■第だい１８話わ　エルフちゃんと雨模様あめもよう

　六月ろくがつのある日ひ。
　連日れんじつの雨天うてんだったが今日きょうは晴はれ間まが覗のぞいている。

　ゴオオオオオオオ。

　低ひくいエンジン音おとが聞きこえていた。

「飛行機ひこうき、飛とんでますねぇ」
「ああ」
「まるで鉄てつのドラゴンみたいでカッコいいですぅ」
「鉄てつのドラゴンか、言いい得えて妙みょうだな」
「はいっ」

　異世界いせかいのドラゴンが飛とんでる世界せかいとは。
　遠とおくならいいけどよく考かんがえたらめちゃくちゃ物騒ぶっそうでは。

「ランドルフは赤竜せきりゅうで東ひがしのベリドントン山脈さんみゃくに住すんでるんですよ」
「お、おう」
「アイバリスタは青竜せいりょうで北きたのマダグダスカル山さんに住すんでいて、仲なかがいいんです。よく空そらの上うえで合流ごうりゅうして一緒いっしょに飛とんでますね」
「へぇ」
「竜りゅうが飛とんだあともあんなふうに」

　そういって空そらの飛行機雲ひこうきぐもを指差ゆびさす。

「飛行機雲ひこうきぐもができるんです。竜りゅうは静しずかに飛とびますけどね」

　ララちゃんがここまで具体的ぐたいてきなことを話はなすのは久ひさしぶりかもしれない。
　少すこし寂さみしそうな顔かおをしていた。懐なつかしいのだろうし、やっぱり帰かえりたいよな。
　見みつめていると以前いぜんはなんともなかったのに、今いまはすぐに目線めせんが泳およいで顔かおを赤あかくする。
　キスをして以来いらいなので思おもい出だしてしまうのだろう。

「危あぶなくはないの？」
「危あぶないとはなんですか？」
「いや、竜りゅうとかいて」
「大丈夫だいじょうぶですよ。会話かいわもできて頭あたまもいいのでめったに人間にんげんを襲おそうことはないんです」
「へぇぇ。小説しょうせつとかだと一夜いちやで王都おうとを火ひの海うみにして壊滅かいめつさせたとかあるよな」
「あはは、よほど人間にんげんにいじわるされたんでしょうね。竜りゅうさんが可哀想かわいそうですねぇ」
「なるほど」
「人間にんげんだって腸ちょうが煮にえくり返かえるほどイヤなことされたら怒おこりますよ。竜りゅうも同おなじです」
「そうだね」

　ララちゃんも普段ふだんほわわんとしている分ぶん、本気ほんきで怒おこらせたらめちゃくちゃ怖こわそう。
　物理的ぶつりてきに雷かみなりが落おちるかも。ライトニングが四方八方しほうはっぽうを破壊はかいし尽つくすかもしれない。

　また妹いもうとのところへ行いく。

「エリカ、調子ちょうしはどうだ」
「こんにちはぁ」
「こんにちは、ララお姉ねえちゃん」
「あとハルカは？」
「ハルカさんもたまに来きてくれますよ。ありがたいです。えへへ」

　毎週まいしゅう一回いっかいは妹いもうとのところへ俺おれたちは通とおっている。

「じゃあ、さっそく治療ちりょうしようかぁ」
「うん。あっお兄にいちゃんはあっち向むいてて」
「ういうい」
「では始はじめますぅ」

　ララちゃんが普段ふだん見みせないような真剣しんけんな顔かおで妹いもうとの手てを握にぎる。

「んっ、あんっ、んっんんんっ、あぁあ、んん」

　なんかよく分わからんが感かんじるらしくて妹いもうとに似につかわしくない変へんな嬌きょう声せいを出だす。
　顔かおも赤あかくなってトロンとした目めになる。
　こういってはなんだが妹いもうとのくせに妙みょうにエロい。

「ありがとうございました。んんっ」

　プルプルッと震ふるえる。変へんな刺激しげきが全身ぜんしんを駆かけ抜ぬけることがあるらしい。
　妹いもうとは恥はずかしいからあまり俺おれに見みせたがらないが、俺おれは妹いもうとが心配しんぱいなので一挙手いっきょしゅ一投足いっとうそくすべて見みていたい。

