●９. 王都おうとへの道みち

　翌朝よくあさ過すぎ、ソティと合流ごうりゅうして商人しょうにんギルド前まえに向むかう。旅たび商人しょうにんギーナさんの姿すがたが見みえる。今日きょうは帯刀たいとうしているようだ。
　ギーナさんに連つれられて、馬車ばしゃ小屋ごやがある大おおきめの宿屋やどやに向むかった。
　そこにはすでにアルパカの幌馬車ほろばしゃの準備じゅんびができていた。俺おれたち三人さんにんは後うしろの荷台にだいに乗のり込こむ。中なかは良よい匂においのリンゴが詰つまっている箱はこがたくさんと、黒くろのフード付つきローブを被かぶった人ひとが一人ひとり奥おくに座すわっていた。ぽつりと一言ひとことだけしゃべった。

「よろしく」

「ああ、こちらこそよろしく」
「よろしくお願ねがいします」
「よろしくにゃ」

　俺おれたちもそれぞれ挨拶あいさつをする。彼女かのじょはそれだけ言いうと反対はんたい側がわを向むいてしまった。

「なんか愛想あいそがよくないにゃ。そういうのよくないにゃ」
「まあまあ」

　ソティが小声こごえで文句もんくを言いっている。俺おれはローブの彼女かのじょが話はなし相手あいてがほしいはずなのに、あまり会話かいわをしたくなさそうな所ところは若干じゃっかん疑問ぎもんだったが、話はなしをたくさんしなくて済すむのは楽らくだな位くらいに思おもった。

　馬車ばしゃは四よん台だいの隊列たいれつになって進すすんだ。俺おれたちの馬車ばしゃ以外いがいは、普通ふつうに馬うまが引ひいている馬車ばしゃだ。俺おれたちの馬車ばしゃは先頭せんとうから二に台だい目め。一いち台だい目めに護衛ごえいを載のせているようだ。

　俺おれたち三人さんにんは若干じゃっかん小ちいさめの声こえで、ぽつぽつ会話かいわをする。

「ポテチはいつ頃ごろ作つくってくれるのでしょうか」
「ジャガイモがあればすぐ作つくれるよ」
「油あぶらは、オリーブ油ゆというのでいいんですよね」
「うん。味あじはまずは塩味しおあじだな。コンソメ味あじは難むずかしい」
「塩味しおあじも楽たのしみです。早はやく食たべたいです」
「あたしも楽たのしみにゃ」

　ローブの彼女かのじょが、うつむきぎみでこっちを向むいて聞きいてくる。

「ポテチというのはなんなのウサ」
「ポテトチップスといって、ジャガイモを薄うすく切きった物ものを熱ねっした油あぶらで揚あげたものだよ」
「ほう。それは美味おいしいのウサ？」
「ええ、俺おれは好すきですよ。ピーテも好すきですね」
「妾わらわも食たべてみたいのウサ」

　俺おれは、どうしても聞ききたくなったので確認かくにんしてみる。

「ところでお嬢様じょうさま、もしかして、ウサギ族ぞくなのですか？」
「ひゃ！　な、なんで分わかるのウサか」
「だって、『ウサ』って付ついているし」
「それで分わかるのウサか」
「俺おれの世界せかいでは常識じょうしきだ」
「しくじったウサ」

　しぶしぶという感かんじでローブのフードを脱ぬいでくれる。可愛かわいい系けいの美少女びしょうじょで、肌はだは白しろい、長ながい髪かみの毛けも白しろく、眼めだけが赤あかい。吸すい込こまれそうな深ふかい赤あかだ。もちろん、頭あたまには長ながいウサ耳みみが付ついている。

「にゃ。白しろい兎人族うさぎひとぞくは、王家おうけの印しるしにゃ。魔法まほうの才能さいのうに優すぐれていて、とっても強つよいにゃ。初はじめて見みるにゃ。可愛かわいいにゃ」
「かわいいウサ？」
「うん、とっても可愛かわいいよ」

　可愛かわいさをほめると、少女しょうじょらしさの優やさしい笑えみを返かえしてくれる。天使てんしだ。ウサギの天使てんしちゃんだ。きっと後うしろには真まっ白しろな翼つばさを隠かくしているに違ちがいない。
　俺おれが、感動かんどうして見みつめていると、小首こくびを傾かしげて見みつめ返かえしてくれる。さらに天使てんし度どが上あがった。
　なぜか隣となりのピーテが俺おれのお尻しりを捻ひねってきた。い、痛いたい。

