◆２７．月食げっしょく

　突然とつぜんであれなんだけど、なんか良よく分わかんないけど、今日きょうは月食げっしょくらしい。
　だから何なんだっていうんだけど、一時いちじ的てきに暗くらくなるので、夜間やかんの戦闘せんとうしにくいとかなんとか。
　それから魔術まじゅつ的てきな意味いみがあるそうだ。

　まだ、警けいら隊たいとヒカリちゃんたちが帰かえったばかりで、十日とうか目めの午前ごぜん八時じぐらい。
　彼かれらはリアルで寝ねるそうだ。

　ウサギさん帽子ぼうしは村むらで装備そうびしていると、まだ目立めだちすぎるため、外はずしている。
　そのうち量産りょうさんされて、皆みなつけるような感かんじになるかもしれない。

　露店ろてんをチェックして、森もりへ行いって、夕方ゆうがた帰かえってきて、村長そんちょうの家いえでお肉にくを干ほして、今いまに至いたる。
　広場ひろばにＮＰＣをはじめとする人ひとが集あつまってきていた。

　今日きょうは、夜よるなのに中央ちゅうおう広場ひろばで屋台やたいが出でている。
　祭まつりみたいな感かんじになっている。

　まず、ウサギの肉串にくくしを焼やいているのは、もう一つの宿屋やどやのご主人しゅじんだ。
　焼やきたての肉串にくくしはかなり売うれているようだ。
　ボノックじいさんは隅すみの方ほうで「装備そうびの補修ほしゅう賜たまわります」と掲かかげている。
　でもあんまり繁盛はんじょうしていない。

　雑貨ざっか屋やのジェイクが今日きょうは「ジャガイモのポタージュスープ」の屋台やたいをやっているようだ。
　隣となりにトラニー君くんもいて接客せっきゃくを担当たんとうしていた。

　他ほかにも村人むらびとの屋台やたいがあり、ビールとトマトジュースの店みせがあった。
　トマトジュースを飲のんでみたけれど、かなり酸すっぱいわこれ。

　どうやってきたのか不明ふめいな流ながれの商人しょうにんが「入門にゅうもん用ようロザリオ」を売うっていた。

「回復かいふく役やくに転向てんこうしたい人ひとにお薦すすめだよ。普段ふだんは前衛ぜんえいで、副業ふくぎょうで回復かいふく役やくをする人ひとにもおすすめの逸品いっぴんだよ。数かずはあるから見みてってよ」

　気きになったのでロザリオの補正ほせいを確認かくにん。

　●入門にゅうもん用ようロザリオ
　　入信にゅうしんしたばかりの信者しんじゃが使つかうロザリオ。木製もくせいの量産りょうさん品ひん。
　　種別しゅべつ：武器ぶき(ロザリオ)
　　レア度ど：２　　ランク：２
　　魔攻まこう力りょく：３
　　回復かいふく力りょく：１０
　　耐久たいきゅう：９０／９０

　初心しょしん者しゃのロザリオとほぼ同どう性能せいのうだ。これは初期しょき武器ぶきから変更へんこうしたい転換てんかん者しゃ向むけの装備そうびのようだ。
　掲示けいじ板ばんで確認かくにんしたところ、他ほかの村むらでも同様どうようのロザリオが売うりに出だされているようだ。
　お金かねがあるなら、パーティーに一つあれば余裕よゆうができると書かいてあった。

「ポーションより、回復かいふく役やくを連つれていた方ほうが何なにかと便利べんりですし、不味まずくないからいいよ」

　ＮＰＣもポーション不味まずいの知しってるなら改良かいりょうしてくれよ。
　ちなみにお値段ねだん７，０００セシルだ。はっきり言いえば高たかい気きがするわ。

　村長そんちょうのアブダヒデは村むらの警備けいび員いんと一緒いっしょに、見物けんぶつして回まわっていた。
　一応いちおうこの村むらにも警備けいび員いんの二人ふたり組ぐみが三交代こうたいでいる。
　とりあえず、挨拶あいさつだけはしておいた。

　冒険ぼうけん者しゃようはユーザーたちは、ゴザをひいて露店ろてんをしつつ月つきを眺ながめたり、その辺へんに立たったまま、月つきを見上みあげたりしている。

　なかには、カップルだろう二人ふたり組ぐみが、ゴザに座すわって肩かたを組くんで、やはり月つきを見上みあげている。
　ちょっとうらやましい。

「あー。わたしたちは女おんなの友情ゆうじょうを深ふかめようね～。はに～」

　クルミは小ちいさい声こえでそう言いってきた。

「あ、うん。これからもよろしく」
「ミケっちはたんぱくだな～」

　他ほかにも適当てきとうに会話かいわした。
　そのうち、月つきが横よこから欠かけてきた。
　でも欠かけたところは、暗くらい赤色あかいろをして、完全かんぜんに見みえなくなるわけではないようだ。

　そのうち、どんどんかけて、最終さいしゅう的てきに全部ぜんぶが暗くらい赤あかになった。
　皆既かいき月食げっしょくだ。
　もっとも、この世界せかいは少すこし不ふ思議しぎで毎日まいにち月つきが夜よる出でているので、天体てんたいの動うごきがどうとかは、適当てきとうみたい。

　ブラスミ君くんがいる。
　遠とおくからボノックじいさんの補修ほしゅう屋やを眺ながめていた。

「こんばんは。ブラスミ君くん」
「ミケさん、こんばんは」

「修理しゅうりのボノックじいさん、気きになるの？」
「はい。武器ぶきの扱あつかいになれてるみたいだったので」
「あのじいさん、鍛冶かじ屋やだったから、弟子でしになってみれば。引退いんたいしたみたいだから無理むりかもしれないけど」
「やっぱりそうなんだ。俺おれ、ちょっと声こえかけてきます」
「一緒いっしょに行いってあげる」

　私わたしたちは、ボノックじいさんに声こえを掛かけた。

「お嬢じょうさんたちかい。冒険ぼうけん者しゃがたくさんいるのに、全然ぜんぜん、客きゃくが来こんわい」
「この人ひとはブラスミ君くん。鍛冶かじ屋やを目指めざしてるんだけど、教おしえてくれる人ひとが見みつからなくて、ボノックじいさん、教おしえてあげてくれませんか？」
「あん。わしは引退いんたいしたんじゃが、どうしても、と言いうなら触さわりだけならいいぞ」
「あ、ありがとうございます！」
「まずは補修ほしゅうの仕方しかたからだぞ」


　ブラスミ君くんは、無事ぶじ入門にゅうもんを果はたせるようだ。