■第だい２話わ　エルフちゃんは俺おれの家族かぞくになった

　俺おれがパスタをペペロンチーノのもとを使つかって簡単かんたんに作つくり、今いまから夕ゆうご飯はんを食たべるところだ。

「すごいすごい、ケート君くん。お料理りょうりもなんでもできるんですねぇ」
「いや、簡単かんたんな料理りょうりだけだよ。日本にほんには『○○のもと』っていう半分はんぶんの具材ぐざいと調味料ちょうみりょうが入はいっていて、それ使つかうだけであとメインを用意よういすれば料理りょうりになるものがあるんだ」
「へぇ、なんにせよ日本にほんの料理りょうってすごいんですねぇ」
「ははは、まあそう思おもってくれてもいいよ」
「うんうん」

　そうして二人ふたりで席せきについて、手てを合あわせる。

「「いただきます」」

　その辺へんの礼儀れいぎ作法さほうはすでに知しっていたようで、一緒いっしょに手てを合あわせて挨拶あいさつを済すませる。
　そういえばお箸はしは使つかうのだろうか、異世界いせかいとやらのエルフちゃんは。

　今いまはパスタなので器用きようにフォークを使つかって麺めんを口くちに運はこんでいた。
　それにしても食たべている美少女びしょうじょの顔かおもなんともイケない感かんじではあるし、その下したにもいけないおっぱい様さまが鎮座ちんざしていて、俺おれの目めからするとどこ見みたらいいのか分わからない。

　顔かおをじろじろ見みるのもおっぱいを凝視ぎょうしするのも失礼しつれいだ。
　まあ見みてもいいとは言いわれているので、見みちゃうけど。

　だってその存在感そんざいかんは一際ひときわ目立めだつ。
　まったく圧倒的あっとうてきだよ我わがエルフ軍ぐんは。オークなんて目めではない。
　これなら対たい魔ま戦争せんそうも余裕よゆうで勝かてそうな魔力まりょくタンクが目めの前まえに二ふたつある。
　ハイファイアが十じゅっ発ぱつは撃うてそう。知しらんけど。

　パスタを食たべながらファンタジーなことを考かんがえる。
　まあでもオークさんはこの世界せかいにいないし、エルフ軍ぐんも対たい魔ま戦争せんそうも俺おれの想像そうぞうでしかない。異世界いせかいがどうなっているかはまだ聞きいていない。
　異世界いせかいのことを聞きき始はじめたら、あれもこれもって妖怪ようかい「ねほりはほり」になってしまいそうだ。
　俺おれは何なんと言いっても、異世界いせかいに目めがない。
　ゲーム、ラノベ、漫画まんが、アニメ。異世界いせかいモノには数多かずおおく手てを出だしてきた。俺おれにだって基礎きそ教養きょうようくらいはある。
　ただし俺おれの基礎きそ教養きょうようにあるのは、すべてが空想くうそうであって、エルフの彼女かのじょのようにリアルの出来事できごとではなかった。
　もしかしたらララちゃんのような存在そんざいが過去かこにもいて、その情報じょうほうが人伝ひとづてに伝つたわっていった結果けっか、ゲームの異世界いせかいモノの世界観せかいかんに影響えいきょうを与あたえている可能性かのうせいもある。
　俺おれの親父おやじが外交官がいこうかんのフリをして、本来ほんらいの業務ぎょうむはそういう異世界いせかい人じんや宇宙人うちゅうじんを相手あいてにしている時点じてんで、何なにかしらこの世界せかいにもあるのだ。不思議ふしぎなことが。

　すごいワクワクしてくる。
　せっかくだからダンジョンとかできないだろうか。富士ふじの樹海じゅかいあたりとかに。
　それで一大いちだいテーマパークにして、緑みどりの制服せいふくを着きた美少女びしょうじょエルフのガイドさんと地下ちかダンジョン探検たんけんツアーとか行いくんだ。
　冒険者ぼうけんしゃっていうのもやってみたい。
　宝箱たからばこを開あけて中なかから伝説でんせつの剣けんやマジックアーマー、秘薬ひやくとかを探さがして集あつめるんだ。
　たまにミミックとか罠わな解除かいじょとかもして、女おんなの子ことパーティーなんか組くんじゃったりして。