「あっお兄にいちゃん見みてたでしょ、もうっ」
「わりいわりい」

　口くちでは謝あやまるが俺おれは見みるのはやめるつもりもない。
　こうして毎回まいかい妹いもうとに注意ちゅういされていればいいんだ。
　減へるもんでもないし。

　毎週まいしゅうちょっとずつ魔力まりょくを与あたえていく。ララちゃん由来ゆらいの魔力まりょくは妹いもうとの魔力まりょくと混まじり合あい体からだに馴染なじんでいくそうな。
　流ながす魔力まりょくはだんだん多おおくなってきている。このまま順調じゅんちょうに魔力まりょくが全身ぜんしんを正常せいじょうに流ながれるようになれば回復かいふくも近ちかいらしい。

「もうだいぶ調子ちょうし良よくて、すぐに退院たいいんできそうだと思おもう」
「エリカちゃんはそうですねぇ。大事だいじを見みてもあと三さんか月げつくらいですかなぁ」
「さ、三さんか月げつうぅぅ、早はやく退院たいいんしたい」
「まぁもう治なおるの確定かくていみたいなもんだし、今いまのうちに病院びょういんで遊あそんどけよ。家いえ帰かえってきたら受験じゅけん勉強べんきょうだかんな」
「うぅうわわわあぁぁ」

　妹いもうとがイヤそうな顔かおをする。そういう顔かおも美少女びしょうじょはかわいい。
　病院びょういんでも勉強べんきょうはしている。俺おれと同おなじ県立けんりつ埼台さいだい東ひがし高校こうこうを目指めざしている。
　偏差値へんさちは六十五ろくじゅうごくらいか。上じょうの中ちゅうくらい。
　入院にゅういんしているのでかなりのハンデだ。頑張がんばるほかない。


　　◇

　また数日すうじつ雨あめの日ひが続つづいている。
　ララちゃんがちょっと長ながいトイレから出でてきた。
　お腹なかをさすっている。

「うぅぅぅ」
「どうしたの？」
「あの、便秘べんぴみたいで最近さいきんうんち出でてなくて」
「お、おう」

　女おんなの子ことこういう会話かいわをしたことがないので戸惑とまどってしまう。
　妹いもうとのエリカは小学校しょうがっこうのころは普通ふつうに家いえにいたけど便秘べんぴではなかった。

「あれかな食生活しょくせいかつ」
「そうかもしれません、うぅ」
「エルフの里さとでは野菜やさい中心ちゅうしんじゃなかった？」
「そうですね。こちらでは炭水化物たんすいかぶつが多おおいかもしれないですぅ」
「俺おれが作つくるのはレトルトか男おとこ料理りょうり系けいだからな、ごめんな」
「いえ、自分じぶんで何なんとかするべきなので」
「まあそうだけど。サラダとか出だすようにするよ」
「はい。ありがとうございます」

　ふむ。エルフちゃんは俺おれたちと内臓ないぞうとかも違ちがうかもしれないし。
　女おんなの子こは便秘べんぴになりやすいらしいからなぁ。
　少すこし食生活しょくせいかつを見直みなおすか。

　朝あさ、学校がっこうへ行いくときに家いえの前まえの花壇かだんを見みてララちゃんが立たち止どまる。

「アジサイが綺麗きれいに咲さいてますねぇ」
「ああ、うちのは青あおなんだよね」
「なんでしたっけピーエイチというので変かわるんですよね」
「そうらしいね」
「あっそれからほら、葉はっぱの上うえにカタツムリさんが」
「おお、いるいる。一いち、二に、三匹さんびき。今日きょうは多おおいね」
「これは取とって食たべないんですか？　この世界せかいの生いき物ものってみんな小ちいさいんですよね」
「あっちではカタツムリも大おおきかったの？」
「はい。あの小ちいさいのと五十ごじゅっセンチくらいの大おおきさのがいたんですよ」
「でっか、カタツムリ、でっか」
「あはは」

　なるほど五十ごじゅっセンチのカタツムリなら貝かいの一種いっしゅだしホタテみたいにして食たべるのだろう。
　かなり食たべ応こたえがありそうだ。
　貝かいだから旨味うまみとかもすごいのかもしれない。
　スペインのパエリア料理りょうりの番組ばんぐみでそのへんの畑はたけからカタツムリを取とってきて入いれるというのを見みたことがある。

　こうして連日れんじつ傘かさを差さして学校がっこうへ行いく。
　傘かさの日ひはララちゃんがくっついてこないのでおっぱいもお預あずけだった。
　べ、別べつに恋こいしいとか思おもってないよ。
　ただあの柔やわらかいなんともいえない感触かんしょくは忘わすれがたい。