●３２. 外伝がいでん１：ドラゴン退治たいじ

　獣人じゅうじん国くにの王宮おうきゅう生活せいかつでのんびり過すごしていたところ、唐突とうとつに王様おうさまに呼よばれた。

「ホクト、すまぬ」
「なんでしょうか？」
「西にしのほうでな、ドラゴンが出でた」
「おお。ドラゴン、本当ほんとうにいるんですね」
「ドラゴンは強敵きょうてきだ」
「なんとなく知しっています」
「そうか、すまんが様子見ようすみを、できれば追おい払はらってほしい。倒たおしてもかまわん」
「あはは、倒たおせますかね、俺おれに」

　という感かんじに会話かいわがあったわけだけど、俺おれたち一行いっこうは馬車ばしゃで西にしに進すすんだ。
　休暇きゅうかは一時いちじお休やすみだ。ん？　お休やすみがお休やすみか。ややこしい。

　西にしのほうはピーテとソティの故郷こきょうだけど、それはもう少すこし南側みなみがわで今回こんかいは北西ほくせいなので方向ほうこうが違ちがった。
　だからワープとかも使つかえない。

「そういえば、前まえにドラゴン・フライが出でたっけな」
「え、大丈夫だいじょうぶウサ？」
「トンボのことだよ」
「なんだウサ」

　アリスをちょっとからかって遊あそぶ。

　今回こんかいは御者ぎょしゃに女おんな騎士きしのギーナさんがついてきている。
　メンバーはフルで、猫ねこ人ひと族ぞくピーテ、犬いぬ人ひと族ぞくソティ、兎うさぎ人ひと族ぞく王女おうじょアリスの三人さんにんの忠誠ちゅうせい奴隷どれい。
　それからエルフのフルベール。忠誠ちゅうせい奴隷どれいの魔王まおうちゃん。
　参加さんか順じゅんで、こんな感かんじになっている。いつもと一緒いっしょだ。

　奴隷どれいの首輪くびわは獣人じゅうじん国こくでは少すこし目立めだつけど、彼女かのじょたちにすれば「ご主人しゅじん様さまの立派りっぱな奴隷どれい」として示しめせるから誇ほこらしいとか。
　人間にんげんの俺おれがご主人しゅじん様さまなので、あまり獣人じゅうじん国こくではいい顔かおされないけどね。

　そんな旅たびも慣なれたもので、四日よっか。
　目標もくひょうのステルイス山脈さんみゃくのメトクリア山やまが近ちかづいてきた。

　すごく高たかいです。

　山頂さんちょう付近ふきんには残雪ざんせつが見みえる。標高ひょうこうは四千よんせｎメートルぐらいだろうか。

「すごいですね」
「ああ」

　低ひくい峠とうげを登のぼり切きった場所ばしょで、一気いっきに向むこう側がわが見みえた後あと、みんなで御者ぎょしゃ席せきの横よこから顔かおを出だして、山やまを眺ながめてしまった。

　あとは見みえている山やままで一直線いっちょくせんだ。
　今日きょうも今日きょうとて、アリスの好すきな胡椒こしょうの効きいているビーフジャーキーをもぐもぐする。

　それでも山やまのふもとにたどり着ついたときには、緊張感きんちょうかんが高たかまっていた。

「いよいよじゃの」
「そうだな」

　魔王まおうちゃんの一言ひとことに、みんな気きを引ひき締しめる。
　彼女かのじょも俺おれのパーティーに参加さんかして以来いらい、別べつに威張いばるばかりでなく、気きを使つかったりしてくれて、それなりに馴染なじんでいた。

「勇者ゆうしゃとか、めんどいよな」

「強つよい者ものの定さだめです」
「まあ、そう言いわないにゃ」
「王女おうじょにふさわしいご主人しゅじん様さまウサ」
「え、強つよいほうがいいのです」
「魔王まおうを従したがえているんだから、当然とうぜんじゃな」

　まあ、みんな俺おれのことを一応いちおう、立たててくれる。

　さて、山やまのふもと最後さいごの宿場町しゅくばまちに馬車ばしゃを置おかせてもらって、ここからは歩あるきだ。
　ギーナさんは馬車ばしゃとお留守番るすばんだ。

「姫様ひめさま、皆様みなさま、ご無事ぶじに」
「大丈夫だいじょうぶウサ」

　別わかれを惜おしみつつ進すすむ。

　えっちら、おっちら登のぼる。
　登山道とざんどうは狭せまいしガタガタしているため、とても馬車ばしゃでは登のぼれない。
　うちのパーティーーではピーテ、アリス、フルが収納しゅうのう魔法まほうを使つかえるので、背負せおい荷物にもつは最小限さいしょうげんだ。