「そ、それで、ポテチなのウサ」

　お嬢様じょうさまはポテチの詳細しょうさいを聞きいてきた。俺おれは、色々いろいろな味あじがある事こと、サクサクしてうまいことなどを話はなした。そして王宮おうきゅうに着ついたら、ジャガイモと油あぶらを確保かくほしてくれることになった。

「お嬢様じょうさま、それでお名前なまえは？」
「ウサ子こ、十九じゅうきゅう歳さいでウサ」
「嘘うそは良よくないな。もうバレてるんだから真実しんじつを」
「うむ。分わかったウサ」

　ウサ子こは、ローブを脱ぬいで膝ひざ立だちになる。

「アリス・ルーベルト・セルフィール、第だい三さん王女おうじょ。十五じゅうご歳さいでウサ」
「はい、よくできました」

　スカートの端はしをちょこんと持もって広ひろげて頭あたまを下さげる。可愛かわいい。しかも格好かっこうが赤あかと白しろでできた上着うわぎに、赤あかのチェックのプリーツのミニスカート、そして白しろいニーソックスである。
　現代げんだい風ふうとは少すこし違ちがうがなんだろうこれ。ちなみに、どことは言いわないがぺったんこだった。

　また、ローブを羽織はおって前まえを締しめた。ただしフードは被かぶらない。
　その後あとは約束やくそく通どおり色々いろいろな事ことを話はなす。最初さいしょは静しずかだったのが嘘うそのようだ。人見知ひとみしりをしていたらしい。
　あの格好かっこうは防御力ぼうぎょりょく的てきにどうかと思おもったが、霊れい糸しという特殊とくしゅな糸いとでできていて、魔力まりょくを込こめると、魔力まりょくの幕まくのようなものを外側そとがわに展開てんかいして防御ぼうぎょできるため、魔法まほう・物理ぶつり両方りょうほうとも普通ふつうの鉄てつ鎧よろいよりも高たかい防御力ぼうぎょりょくを誇ほこるそうだ。

　アリスと民主みんしゅ主義しゅぎや議会ぎかい制せいについて話はなす。この国くにだけでなくこの世界せかいでは、王国おうこくがほとんどで議会ぎかいも元老院げんろういんのようなものはあるものの、市民しみんの代表だいひょうが集あつまったりすることは皆無かいむだそうだ。

「王おうが右みぎへと言いったら軍ぐんは右みぎへ動うごく。迅速じんそくに決きめねば戦争せんそうに負まけてしまうウサ」

　確たしかに戦争せんそうなどをやっている場合ばあいは、議会ぎかいでぐだぐだ決きめている時間じかんはないだろう。そういう世界せかいでは民主みんしゅ主義しゅぎはあまり有効ゆうこうではないかもしれない。
　宗教しゅうきょうについて聞きいてみたが、東邦とうほうは分わからないがこの辺へんの国くにでは神殿しんでんで聖せいサルクが信奉しんぽうされているものの、あまり権力けんりょくは持もっておらず、病院びょういんと孤児院こじいんと冠婚葬祭かんこんそうさい、例れいの祝福しゅくふくをするだけのようだ。大おおきい街まちでは病院びょういんと孤児院こじいんは別べつの組織そしきになっているそうだ。

　魔法まほうについても聞きいてみた。なにやら難むずかしいことをぶつぶつしゃべりだしたので、要点ようてんだけを頼たのむとお願ねがいした。

「生活せいかつ魔法まほうには、ライトの魔法まほうもあるウサ」

　そう言いって光ひかりの玉たまを出だして見みせるアリス。空中くうちゅうに玉たまが浮ういている。俺おれも試ためしてみたら、あらびっくり。でかい光ひかりの玉たまが出来できてまぶしくて皆みなに非難ひなんされた。

「攻撃こうげき・回復かいふく魔法まほうは学院がくいんの管轄かんかつウサ。私わたしは飛とび級きゅうで魔法まほう科かをすでに卒業そつぎょうしたウサ」
「俺おれは学校がっこうって年齢ねんれいでもないので、他ほかを当あたりたいんだが」
「なら、私わたしが道中どうちゅう教おしえてあげるウサ」

