●３９ 貧困ひんこん街がいだよ

　日曜日にちようび、暖あたたかい天気てんきだった今日きょうはお散歩さんぽをしている。
　もう何なん回かいもお散歩さんぽをしている私わたしはそれなりに王都おうとの地理ちりにも詳くわしくなってきた。

　まず住すんでいる商業しょうぎょう区く、住宅じゅうたく区く、農業のうぎょう区く、貴族きぞく街がい、王宮おうきゅう、そして今いま向むかっている貧困ひんこん街がいがあった。
　正直しょうじき、あまり貧困ひんこん街がいには行いきたくない。でも自分じぶんたちが住すんでいる街まちの実態じったいをこの目めでちゃんと見みて確認かくにんしたい。

　リュックサックrucksackには作つくれるだけ作つくった練ねり薬草やくそうとポーションpotion、蜂蜜はちみつ飴あめ、それからグラノーラgranolaを持もってきている。
　このリュックruckは容量ようりょう拡張かくちょうのある錬金術れんきんじゅつで作つくられた魔道まどう具ぐなので、かなり入はいる。
　ただし上級じょうきゅう品ひんではないから、拡張かくちょうはそこそこぐらい。田舎いなかの村むらではそんな贅沢【ぜいたく】品ひんは作つくれない。

　とにかく準備じゅんびは大丈夫だいじょうぶ。

　冒険ぼうけん者しゃギルドguildで聞きいた限かぎりでは、王都おうとの貧困ひんこん街がいは、いうほど絶望ぜつぼう的てきではないようで、餓死がしする人ひとは多おおくはないらしい。
　それでも貧乏びんぼうには違ちがいがなく、仕事しごともなく食くうに困こまるような子供こどもたちも大勢おおぜいいるという話はなしだったよ。

「さて、行いきますか」
「はい」
「はいです」

　今日きょうはお散歩さんぽとは名なばかりの貧困ひんこん街がいでの活動かつどうなのだ。偵察ていさつは済すんでいた。
　心配しんぱいしたシャロちゃんとマリーちゃんもついてきている。

　全員ぜんいん一応いちおうの装備そうびとして、腰こしにはナイフknifeも装備そうびしている。
　王都おうとの貧困ひんこん街がいはましではあるけれど、賊ぞくみたいなのがいないとは限かぎらない。
　あとお財布さいふはリュックruckの中なかへ。腰こしに下さげて歩あるくとか、スリしてくださいと言いわんばかりだよ。

　太ふとい道みち沿ぞいは、まだ普通ふつうの住宅じゅうたく街がいだ。
　そして細ほそい道みちを入はいった裏側うらがわ、この一角いっかくすべてが貧困ひんこん街がいになっている。

　道みちは細ほそい。ところどころ変へんなものが落おちている。

　家いえはどれも粗末そまつな掘ほっ立たて小屋ごやで、子供こどもたちが暇ひまそうにぼうっとしていたりする。

「あのすみません」

　子供こどもに声こえをかけてみる。
　するとぼうっとしていた子こがこちらを向むいて、なんだろうという顔かおをする。

「なあにお姉ねえさん」
「この辺あたりの子供こどもたちって、どれくらいいます？」
「え？　あー。えっとね二に十じゅう人にんくらいかな」
「なるほど。ありがとう、お礼れいにコレあげる」

　思おもったよりは少すくない。これならいけるかな。
　グラノーラgranolaをひとつ渡わたす。
　その男おとこの子こは、匂においを嗅かいだ後あと、食たべてみる。

「んっ、美味おいしいっ、ありがとう」
「いえいえ」
「あのさぁ、でも、俺おれだけ貰もらっても、みんなお腹なか空すかせてるんだ。偽善ぎぜんなら向むこうでやってくれよ」

　そういって住宅じゅうたく街がいのほうを指ゆびさす。確たしかにただその場ばで食たべ物ものを渡わたすだけなら、偽善ぎぜんに他ほかならない。

「いや、ちょっとお願ねがいがあって来きたんだ」
「お願ねがい？」
「うん。ここの子供こどもたちに、お仕事しごとをお願ねがいしたいなあと」
「なんだよ。子供こどもに仕事しごとなんかねえだろ」

　ちょっと擦すれてるみたい。

「とりあえず、話はなしだけでも聞きいてほしいな、みんなを集あつめてくれる？　集あつめてくれたら、ひとりひとつ、まずはグラノーラgranolaを分わけるわ」
「分わかった。みんなにくれんなら、いいよ」

　少年しょうねんはそういうと、向むこうへ走はしっていく。
　次々つぎつぎと声こえをかけて回まわってくれた。

　集あつまった子供こどもたちは全部ぜんぶで、十じゅう三さん人にんかな。

「では集あつまって話はなしを聞きいてくれるみたいなので、グラノーラgranolaというお菓子かしをみんなに分わけます」
「やった」
「はやく、よこせよ」
「ありがとう」

　素直すなおな子こからちょっとやんちゃな子こまで、反応はんのうはいろいろだ。
　子供こどもたちは十じゅう三さん歳さい未満みまん、六ろく歳さい以上いじょうぐらい。
　それより小ちいさい子こは、基本きほん親おやと一緒いっしょにいるのだろう。

　遊あそんで生活せいかつするのが普通ふつうだけど、貧困ひんこん街がいではそうも言いっていられない。
　そしてそんな小ちいさい子こを雇やとってくれる店みせなんてない。醜聞しゅうぶんが悪わるいとされる。
　それは年齢ねんれい的てきなこともあるし、貧困ひんこん街がいの子供こどもだからという理由りゆうでもある。

「あのね、数すう人にんずつでグループgroupになって、南みなみの平原へいげんに行いって、スライムslimeと魔力まりょくの実みを取とってきてほしいの」
「でも俺おれたち、武器ぶきもなんにも持もってないぜ」
「そーだそーだ」

「ナイフknifeは必要ひつような数かず、渡わたします」
「「「おーお」」」
「よ、太ふとっ腹ぱら」

　スライムslimeは基本きほん的てきには弱よわい。
　ポムはちょっと年齢ねんれいがいっているので大おおきいけど、普通ふつうのスライムslimeはそこまで大おおきくない。
　スライムslimeには核かくと呼よばれる部位ぶいがあって、それを攻撃こうげきしてスライムslimeから取とり除のぞくと死しんでしまう。
　それにはナイフknifeでも十分じゅうぶんに戦たたかえる。

「まずは数すう人にんずつ訓練くんれんしたいと思おもいます」
「第だい一いち弾だんのグループgroupになりたいという子こたちは相談そうだんして名乗なのり出でてください」

　こうして子供こどもたちの南みなみ平原へいげんへの大だい冒険ぼうけんが始はじまるのだった。