「あ、ミルフィール草そうなのです」

　登山道とざんどうすぐのところに、何なにか生はえているらしい。
　エルフは植物しょくぶつに詳くわしいのか、フルが指ゆびを差さす。

「それは？」
「高級こうきゅうポーションの材料ざいりょうになるのです。使つかわなくても、高たかく売うれるのです」

　なるほど、採とって行いこう。

　その後あとも山やまを登のぼっていく。ほとんど登山とざんだ。

「グアワアアア」

　いきなりの鳴なき声ごえで上うえを見上みあげると、そこには竜りゅうが。
　すわドラゴンかと一瞬いっしゅん思おもったけど、違ちがう。こいつはワイバーンだ。

「魔法まほうで、対処たいしょ、するのです」

　フルが言いうなり、魔法まほうを放はなつ。
　アリス、魔王まおうちゃんが続つづいて火ひ魔法まほう、氷こおり魔法まほうを連続れんぞくして打うち上あげる。
　対空たいくうミサイルみたいでちょっと格好かっこいい。

　何発なんぱつか命中めいちゅうして、ワイバーンは逃にげていった。

「やったウサ」

　誘導ゆうどう弾だん五ご発はつを撃うてるアリスは得意とくい顔がおだった。

「おぉ、みんなよくやったぞ」

　俺おれは何なにもしていないのに、ご主人しゅじん様さまということで、みんなの頭あたまを順番じゅんばんに撫なでてほめていく。

「ふわぁあ」
「あわわにゃ」
「うふふウサ」

　とまあこんな感かんじで、みんなご機嫌きげんだった。

「さあ、次つぎはドラゴンかもしれない。気合きあい入いれるぞ」
「「「おーお」」」

　再ふたたび真剣しんけんな顔かおになった一行いっこうは山登やまのぼりを再開さいかいする。
　ここのところ王城おうじょうでカレーパンとかポテトチップスとか食たべていたので、不養生ふようじょうというか、お肉にくが少すこしついてしまったかもしれない。
　なかなか急斜面きゅうしゃめんになってくると、きつくなってくる。

「はぁはぁはぁ」
「まだですかぁ」

　ちょくちょく休やすみを入いれつつ、登のぼる。
　それでも冒険者ぼうけんしゃとしてそれなりに自負じふがあるので、普通ふつうの人ひとよりは登のぼるのが早はやいはずだ。

　登山道とざんどうは山頂さんちょうに向むかって伸のびていた。
　尾根おねを左ひだりから右みぎに超こえて、いわゆるガレ場ばという、岩いわがごろごろしている谷たにに出でた時とき、その一番いちばん下したの場所ばしょに、ヤツは鎮座ちんざしていた。


　――ドラゴン。


　真まっ赤かな鱗うろこ。その巨体きょたいは何なんメートルあるだろうか。

　俺おれたちに気きが付ついていないはずがないが、寝ねている。
　丸まるくなって、陽ひにあたって、気持きもちよさそうに、寝ねている。

「くわあ」

　俺おれは思おもわず、変へんな声こえを出だす。

　俺おれたちのことなんか、気きにしていないらしい。
　どうせ虫むしぐらいにしか感かんじていないのだ。

　羽はねは広ひろげて、のんびりリラックスしているようにしか見みえない。
　なんてやつだ。

「なあ、魔王まおうちゃん。どう思おもう？」
「お昼寝ひるね中ちゅうじゃな」
「そうだね」
「竜りゅうは寝ねているところを起おこすと、機嫌きげんが悪わるいと言いわれている」
「だろうなぁ」

　寝ねた子こを起おこす、とは言いうが「寝ねている竜りゅうを起おこす」のは不味まずい。
　かといって魔法まほうをぶっ放ぱなしたところで、あれを倒たおしたり追おい払はらったり、できるだろうか。

