいとうご飯はんを解凍かいとうして卵たまごを割わり、卵たまごかけご飯はんにする。

「えへへ、卵たまごかけご飯はんですぅ」
「ララちゃんは平気へいきなんだよね、生卵なまたまご」
「はいっ。食たべたのはこちらに来きて初はじめててでしたけど平気へいきでしたぁ」
「そっか」

　もちろん生卵なまたまごはダメという人ひともいるだろう。特とくに外国がいこくの人ひとは。
　出汁だし醤油しょうゆをひとかけして混まぜる。
　チーズを入いれてもまた違ちがう味あじになって美味おいしいが、今日きょうはノーマルタイプとしよう。

「エルフの里さとにもニワトリとか卵たまごとかはあるんだよね」
「ありますね。特とくにニワトリはその辺へんを歩あるき回まわってますぅ」
「ああ、なんか想像そうぞうできる」

　というか東南とうなんアジアみたいな雰囲気ふんいきをイメージしてしまう。
　よくニワトリが放はなし飼がいにされている。あとブタなんかもいる。

「ブタとかは？」
「いますよ。ブタさんもウシさんもその辺へんを歩あるいていますぅ」
「お、おう」
「それからサラマンダーとかロック鳥ちょうとかもいますね」
「それはそれは」

　ファンタジー生物せいぶつも一緒いっしょに生活せいかつしているのか。
　まあそりゃそうか。

「忘わすれてはいけないのがアースドレイクさんです」
「なんとなく分わかるけどどんな子こなの？」
「背せの低ひくいゾウさんみたいな亜あ竜りゅうですね。大おおきな荷車にぐるまを引ひくのに使つかうんですよ。それから軍隊ぐんたいでは戦車せんしゃにも使つかわれていますぅ」
「ほう、アースドレイクの戦車せんしゃか。なるほど」
「アースドレイクさん同士どうしだと道幅みちはばいっぱいでぎりぎりなんですぅ」
「だろうなぁ」

　エルフの里さとはなんだか動物どうぶつ園えんみたいに賑にぎやかそうだ。
　道みちも小ちいさいネコとかから巨大きょだいなアースドレイクまで通とおると。
　日本にほんみたいにトラックはなくてもアースドレイクという子こがいるのだ。

　一度いちどでいいから行いってみたいな。
　早はやく転移てんい門もんとかできないのだろうか。
　世界せかいが存在そんざいしていて一度いちどはゲートが通つうじたんだからできそうな気きがするけど。

　お盆ぼんには親父おやじたちも一度いちど戻もどってくるはずだ。
　メインの用事ようじとしては妹いもうとのお見舞みまいだけど、墓参はかまいりももちろんする。
　今年ことしはララちゃんも連つれていくのだろう。