●６５ 郷土きょうど料理りょうりと正月しょうがつ休やすみ

　西にしの森もりから帰かえってきて、裏庭うらにわの隅すみにアカシメジを広ひろげて干ほしておいた。
　何日なんにちも晴はれの日ひは外そとに出だして、雨あめと夜間やかんはしまってと繰くり返かえした。
　そうしてパリパリに乾燥かんそうしたアカシメジを今度こんどは粉こなにする。

「へぇ、なんだか香辛料こうしんりょうみたいです」
「そうだねぇ」

　マリーちゃんが覗のぞいてくるに返事へんじをしながら作業さぎょうをした。
　大おおきめの瓶びんに乾燥かんそう剤ざいと共ともに入いれておく。
　できれば、もう二瓶にびんくらい欲ほしいなぁ。

　いよいよ王都おうとにも正月しょうがつ休やすみがくる。

　雪ゆきがちらつく毎日まいにちが過すぎていく。
　まだ王都おうとでは雪ゆきは積つもってない。それほど積つもらないのだと聞きいた。

「晩御飯ばんごはん、楽たのしみです」
「だよね、マリーちゃん」
「えへへ、ごちそうになります」

　今日きょうは三人さんにんで鍋なべパーティーです。

「これがアカシメジ鍋なべ」
「おおおおお」
「これが……」

　マリーちゃんは感嘆かんたんの声こえをあげて、シャロちゃんが感心かんしん顔がおをする。
　アカシメジの粉こなを、野菜やさいのスープにたっぷり入いれる。
　鍋なべは赤あかい色いろをしていて、美味おいしそうだ。
　赤あかいスープと言いえば辛からいものが多おおいけど、これはコクがあってとっても美味おいしいのだ。

「いただきます」
「「いただきます」」

　それぞれ取とり皿ざらによそってスプーンで掬すくって食たべる。

「美味おいしいです。ミレーユさん」
「美味おいしいですよ。先生せんせい、初はじめて食たべました」
「ふふん。どうじゃ、これがハシユリ村むらの正月しょうがつ料理りょうりなのじゃ」

　ちょっとおじいちゃんみたいに真似まねしてみる。
　そうそう、おじいちゃんは小ちいさいころよく遊あそんでくれていたけれど、両親りょうしんより先さきに死しんでしまった。
　子供好こどもずきで、いつもニコニコしたのを覚おぼえている。
　なんでかこの正月しょうがつ休やすみになると、白髪しらがに白しろいひげのおじいちゃんを思おもい出だすのだ。
　手てには特大とくだいのアカシメジを持もっているイメージで。

「本当ほんとう、コクがあって美味おいしい」

　みんなで鍋なべをもぐもぐ食たべる。
　この寒さむい冬ふゆに食たべるととても美味おいしい。
　暖炉だんろがあるといっても、やっぱり限界げんかいはある。
　部屋へやは十分じゅうぶん温あたたかいけれど、暖あたたかい料理りょうりはじんわりと体からだにしみる。

「それじゃあ、明日あしたから一週間いっしゅうかん、お店みせは正月しょうがつ休やすみです」
「はーい」
「私わたしはシャロちゃんと一緒いっしょにマーシャル錬金術れんきんじゅつ店てんにいるから」
「はい。何なにかありましたらそちらへ行いきますね。それではまた来年らいねん。ばいばい」

　先さきにマリーちゃんとお別わかれする。

「んじゃ、シャロちゃん、おうちへ帰かえろっか」
「はーい」

　シャロちゃんと一緒いっしょにマーシャル錬金術れんきんじゅつ店てんへと向むかった。
　そこそこの規模きぼのお店みせだ。かなり大おおきい。
　それでご実家じっかはこの錬金術れんきんじゅつ店てんの中庭なかにわ部分ぶぶんをつぶして建たててあった。

「こんばんわ」
「こんばんわ。シャロ、ミレーユ先生せんせい」
「こんばんわ～」

　挨拶あいさつを交かわす。
　ここの錬金術れんきんじゅつ店てんの人ひととは、以前いぜん講習会こうしゅうかいなどで一緒いっしょになったので面識めんしきがある。
　それで私わたしはここでもシャロちゃんの師匠ししょうということで一目いちもく置おかれていて、先生せんせい呼よびされていた。
　店主てんしゅは父親ちちおやだった。それで跡あとを継つぐのはお兄にいさんで錬金術れんきんじゅつには強つよいんだけど、経営けいえいのほうが壊滅的かいめつてきでちょっと問題もんだいになっている。
　それでも老舗しにせだけあって売うり上あげも大おおきいので、なんとかやっていた。

「ミレーユ先生せんせい、妹いもうとがお世話せわになっています」

　お兄にいちゃんもこの通とおり私わたしのほうが年下とししたなのに敬意けいいを払はらってくれる。
　なんだかとってもこそばゆい。
　もう夕ゆうご飯はんも食たべたので、あとはお風呂ふろに入はいって寝ねるだけだ。

「ふふふ、シャロちゃんとお風呂ふろ～」
「はい。先生せんせい、お風呂ふろ入はいりましょう」

　さすがシャロちゃんち。お風呂ふろも大おおきくて、とっても快適かいてきだった。
　でもここのお風呂ふろも巨大きょだい錬金れんきん釜がまを兼かねるみたいで、機械きかいが周まわりに置おいてある。
　冬ふゆのお風呂ふろは暖あたたかくて気持きもちいい。なんだか自分じぶんが鍋なべになったような気分きぶんだ。
「アカシメジを入いれたら私わたしたちも美味おいしくなるかな？」
「ほぇ？　ミレーユ先生せんせいそんなこと考かんがえてたんですか。なんだかかわいいっ」
「まあ、ね」
「そーれ。ミレーユ先生せんせいたべちゃうぞぉ」
「きゃああ、シャロちゃんに食たべられちゃうぅぅぅ」

　とまあお風呂ふろで遊あそびました。

　シャロちゃんの家いえの客間きゃくまでふっかふかの快適かいてきベッドで眠ねむる。
　今日きょうはシャロちゃんは自分じぶんの部屋へやで一人ひとりで寝ねるらしい。

「ポムぅ」
「きゅっきゅっ」

　最近さいきんはずっとシャロちゃんと一緒いっしょの部屋へやで寝ねていたので、いないとなんだか寂さむしかった。
　でも大丈夫だいじょうぶ。私わたしにはまだポム隊員たいいんがいるからね。
　こうしてちらつく雪ゆきを眺ながめながら、初はじめてのお泊とまりの夜よるは更ふけていきました。
　そりゃもうぐっすりですよ。えっへん。