■第だい４１話わ　エルフちゃんとバレンタイン

　二月にがつと言いえばバレンタイン。
　その日ひを迎むかえる数日すうじつ前まえのこと。

「はぁ、いいよな、景都けいとは」
「なんだよ、しけた顔かおして」
「どいつも、こいつも、バレンタイン、バレンタイン。俺おれは頭あたまがおかしくなりそうだ」

　いつになくダウナーなアキラに俺おれは呆あきれる。
　こいつ実じつは毎年まいとし数個すうこは貰もらっていることくらい知しっている。
　ただ周辺しゅうへんの子こではなく顔かおとお返かえし目当めあての少すこし離はなれた立たち位置いちの子こばかりだった。
　ガチめの本命ほんめいチョコは貰もらったことがないらしい。

「景都けいとはいいよな、妹いもうと、幼馴染おさななじみ、彼女かのじょと揃そろってて」
「まあ、そうだけど」
「そうだけどってその布陣ふじんでどこに問題もんだいが」
「毎年まいとしお礼れいを考かんがえるのがだるい」
「いいじゃねえか、全員ぜんいん本命ほんめいチョコだろうが」
「そうだけど」
「だあああ、どこがそうだけど、の不満ふまんの入はいる余地よちがあるんじゃ」

　アキラはキレ気味ぎみだった。
　毎年まいとし恋心こいごころをちらつかせた餌えさに飛とびついて豪華ごうかなお返かえしをしていたが、それがただのお返かえし目当めあてだと知しってからは鬼おにになってしまったのだ。
　もちろんマジでやっているわけではなく、そういうポーズである。
　そのほうが気きが楽らくなんだそうだ。
　本気ほんきの子こがいたらどうする気きなんだか。可哀想かわいそうなことだ。

「えへへ、バレンタイン……」
「あはは、バレンタイン……」

　ハルカはこの時期じき、俺おれに贈おくるチョコを考かんがえるのに精せいいっぱいで使つかい物ものにならない。
　今年ことしはララちゃんまでそれに混まざっている。
　二人ふたりとも上うわの空そらで空そらを飛とんでいる羊ひつじを数かぞえ始はじめる始末しまつだ。
　ハルカは毎年まいとしチョコを贈おくり続つづけてきた。健気けなげにも疎遠そえんだった中学ちゅうがく時代じだいも放課ほうか後ごにひっそり家いえに渡わたしにきていた。
　俺おれは恥はずかしいとは思おもいつつ受うけ取とり、チョコのお礼れいのホワイトデーだけは渡わたしていた。
　だから今いまもこうして二人ふたりの仲なかは裂さけたりぎくしゃくせずに済すんでいたのだろう。ハルカには感謝かんしゃしきれない恩おんがある。

　妹いもうとの件けんもそうだ。俺おれにはできない女おんなの子こ同士どうしのサポートは彼女かのじょしかできないことだった。
　母親ははおやも父親ちちおやを選えらんだものの、心配しんぱいだったのか当初とうしょはしょっちゅう俺おれに電話でんわしてきていた。ハルカが動うごいていることを話はなすとだいぶ安心あんしんしたのか電話でんわの頻度ひんども減へるようになった。ハルカと母親ははおやもたまに電話でんわしていたようだ。

　俺おれたちも毎日まいにちずっと一緒いっしょにいるわけではない。
　今日きょうあたりチョコでも買かいに行いくのだろうか、ララちゃんとハルカが仲良なかよく手てをつないで帰かえっていく。

「んじゃ帰かえるか」
「おう」

　女おんなの子この戦場せんじょうに男おとこが口出くちだしをするわけにはいかない。
　これは彼女かのじょたちのメンツをかけた、一年いちねんに一度いちどの全面ぜんめん戦争せんそうなのだ。

　　◇

　私わたしはバレンタインデーというイベントを楽たのしみにしていました。
　このイベントを聞きいた時ときから胸むねが高鳴たかなる思おもいです。
　女おんなの子こが好すきな意中いちゅうの男子だんしにスキの気持きもちをチョコレートに込こめて贈おくるのだそうです。
　なんて素敵すてきなんだろうと思おもいました。

　そんな日ひはエルフィール王国おうこくでは聞きいたことがありませんでした。
　さすが地球ちきゅうの行事ぎょうじ。一味ひとあじも二味ふたあじも違ちがいます。
　これは女おんなの子こが本気ほんきになってしまうのもうなずけます。