　いいねいいね。ハイファンも好すきだけど、そういうダンジョン物もののローファンも好すきだよ。

　そして目めの前まえに意識いしきを戻もどす。
　金髪きんぱつ碧眼へきがん、とんがり耳みみ。異世界いせかいの美少女びしょうじょエルフちゃんがうちの居間いまでペペロンチーノをむしゃむしゃしている。
　なんだこれ。
　すげーかわいい。いや、かわいいのはいいんだ。
　おっぱいがすごい。うん、そうだった、おっぱいもべつにいい。よくないけど、今いまは置おいておく。

　そうじゃなくて、実じつは俺おれの父親ちちおや、すごいんでは。
　あのエルフちゃんがうちでご飯はん食たべてんだよ。

　すごい場違ばちがい感かん。ぜったいここにいてはいけない存在そんざいが、家いえにいる。

「それで留学生りゅうがくせいなんでしょう？　何なにしに来きたの？」
「えっ……」

　エルフのララちゃんが目めを丸まるくして、ちょっと挙動不審きょどうふしんになる。

「あの……私わたし、留学生りゅうがくせいっていうのは建前たてまえで、ここに定住ていじゅうしようと思おもってきたんです。あの、最初さいしょ世界せかい中じゅうの国くにという国くに、探さがし回まわったのに、どこの国くにもエルフなんて受うけ入いれてくれなくて、……ふえぇえええええ、わああんんん」

　泣なき出だしてしまった。
　シクッ、シクシクッ、と声こえを詰つまらせる。
　あ、そんなつもりなかったのにどうしよう。

　でも彼女かのじょは泣なき笑わらいを浮うかべて、ニヘラと笑わらったんだ。

「……それで、あなたのお父とうさんだけが世界せかいで唯一ゆいいつ、受うけ入いれを表明ひょうめいしてくれたんです。どこにもいくところがなかった、私わたしを」
「そうだったのか」
「はい。世界せかいでここだけが、私わたしがいられる場所ばしょなんですぅ」
「そっか」

　パスタはすでに食たべ終おわっていた。
　泣なき出だしてしまったララちゃんを見みて、ちょっと俺おれもしんみりする。
　そうか。そういう事情じじょうだったのか。
　それを親父おやじが拾ひろってきたのか。
　まるで雨あめの日ひの捨すて猫ねこだな。道みち行いく人ひとは段だんボールを無視むしして歩あるいていく。猫ねこがいかにも入はいっていそうだったとしても、分わかっていてあえて無視むしをする。そこに一人ひとり子猫こねこの鳴なき声ごえを聞きき付つけて、立たち止どまる少女しょうじょ。
　少女しょうじょじゃなくておっさんだったけど、で実際じっさいに一緒いっしょに住すむのは少女しょうじょでもおっさんでもなく、俺おれなんだな。

「大変たいへんだったんだ。いいんだよ。ここにいても。ここは今日きょうからララちゃんの家いえだから。俺おれが……家族かぞくに、なるよ」
「ありがとう。ありがとうございますぅ」
「ああ」
「あ、あれ、あっ、うそ、うれしいのに、こんなにうれしいのに、涙なみだが」
「ふふっ、うれしくても涙なみだが出でることだってあるさ」

　ぽろっ、ぽろっ目めから大粒おおつぶの涙なみだが両目りょうめから順番じゅんばんに落おちて、それを必死ひっしに両手りょうてで拾ひろっている。
　でも拾ひろうのも難むずかしくて、ぽろぽろこぼれていく。

「家族かぞく、なんですね。私わたしたち、家族かぞくになったんだ。うれしいです。ありがとうございます」
「いいって、そんな」
「うれしいっ、うれしいですぅ」

　泣なき止やんだ彼女かのじょは、とびきりの笑顔えがおを俺おれにくれた。