●２２ 私わたしのメイドmaid服ふくだよ

　あぁあ。ついにこの日ひが来きてしまった。
　ホーランド商業しょうぎょうギルドguildは、私わたしが店みせで着きる服ふくがないと言いったら、既製きせい品ひんのメイドmaid服ふくを貸かしてくれた。

　開店かいてん時間じかんになる前まえに、必死ひっしになって着替きがえた。
　でもさ胸むねもほぼぺったんこ。ちんちくりんの私わたしにメイドmaid服ふく。
　鏡かがみで一応いちおう、確認かくにんしてみる。
　うん、まあ、可愛かわいいけど、確たしかに可愛かわいいけど、でもこれ、超ちょう恥はずかしい。
　よくこんなの平気へいきな顔かおしてマリーちゃんたちは着きれるよね。
　まあメホリックのミニminiスカートskirtのメイドmaid服ふくよりはましだと思おもうことにしよう。ホーランドを選えらんでよかったぁ。うれしくて涙なみだが出でちゃいそう。

　萌もえいずる、薬草やくそうのごとき、メイドmaid服ふく。

　なんちってポエムpoemは恥はずかしいね。でもメイドmaid服ふくのほうがもっと恥はずかしいね！

　ダサダサ普段着ふだんぎが元凶げんきょうではあるんだけど、しょうがないんだよ。田舎いなかにはそれしかなかったんだから。

「い、いらっしゃいませ。『ミレーユ錬金術れんきんじゅつ調薬ちょうやく店てん』へようこそ！」
「いらっしゃいませ～」

　陽気ようきな声こえで明あかるい笑顔えがおのマリーちゃん。
　いっぽう、恥はずかしくて顔かお赤あかくなって、視線しせんが定さだまらない私わたし。

　ニヤニヤ顔かおで開店かいてんを待まつ、常連じょうれん客きゃく達たち。

　これではどっちが店長てんちょうか分わからないよ。

「いやあミレーユちゃん、メイドmaid服ふく似合にあってるね」
「ミレーユちゃん可愛かわいい」
「ミレーユちゃんも、メイドmaid服ふくいいじゃない」

　次々つぎつぎにほめ殺ごろしに来くる常連じょうれん客きゃく達たち。
　お姉ねえさまも、おじさまもいる。

「なんだい。メイドmaid服ふくなんて着きてイベントeventかい？」

　いえ、イベントeventじゃないです。ただ私服しふくがダサくて泣なきそうだったので、意いを決けっして、断腸だんちょうの思おもいで、メイドmaid服ふく着きてるだけです。

　ワン{oneピースpiece}一枚いちまい、されど一枚いちまい。新品しんぴんのものはすごく高たかい。特とくに王都おうとでは物価ぶっかも需要じゅようも高たかいくせに生産せいさんが追おいついてないらしく、びっくりするくらい新品しんぴんは高たかかった。
　そして高たかいからみんな擦すり切きれるくらい着きる。中古ちゅうこもあるにはあるんだけど、だいぶボロで、ツギハギとかが当あたってるのが普通ふつうで、さすがにツギハギで客きゃく商売しょうばいなんてできない。

「はぁ、ワン{oneピースpiece}欲ほしかったな」

　ワン{oneピースpiece}が高たかいなら布団ふとんと枕まくらももちろん高たかかったんだよ。これ以上いじょう、借金しゃっきん増ふやしたくないじゃない。
　だからメイドmaid服ふくはもう借かりるしか手てがなかった。八方塞はっぽうふさがりで、退路たいろは絶たたれていたんだ。

　屈辱くつじょくの思おもいで恥辱ちじょくに耐たえて、接客せっきゃくをした。

　いつかお金かねがガッポリ貯たまったら、もっと普通ふつうの制服せいふくを発注はっちゅうするんだもん。
　絶対ぜったい、可愛かわいいけどオシャレな服ふくにしてやる。

　翌日よくじつ。

「やあ、ミレーユ嬢じょう」

　むむ、この声こえ、確たしかにあの老ろう紳士しんし、ボロランさんだ。

「こ、こ、こんにちは。ボロランさん」

　まさかメイドmaid服ふくをこの人ひとに見みられるとは。
　ほら、目めが孫まごを見みるような目めしてるじゃん。
　絶対ぜったいに、萌もえとかいうやつだよ。ちょっといかがわしい目めだよこれ。

「いやあ、目めの保養ほようになりますな。今後こんごはずっとそのメイドmaid服ふくを着用ちゃくようになるのですかな」
「まぁ、当分とうぶんは、そうですね。遺憾いかんながら」
「はっはっは。なんならうちのミニminiスカ[skirt]メイドmaid服ふく、お貸かししましょうか」
「いぃぃやだあああ」
「わっはっは、冗談じょうだんですよ、冗談じょうだん」
「目めが笑わらってなかった。マジの目めだった、です」

　優やさしい目めでじっと、じっくり上うえから下したまでを見みつめてくるボロランさん。
　本当ほんとうにメイドmaid服ふく好ずきなんだな、この人ひと。ううぅ。

　自分じぶんの店みせだから、逃にげられないよ。

「マリーちゃんはメイドmaid服ふくって恥はずかしいと思おもわないの？」

　ニコニコスマイルsmileが営業えいぎょうスマイルsmileではなく、本物ほんものらしいマリーちゃん。その職業しょくぎょう精神せいしんは惚ほれ惚ぼれするほど素晴すばらしいけど、なんでだろう。

「メイドmaid服ふくは私わたし達たちの戦闘せんとう服ふくですからね。このメイドmaid服ふくが着きれるのはいいところの証あかしですから、大変たいへん誇ほこらしいのです」
「そうなんだ」
「一般いっぱん庶民しょみんにはとても手てが出でない高級こうきゅう品ひんですもの、女おんなの子この憧あこがれです」
「へぇ」

　王都おうとの女おんなの子このヒエラルキーhierarchy的てきにはかなり上うえなんだよね、メイドmaidさん。
　そりゃあ金持かねもちの商会しょうかいや貴族きぞくの家いえとかだもんね、職場しょくばが。

　そういう意味いみでは、あまりメイドmaidさんをその辺へんで見みかけることはない。基本きほん的てきには家いえの中なかでの仕事しごとをする人ひとたちだった。
　だからうちの錬金術れんきんじゅつ店てんは普段ふだんからメイドmaidさんを見みれる比較的ひかくてき珍めずらしい店みせなのだ。
　で、中なかにはそれ目当めあてでくる人ひとが実じつはいる。最近さいきん知しった。