「分わかった。俺おれがお供そえ物ものをしてくる」
「「「ホクトさん」」」

　みんなが引ひき止とめるけど、他ほかに何なにも思おもいつかない。

「大丈夫だいじょうぶ、大丈夫だいじょうぶ。たぶん」

　ピーテにポコ牧場ぼくじょうで採とってきたポコを一頭いっとうまるまる出だしてもらう。
　それをワープでドラゴンの目めの前まえに飛とばす。

「――ンッ？」

　さすがにドラゴンが目めを覚さます。

「――コレは、ナンだ」

　威厳いげんのある低ひくい声こえ。こいつ、話はなしができるぞ。

「さ、ささげものです。どうぞ、ご賞味しょうみください」
「――フム。ソウか」

　ドラゴンが立たち上あがる。デカい。
　寝ねてても大おおきかったが、翼つばさを広ひろげ二本足にほんあしで立たつと、めちゃくちゃに大おおきい。

　がぶ。

　ポコは一口ひとくちだった。
　むしゅむしゃと咀嚼そしゃくする。

　ごくん。

　丸まるのみだ。すごい。

「――ソレで。ナンの用ようだ」

「すみません。セルフィール王国おうこく、デコア王国おうこくって分わかりますか」
「――ワカるぞ」
「できれば、東ひがしのデコア王国おうこくのほうへ引ひっ越こしてほしいのですが」
「――ソウか。フン。ただし条件じょうけんがある。ワレと戦たたかえ」
「えええっ」
「――イナとはイワせん。ハジメルぞ」

　羽はばたいて、飛とんだ。

　俺おれたちのほうに向むかってくる。

「くぅ、迎撃げいげき！！」
「「「おお」」」

　対空たいくう砲火ほうかだ。魔法まほうが使つかえるメンバーは、全ぜん弾だん発射はっしゃ。

「ファイヤー・アロー！」

　俺おれも火ひの矢やを放はなつ。可能かのうな限かぎりの数かずを。
　狙ねらいは甘あまいが、放射ほうしゃ状じょうに撃うったので何発なんぱつかは命中めいちゅうするだろう。

　みんなの魔法まほうも次々つぎつぎドラゴンへと命中めいちゅうした。
　命中めいちゅうはしたけど、ほとんど効きいていない。

「――ユカい。ユカい。ワハハハ」

　ドラゴンが高たかく一度いちど飛とび、急降下きゅうこうかしてくる。
　何なにをする気きだ。

　口くちを大おおきく開あける。
　ブレスだ。

　ドラゴンの最大さいだいの攻撃こうげき、ドラゴン・ブレス。
　真まっ赤かに燃もえる火炎かえん放射器ほうしゃきのようなブレスが襲おそい掛かかってくる。

「ウィンド・ルーフ」
「アース・ウォール」
「魔王まおうちゃん版ばん、鉄壁てっぺき防御ぼうぎょ、ふんぬ」

　風かぜの防御ぼうぎょ魔法まほう、土壁つちかべの物理ぶつり盾たて、それから手持てもちの盾たて。
　みんなでまとまって、防御ぼうぎょを何なんとか固かためる。

　ブレスは風かぜの防御ぼうぎょ魔法まほうによって左右さゆうに分わかれて、俺おれたちを囲かこうように流ながれていった。
　魔王まおうちゃんの防御ぼうぎょ魔法まほうは初はじめて見みる。よく知しらない。
　なんとか防ふせぎきった。

「――ナカナカやる」

　風かぜ魔法まほうでピーテとソティを打うち上あげる。

「「うりゃあ」」

　ぐるっと回まわってきたドラゴンの真正面ましょうめんの上うえに、ちょうど位置いちしていた。
　剣けんで上うえから斬きりつける。

　顔かおにちょうど当あたる。

「――ぐわあああ」

　オデコに傷きずができていた。

「いまだ」

　魔法まほう部隊ぶたいも魔法まほうを連射れんしゃする。
　ほぼ全ぜん弾だん命中めいちゅうした。数かずは力ちから、のはずだ。

「――おおおお。ユカい。ユカい」

　よろよろとダメージを食くらったらしいドラゴンは俺おれたちの前まえに降おりてきた。

「――ニンゲンの子こよ。ナカナカいいタタカイだった。またアソボウ。ではさらばだ」

　ドラゴンはそう言いい残のこすと、東ひがしへ、デコア王国おうこくのほうへ飛とんで行いってしまった。
　さすがにドラゴンを追おうことはできない。

「終おわった」

「やったです？」
「やったにゃ」
「勝かちましたウサ」
「えっと、勝かったのです？」
「まあ、ええじゃろ」

　ドラゴンは、戦闘せんとう狂きょうなのだろうか。
　怒おこらせないようにしよう。

　討伐とうばつしてこい、とは言いわれていない。
　追おい払はらったからいいだろう。
　デコア国王こくおうすまん。そっち行いったから頑張がんばってくれ。
　幸運こううんを祈いのる。

　俺おれたちはまた獣人じゅうじん国こくの王都おうとに戻もどり、ハーレムして過すごすのだった。

(了)

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　これにて完結かんけつとなります。
　ここまでお読よみくださり、ありがとうございました。
　またどこかでお会あいしましょう。