　アリスはかなり優秀ゆうしゅうな生徒せいとだったようだ。念願ねんがんの魔法まほうがついに俺おれの物ものに。

「それで今いまはお忍しのびで国内こくないを回まわってばかりいるウサが、これももう飽あきたウサ。どこへ行いっても似にたような景色けしきウサ」

　そう言いながら、収納しゅうのう魔法まほうで出だしたポコジャーキーをモグモグ食たべている。俺おれたちにも分わけてくれる。以前いぜん貰もらったものと違ちがい胡椒こしょうが効きいている高級こうきゅう品ひんだ。

《!right》「まさか収納しゅうのうの中なか、全部ぜんぶポコジャーキーじゃないよな」《!right》
「まさかまさか、ちゃんとロッドをしまってあるウサ」
「ロッド以外いがいは？」
「ジャーキーを中心ちゅうしんに小物こものを少々しょうしょうしまってあるウサ」

　一通ひととおりしゃべり終おわると、俺おれたちの魔法まほうの練習れんしゅうを始はじめた。
　まずは回復かいふく魔法まほうだ。俺おれはライトの魔法まほうからすると、魔法まほうの才能さいのうはあるほうだそうだ。
　俺おれは特とくにケガをしていないが、俺おれに回復かいふく魔法まほうを掛かけてくれる。アリスは俺おれに向むかって両手りょうてをかざし目めをつぶる。俺おれはほんのり体全体からだぜんたいが暖あたたかくなった。連日れんじつの訓練くんれんの疲つかれが取とれたような清々すがすがしい気持きもちになった。

「ヒールよ。お手本てほんは見みせたウサ。妾わらわに向むかって同おなじことをしてみるウサ」

　俺おれはアリスに向むかって両手りょうてをかざし、両手りょうての先さきから癒いやしパワーをアリスの全体ぜんたいに向むかって放出ほうしゅつするイメージをする。

「ヒ、ヒール」

　魔法まほう名めいを発はっしてイメージを強化きょうかする。しかし特とくに何なにも感かんじない。

「もう一回いっかい、ヒール！」

　しかし、うまくいかない。さらに五ご回かい連続れんぞくでやってみると、手ての先さきに集あつまっていた魔力まりょくが自分じぶんの体からだから抜ぬけていく感かんじがした。

《!left_pink》「おお、暖あたたかい。気持きもちいいウサ。たぶん成功せいこうウサ。人ひと族ぞくのくせに呑のみ込こみが早はやいウサ」

　お手本てほんを見みたからか、俺おれはすぐにヒールらしき魔法まほうを習得しゅうとくした。

「ホクトさん、私わたしにもヒール掛かけてください」
「ホクト、あたしにもヒールを掛かけてにゃ」
「はいはい」

　ピーテ、ソティにそれぞれヒールを掛かけてやる。

「おー暖あたたかくて、すっきりしました」
「ぽかぽかにゃ。気持きもちいいにゃ」
「ちなみに、魔力まりょくを消耗しょうもうするとどうなるんだ？」
「すっごく眠ねむくなり、すぐ寝ねてしまうウサ。でもその前まえに減へってきたのが感覚かんかくで分わかるウサ」

　俺おれの魔力まりょくはまだまだありそうだ。あと二十にじゅっ回かいは楽勝らくしょうな感かんじである。ピーテとソティも練習れんしゅうしたがうまくいかないようだ。
　たまに休憩きゅうけいを挟はさみつつ夕方ゆうがたには次つぎの村むらに到着とうちゃくした。今日きょうは村むらの宿やどで一泊いっぱくの予定よていだ。ここは主要しゅよう街道かいどうなので、だいたいは馬車ばしゃで一いち日にちの距離きょりごとに村むらか町まちがあるそうだ。
　この日ひの宿屋やどやはアリスはギーナさんと、俺おれたちは三人さんにんで一ひと部屋へやだ。ツインの部屋へやでピーテとソティが同おなじベッドで眠ねむることになった。
　この日ひの夕食ゆうしょくは宿屋やどやの食堂しょくどうで、固焼かたやき黒くろパンにポコ肉にくのスープ煮込にこみ、一切ひときれのチーズだった。アリスが主人しゅじんだからといって豪華ごうかな食事しょくじというわけではなく、普通ふつうに同おなじものを一緒いっしょのテーブルで食たべた。