●５６ 王様おうさま謁見えっけんと世界せかい樹じゅだよ

　　▼トラスティア王国おうこく、　▼ルクシリス・ド・ミルド・トラスティア国王こくおう。
　それが彼かれの名前なまえだった。

　四よん十じゅっ歳さいそこそこだろうか。まあまあのイケメン。ヒゲが生はえている。
　あまり興味きょうみはないけど、それっぽい人ひとというのが第だい一いち印象いんしょう。

　その人ひとの前まえで、メイラさんボロランさん私わたしで、謁見えっけんが始はじまった。

「それでホーランド、メホリック両りょう商業しょうぎょうギルドguildの重役じゅうやく、および火事かじやポーションpotionなどで活躍かつやくしたという錬金術れんきんじゅつ師しのミレーユで、相違そういないかな」
「はい」

　私わたしたちは頭あたまを下さげる。

「楽らくにしていい。それで緊急きんきゅうの陳情ちんじょうとは、なんだろうか」
「実じつはですね。王都おうとでは今いま、赤紋病せきもんびょうというものが流行りゅうこうしつつあります。それの対策たいさくに特級とっきゅうポーションpotionがなんとしても必要ひつようなのです。しかしその材料ざいりょうとして、ユグドラシルYggdrasilの木き、その葉はっぱは数かずがなく、王宮おうきゅうの世界せかい樹じゅの葉はが欲ほしいのです」
「世界せかい樹じゅの葉はか」
「はい」

　王様おうさまは考かんがえるように斜ななめ上うえのほうを見みて、ぼうっとする。

「ユグドラシルYggdrasilの木きは、王家おうけの世界せかい樹じゅの他ほかに、メホリックの中庭なかにわにあるということはワシだって知しっているが」
「ははぁ」
「なぜそれを使つかわない」

　私わたしたちは頭あたまを下さげる。

「実じつは採取さいしゅにメホリックのナンバーnumberワンoneとツーtwoの二人ふたりが反対はんたいしていまして。私わたしはナンバーnumberスリーthreeなので逆さからうことは出来できません。仕方しかたがなしに、最後さいごの望のぞみとして、ここに陳情ちんじょうに来きました。この首くび一ひとつで王都おうとが救すくわれるなら安やすいものです」
「そうか。メホリックのナンバーnumberワンoneとツーtwo、誰だれだったかな」
「　▼ゲイドルドとバーモントです」
「ゲイドルドとバーモントだな、ふむ。覚おぼえておこう。侍従じじゅう長ちょう、記録きろくに残のこすように」

　あーあ。どうなっても知しらないんだ。
　ボロランさんは首くびを覚悟かくごで。首くびはここでは物理ぶつり的てきに飛とぶことを意味いみする。
　でもどうやら、首くびが飛とびそうなのは上うえの二人ふたりのほうみたい。

「それに、患者かんじゃの数かずはまだ増ふえます。メホリックの木きだけでは、葉はっぱが足たりない可能かのう性せいもあります」
「ふむ、そうか。致いたし方かたなし、か」
「はい」

「分わかった。必要ひつような分ぶんだけは、採取さいしゅを許ゆるそう」
「「「ありがとうございます」」」

　ふう。
　王様おうさまが理解りかいある人ひとで良よかった。



　謁見えっけんから退出たいしゅつした。
　メイドmaidさんに連つれられて移動いどう中ちゅうだ。

　ボロランさんが首くびをさすっている。
　さすがに縛しばり首くびは嫌いやだもんね。

　王宮おうきゅうのただっぴろい裏庭うらにわに出でると、すでに上うえのほうは見みえている。
　世界せかい樹じゅ。
　高たかさはえっと、普通ふつうの木きの倍ばい、五ご十じゅうメートルmeterくらいだろうか。
　いやあ、計測けいそく不能ふのうというかめちゃくちゃ高たかいことだけは確たしかだ。

　近ちかづいていくと、とにかく高たかい。

「これが世界せかい樹じゅ」

　下したから見上みあげる。
　これどうやって葉はっぱ採とるの。

　庭師にわしがハシゴを持もってきてくれた。

「すみません。葉はっぱ。千せん枚まいくらいください」
「千せん枚まい、ですか？」

　庭師にわしがオウム返がえししてくる。

「はい。王様おうさまの許可きょかは取とりました」

　私わたしはニッコリ笑顔えがおで答こたえると、庭師にわしも引ひきつった顔かおで納得なっとくした。

　作業さぎょうは庭師にわしの人ひとがやってくれる。
　木きに登のぼって葉はっぱを採とってくれる。
　麻あさ袋ぶくろに詰つめていく。

　なんとか葉はっぱを回収かいしゅうした。
　これが世界せかい樹じゅ、神かみの木き。

　その力ちからの一部いちぶを私わたしたちがいただくんだ。
　手てに汗あせ握にぎるというか、霊験れいけんあらたかというか。

　その重圧じゅうあつを今更いまさら感かんじる。

　馬車ばしゃで送おくってもらって、他ほかの材料ざいりょうもメホリックから分わけてもらう。

　作業さぎょうをひたすらした。
　特級とっきゅうポーションpotionだ。使用しよう魔力まりょく量りょうも比例ひれいして多おおい。
　私わたしでも魔力まりょく量りょうがぎりぎりかもしれない。
　しかし、今いまはやらなければならない。

「さて、では今いままで修行しゅぎょうもしてきたし、シャロちゃんにもやってもらおう」
「はいっ」

　シャロちゃんは真剣しんけんだ。
　やり方かたは何なん回かいも私わたしの助手じょしゅをしたから分わかるだろう。
　助手じょしゅにはマリーちゃんにお願ねがいする。

「では、力ちからを合あわせて、頑張がんばりまっしょい」
「「おーお」」

　私わたしたちは自分じぶんたちしかできない特級とっきゅうポーションpotionを量産りょうさんするのだった。



　こうして赤紋病せきもんびょうが流行りゅうこうしたものの、特級とっきゅうポーションpotionの活躍かつやくにより、死亡しぼう者しゃ数すうを初期しょきの数すう名めいで抑おさえることができた。
　市民しみんにはお触ふれが出でて、手洗てあらいうがいを徹底てっていし、外出がいしゅつを控ひかえるように宣伝せんでんした。

　なんとか患者かんじゃ数すうのピークpeakを過すぎ、現在げんざいはその感染かんせん者しゃ数すうは日ひに日ひに減へり、ついにその流行りゅうこうは止とまった。

　こうして未曽有【みぞう】の赤紋病せきもんびょうの流行りゅうこうはなんとか抑おさえられた。