●３２ 中級ちゅうきゅうを見みてもらうだよ

「やあ、どうしたんだい。ミレーユちゃん」
「はい。メイラさん。あの、中級ちゅうきゅうポーションpotionができまして」
「おお、話はなしには聞きいていたけど、ついにか」
「はい。ついにです」

　リュックサックrucksackからポーションpotionを取とり出だす。
　ホーランド商業しょうぎょうギルドguildのメイラ副ふく会長かいちょうさんだ。いつもお世話せわになっています。

「水色みずいろのポーションpotion。見みた目めは確たしかに。どれどれ含有がんゆう魔力まりょくも、うん。確たしかに中級ちゅうきゅうポーションpotionだな。だが、ちょっと魔力まりょくが多おおくないかいこれは」
「私わたしの村むらではこれぐらいでしたよ」
「そうなのかい？」
「はい。王都おうとの中級ちゅうきゅうポーションpotionが、その、言いいにくいんですけど、低てい品質ひんしつなんだと思おもいます」
「ああ、やっぱりそういうことか」
「はい」
「中なかに入はいってくれ。話はなしをしよう」
「え、あ、はい」

　メイラさんに連つれられて中なかに入はいった。
　いつもの調度ちょうど品ひんがあって高たかそうな絨毯【じゅうたん】とソファーsofaの部屋へやだ。

「このポーションpotion、澄すんだ水色みずいろ。間違まちがいなく高級こうきゅう品ひんだ」
「まあ、うちでは普通ふつうレベルlevelのですけど」
「これで普通ふつうなのか。特別とくべつ製せいとかではなくて」
「はい」
「普通ふつうの中級ちゅうきゅうポーションpotionより高たかく売うろう」
「え、でも王都おうとのポーションpotionは高たかいから、それだともっと高たかくなって、一般いっぱん庶民しょみんだと困こまっちゃいます」
「まあそうだな」
「できればその、安やすく売うりたいなって」

「だめだ」

「えっでも」
「低級ていきゅうポーションpotionは軽かるい傷きずとか怪我けがにしか効きかないから、見逃みのがしてもらえていた」
「あ、はい」
「しかし中級ちゅうきゅうポーションpotionはそうはいかない。これは利権りけんが絡からんでいる」
「ですよね、まあ知しっています」
「だから安やすくていいポーションpotionなんて消費しょうひ者しゃからすれば最高さいこうだけども、他ほかの錬金術れんきんじゅつ師しが黙だまっていない」
「ですよね」

　メイラさんとその後ごも話はなし合あいをした。
　意見いけんは平行へいこう線せん。私わたしは安やすくていいポーションpotionを売うりたい。メイラさんは抗争こうそうになるとして、今いままでのものより高たかく売うることを主張しゅちょうした。

「じゃあ、あの、うちで直売ちょくばいで売うる分ぶんだけちょっと安やすくして、他ほかに卸おろすものは、ちょっと高たかいものということで」
「うーん。それならいいかな。直売ちょくばいでは大たいして売うれないしな」
「そうですよね。メインmainはお医者いしゃさんのところとかですし」
「だよな。うちのギルドguildに加盟かめいしている医者いしゃのところには通達つうたつを出だすから、必要ひつよう量りょうを卸おろしてくれ」
「分わかりました」

　そうなのだ。
　商品しょうひんは自分じぶんのお店みせで売うるだけではない。
　ギルドguildを通つうじて、関連かんれんするお店みせでも、売うり買かいしてくれる。

　実じつは面倒めんどうくさかったから言いわなかったけど、石鹸【せっけん】やシャンプーshampooなども、うちの店みせで作つくったものを、雑貨ざっか店てんやここの本店ほんてんなどで扱あつかってくれている。
　値段ねだんはうちの店みせで直接ちょくせつ買かうよりちょっと高たかくなる。うちは卸値おろしねで買かってもらうので、ちょっと利益りえきは安やすくなるんだけど、それでも販路はんろが広ひろいことは重要じゅうようだった。

　ということで、街まちの他ほかのお店みせでは高級こうきゅう品ひんのポーションpotionということで扱あつかう。
　でもうちで直接ちょくせつ買かうぶんには密ひそかに中級ちゅうきゅうポーションpotionということで、買かえるようにしてもらった。
　お金かねがないならうちまで買かいに来きてくれる、といいな。

　自分じぶんのお店みせでは安やすく売うれるなら、勝かちではないだろうか。

　そうしてお店みせに戻もどると、なにやら人ひとだかりが出来できていた。

「品質ひんしつのいい中級ちゅうきゅうポーションpotionが安やすいって聞きいて……」
「中級ちゅうきゅうポーションpotionが庶民しょみん向むけに出でてるって」
「中級ちゅうきゅうポーションpotionがあるって話はなしはここかい」

　もともと王都おうとでは中級ちゅうきゅうポーションpotionは品薄しなうすだ。
　ちなみに上級じょうきゅうポーションpotion、特級とっきゅうポーションpotionと呼よばれるものも世よの中なかに存在そんざいしているけれど、王都おうとでは普段ふだん扱あつかっていない。
　上級じょうきゅうポーションpotionは材料ざいりょうが高級こうきゅうだ。主おもに貴族きぞく向むけで、材料ざいりょうが手てに入はいったときだけ限定げんていで生産せいさんされているらしい。
　特級とっきゅうポーションpotionは秘薬ひやくで現在げんざい、公おおやけにされていないけど、私わたし、ミレーユしか王都おうとでは作つくれない。材料ざいりょうであるユグドラシルYggdrasilの葉はっぱが必要ひつようで、他ほかにもいくつか材料ざいりょうが必要ひつようだ。
　もしかしたら世界せかいでも兄あにと私わたしだけしか秘薬ひやくは作つくれないのかもしれない。危あやうく、断絶だんぜつするところだったかも。

　中級ちゅうきゅうポーションpotionはそれなりに数かずを揃そろえていた。だから大丈夫だいじょうぶだろう。
　そして、どうやら庶民しょみんには品薄しなうすで高たかかったので、購入こうにゅうを諦あきらめていた人ひとたちがいて、そういう人ひとが集あつまってきたみたいだった。
　よくそういう話はなしを聞ききつけてくるものだ。感心かんしんしちゃう。

　この日ひの混乱こんらんは、日暮ひぐれの閉店へいてん時間じかんまで続つづいたけど、なんとか治おさまった。