「ララちゃん、今日きょう放課ほうか後ご、チョコを買かいに行いこうか」
「はいですぅ。ついにその日ひがきたのですね」
「そうです。私わたしたちの全力ぜんりょくを見みせてあげるのよ」
「これでケート君くんもいちころですぅ」
「いや景都けいとはなかなかしぶといのですよ」
「ほほう、そうなのですかぁ」
「毎年まいとし貰もらえると高たかをくくっていて、しかも妹いもうとと私わたしから本命ほんめいチョコだというのにダブルで貰もらっているから感覚かんかくがもうマヒしてて普通ふつうのチョコだけじゃ」
「なるほど、それは手てごわいですぅ」

　さてチョコを貰もらうのに慣なれきった、手てごわいケート君くんを落おとすための秘策ひさくとはなんでしょうか。
　あまりにアグレッシブなことをすれば引ひかれてしまい逆効果ぎゃくこうかなことぐらい知しっています。
　これはお笑わらいゲームではなく、真剣勝負しんけんしょうぶなのです。
　これで将来しょうらいの結婚けっこんが決きまるといっても過言かごんではないのですから、私わたしたちもいつになく本気ほんきを出だすというものです。

　学校がっこうから出でて妹いもうとのエリカちゃんと合流ごうりゅうしました。

「今年ことしは三人さんにん。手てごわいですが、バラバラに動うごいてそれぞれ痛手いたでをこうむったら元もとも子こもありません」
「その通とおりですハルカお姉ねえちゃん」
「そうですそうですぅ、ハルカさん」

　えいえいおーと三人さんにんで円陣えんじんを組くみます。

「今年ことしは運命うんめい共同体きょうどうたい。一緒いっしょに戦略せんりゃくを練ねりましょう。どのような方法ほうほうを採とればあの景都けいとをよろこばせられるか、真剣勝負しんけんしょうぶです」
「そうですぅ、頑張がんばるですぅ」
「やちゃいましょう」

　ちょっと私わたしの声こえに覇気はきがないせいかふふっと笑わらわれてしまいました。
　しかしそれはそれで場ばが和なごんでちょうどいい塩梅あんばいになるから面白おもしろいのでした。
　私わたしも一役ひとやく買かっているのです。メインメンバーです。
　メンバーなんて言いい方かたではないですね。

　――メインヒロイン。

　そうです、そういう響ひびきですね。素晴すばらしいです。みんなケート君くんのヒロインなのです。
　白馬はくばに乗のったケート君くんに迎むかえに来きてもらえるように、お馬うまさんに餌えさをあげなければなりませんからね。

　そうして血眼ちまなこになって探さがしたチョコレートは結局けっきょく、駅前えきまえスーパーで売うっている大手おおてブランドの生なまチョコレートになりました。

「なんやかんや言いって、これがこの時期じきくらいしかあまり売うっていなくて、そしておいしいんですよね」
「そうですそうですねぇ」
「はいっ、お姉ねえちゃんたちの言いう通とおりです」

　ついに二月にがつ十四日じゅうよっかがやってきた。

「いっせいの……」
「「「ケート君くん、チョコレートです」」」

　家いえに帰かえってきて居間いまに入はいるなり、待まちきれなくなった彼女かのじょたちが声こえを上あげる。
　手てにはそれぞれの生なまチョコレートが並ならんでいる。

「えっと」
「私わたしからは、その、抹茶まっちゃ味あじにしてみました」
「ああ、ありがとう、ハルカ」
「よっしゃ」
「私わたしはお兄にいちゃんのこと大好だいすきだから、イチゴ味あじ」
「ああ、イチゴ味あじも好すきだよ、ありがとう、エリカ」
「やったぁ」
「私わたしはその初はじめてだから、スタンダードの生なまチョコレートに気持きもちを込こめましたぁ」
「ああ、ありがとう、ララちゃん」
「やったですぅ」

　三人さんにんとも手てをギュッと抱だいて目めをウルウルさせている。
　ちょっとアキラには見みせられないなコレは。今日きょうばかりは全員ぜんいん本気ほんきだ。

「みんな、その、好すきだよ、愛あいしてる」
「「「きゃああ」」」

　俺おれは三人さんにんに抱だき着つかれてもみくちゃにされるのだった。
　何なにがとは言いわないけど、とても柔やわらかいのでした。