●２８ 赤あかい実み食たべられただよ

　レモンlemonとオレンジorangeの木きの周辺しゅうへんには、錬金術れんきんじゅつにもちょっと使つかう有用ゆうような小ちいさな赤あかい実みをつけた木きが何本なんぼんも植うわっていた。

「ああぁあ、赤あかい実みがほとんどなくなってる！」

　叫さけんだのはマリーちゃんだ。私わたしと一緒いっしょにお使つかいで赤あかい実み、　▼ボブベリーの実みを取とりに来きたのに、すでに大分だいぶなくなっていたのだ。

「な、なんでぇ」

　盗難とうなん、泥棒どろぼうだろうか。畑はたけは別べつに柵さくとかで囲かこわれていない。
　周辺しゅうへんには背せの低ひくい垣根かきねはあるけど、ところどころ通路つうろが開あけられていて、基本きほんオープンopenになっている。

　しばらくちょっと離はなれて見張みはってみるも、鳥とりが数すう羽わその辺へんを飛とんでいるだけだった。

「泥棒どろぼうじゃないのかな」

　泥棒どろぼうだとしてもこんだけ持もっていったなら、もう来こないのではないか。
　木きに近ちかづいてみたら、鳥とりが一斉いっせいに飛とび立たっていった。
　ばたばたばたばた。
　すごい、かなりの数かずだった。あんなに木きに鳥とりがいるとは思おもっていなかった。

「ああぁ、泥棒どろぼうは鳥とりさんだったんですね」
「そうみたいだね」

　実みはあまり美味おいしくなく、錬金術れんきんじゅつ素材そざいとしては口くちに入いれることもあるけど、普通ふつうは食用しょくようにはしない。
　だから油断ゆだんしていた。
　鳥とりさんたちには、ご馳走ちそうだったんだね。うっかりしていた。王都おうと周辺しゅうへんはあまり緑みどりも豊富ほうふではないから、確たしかに鳥とりが美味おいしい実みがあれば、集あつまってきて、食たべ尽つくしてしまうみたい。

「うっかりですね」
「そうだね、マリーちゃん、残のこりは少すくないけど、私わたし達たちがいただこうか」
「はいっ。頑張がんばって取とりますね」

　こうして私わたしとマリーちゃんで、ボブベリーを収穫しゅうかくした。
　半分はんぶん以上いじょう、いやもっと四よん分ぶんの三さんは食たべられてしまった。
　この実みは中級ちゅうきゅうポーションpotionの中和ちゅうわ剤ざい、添加てんか物ぶつで、これから量産りょうさんして、収入しゅうにゅうの中核ちゅうかくを担になう重要じゅうよう物質ぶっしつなのだ。
　まぁ、タダで手てに入はいらなくなっただけで、買かってくればいいんだけど、なんかとても損そんした気分きぶんだった。

「これ美味おいしいのかな、色いろは美味おいしそうだけど、はむ。うげ、マズ、ぺっぺっ」
「あはは、人間にんげんにはあんまり美味おいしくないね、ボブベリーは」
「そんなぁ、先さきに言いってくださいよ」
「言いう前まえに食たべちゃうんだもん」

　もうマリーちゃんの食くいしん坊ぼうさんめ。
　まあ、見みた目めは真まっ赤かに熟じゅくしており、ツヤツヤで瑞々みずみずしい。美味おいしそうに見みえるんだけどね。
　実際じっさいはご覧らんの通とおりで、あんまり美味おいしくない。

　私わたしも小ちいさい頃ころ、美味おいしいと思おもって食たべて、とても不味まずい思おもいをしたのを、鮮明せんめいに憶おぼえている。世よの中なかは非情ひじょうだと、知しったのだった。あははは。

　ちなみにポムは食たべるかというとですね。

「はい、ポム。ボブベリー食たべる？」
「きゅっ」

　ん。ちょっとうれしそうだ。口くちを開あけている。放ほうり込こむとうれしそうに跳はねた。
　どうやら食たべるらしい。
　まあポムはポーションpotion素材そざいの薬草やくそうとか好すきだもんね。
　薬草やくそうもあんまり美味おいしくない草くさが多おおいから、どういう味覚みかくなのかはちょっと分わからないけど。

　まだ中級ちゅうきゅうポーションpotionの材料ざいりょうのルーフラ草そうが大おおきくなっていないので、それを待またないと。
　ボブベリーは保存ほぞんのため、乾燥かんそう処理しょりをすることにした。
　今回こんかいは天日てんぴ干ぼしにしようと思おもう。

　荒あらいネットnetの中なかに入いれて、中庭なかにわの日ひが当あたる空あき地ちのところに広ひろげておく。
　これでよし。これでそれほど効力こうりょくを落おとさずに、日持ひもちするようになる。

　あれからちょっとだけユグドラシルYggdrasilの木きも大おおきくなった気きがする。
　ユグドラシルYggdrasilの木きは、不思議ふしぎな木きで、一年中いちねんじゅう葉はっぱが枯かれない。
　そして古ふるくなった葉はっぱからたまに落おちる。落おちた葉はっぱはもう、特効薬とっこうやくの効果こうかはない。
　今いまは高たかさ三さん十じゅっセンチ[centi-　meter]くらいかな。

「おおきくな～れ。王都おうとで一番いちばんは無理むりだから、三さん番目ばんめに大おおきな木きになるんだよ」

　そういって、お水みずをあげる。
　ついでにクズ魔石ませきの粉末ふんまつを少すこし木きの根元ねもとに与あたえておく。
　これできっと元気げんきになるだろう。
　ユグドラシルYggdrasilの木きは王都おうとでも普通ふつうに育そだつから、魔素まそが薄うすくても大丈夫だいじょうぶそうだけど、たぶん魔素まそが濃こいほうが早はやく大おおきくなる特性とくせいがあると思おもう。
　実家じっかのユグドラシルYggdrasilの木きは、魔素まそが濃こくて普通ふつうの倍ばいの大おおきさだ、というおばあちゃんの言いい伝つたえがあるからね。