●２８. 帝都ていとと皇帝こうていと悪魔あくま

　帝都ていとの宿やどに着ついてさっそく馬車ばしゃを置おき、海岸かいがんにあるという皇宮こうぐうに向むかった。
　海辺うみべには大おおきな皇宮こうぐうがあり中ちゅうに入いれてもらう。
　海うみの中なかには規模きぼの小ちいさい離はなれ島じまがあり、断崖だんがい絶壁ぜっぺきを誇ほこっていた。
　この島しまに小ちいさな宮殿きゅうでんがありそこで皇帝こうていは暮くらしているという。

　皇宮こうぐうの中なかを歩あるかされて、中庭なかにわのようなところに出でると気球ききゅうが用意よういされていた。

「では、この気球ききゅうに乗のって離宮りきゅうのほうへご案内あんないします」

　どうやら島しままで行いかないといけないらしい。

　気球ききゅうにみんなでなんとか乗のり込こんだ。
　そこまで空そらは高たかくないとはいえ、それなりに怖こわい。

「すごいですねぇ」
「高たかい怖こわいにゃん」
「こ、怖こわいウサ」

　ピーテは平気へいきそう。ソティは怖こわがっている。
　運転手うんてんしゅと護衛ごえいが一人ひとり。そして俺おれたち五人ごにんの計けい七人ななにん乗のり。地球ちきゅうの熱気球ねつききゅうと比くらべると、ちょっと大おおきいと思おもう。
　ピーテとアリスが俺おれにくっついてくる。特とくにピーテの一部分いちぶぶんが柔やわらかくてなんかすごい。ぽよんぽよん。温あたたかいしこれは俺おれ得とく。
　海うみの上うえは怖こわかったけど、なんとか宮殿きゅうでんのところに着ついた。

　すぐに出迎でむかえの近衛兵このえへいに出迎でむかえられて、謁見えっけんの間まというところへ案内あんないされた。
　皇帝こうていはイケメン風ふうのおじさんで、まあ皇帝こうていっぽい普通ふつうの人ひとだった。

「よく来きたな」
「はい。面会めんかいしていただきありがとうございます」
「よいよい。堅苦かたくるしいのはナシじゃ、楽らくに話はなせ」
「ありがとうございます。ではさっそく、親書しんしょをセルフィール王国おうこく、国王こくおうからです」
「持もってまいれ」

　アリスが頭あたまを下さげてから、アンダルシア皇帝こうていに親書しんしょを手渡てわたす。
　普通ふつうの人ひとなら間あいだに家臣かしんを通つうじて渡わたすものだけどアリスはこれでもお姫様ひめさまだから、直接ちょくせつ渡わたすのを許ゆるされている。

「ふむふむ、なるほど、確たしかに勇者ゆうしゃ殿どのだな。我々われわれが彼かれを召喚しょうかんしたというのも間違まちがいではない。確たしかに召喚しょうかんの儀式ぎしきはしたが失敗しっぱいしたと思おもっていたが、成功せいこうしていたのか」

　なるほど、俺おれを異世界いせかいに呼よびつけたのはどうやらこの人ひとたちらしい。

「して、勇者ゆうしゃ殿どの、今更いまさらではあるが、我々われわれの勇者ゆうしゃとして、魔王まおう討伐とうばつの件けん、受うけてくれるのだろうか」
「まあそういわれると、ちょっと困こまりますが」
「力ちからはそれなりにあると書かかれているし、見みれば分わかる。装備そうびもいいものをしているじゃないか」
「それなりには、まあ」
「魔王まおうは今いま、我わが帝国ていこくの東ひがしの隅すみ、砂漠さばくを横断おうだんした先さきにある魔ま王国おうこくにおる。誕生たんじょう間まもない魔王まおうだが、力ちからが弱よわい今いまのうちにやらねば、被害ひがいはこの先さき、増ふえるばかりだ」
「はぁ」
「そちらのセルフィールも他人事たにんごとではあるまい。前回ぜんかいの魔王まおうははるか昔むかしであったが、当時とうじ、人類じんるいは危機ききに瀕ひんしており、獣人じゅうじん奴隷どれいを大量たいりょう投入とうにゅうして戦闘せんとうをし、多大ただいな被ひ害がいがあった」
「獣人じゅうじん、セルフィールが」
「そうだ。今いまもまた、魔族まぞくの進行しんこうが開始かいしされれば、我々われわれはセルフィールに宣戦布告せんせんふこくし、蹂躙じゅうりん。大量たいりょうの獣人じゅうじん奴隷どれいを確保かくほしたのち、使つかい捨すてる戦法せんぽうをとることになる可能性かのうせいは高たかい」
「そんな！　獣人じゅうじんたちが、セルフィールが何なにをしたっていうんですウサ」
「何なにもしていないが、個々ここの能力のうりょくがそれなりに高たかい、獣人じゅうじんは戦闘せんとう向むきなのだ。今いま国内こくないにいる奴隷どれいだけでも、戦場せんじょうには投入とうにゅうされるだろうな」
「分わかりました。俺おれたちがやります。やってやろうじゃないか」
「そうか、そうしてもらえると助たすかる。今更いまさら獣人じゅうじん奴隷どれいというのも正直しょうじき面倒めんどうで気きも進すすまん。しかしそちらに並ならんでいる家臣かしんたちはそのつもりらしいのでな」
「はぁ、分わかりました。引ひき受うけます」

　なるほど、こういう話はなしを聞きいて、黙だまってはいられない。

　皇帝こうていは奴隷どれいたちにも変へんな目線めせんもやらなかったし、極きわめて紳士しんしだった。いや内心ないしんは変態へんたい紳士しんしなのかもしれないが外面がいめんに出ださないというだけでも、十分じゅうぶん人間にんげんのできてる人ひとらしい。
　獣人じゅうじんを弾圧だんあつしている親玉おやだまというから恐怖きょうふで政治せいじをしているのかと思おもっていたのに、なんだか全然ぜんぜん違ちがった。
　昼食会ちゅうしょくかいも開ひらかれて、普通ふつうに美味おいしいご飯はんをいただいた。お肉にくもカニも出でて、ピーテもソティもよろこんでいた。
　アリスだけはちょっと獣人じゅうじんが奴隷どれい化かされて戦争せんそうさせられる話はなしをまだ少すこし気きに病やんでいたようで、あまり浮うかない顔かおをしていた。

　ご飯はんも終おわり、俺おれたちは今後こんごの予定よていを考かんがえなきゃならない。

　装備そうびはすでに十分じゅうぶん強つよいやつになっている。
　魔法まほうの訓練くんれんもそれなりにしたし、剣けんだって毎日まいにち訓練くんれんしているし、ダンジョンでは実践じっせんもした。
　冒険者ぼうけんしゃランク的てきにはまだＣランクだけど、これは経験けいけんというか実績じっせきの回数かいすうが圧倒的あっとうてきに足たりないだけで、実力じつりょくならＡランクぐらいだと思おもう。
　うぬぼれかもしれないけど、それなりに戦たたかえるはず。

　今後こんごの予定よていを王様おうさまや家臣かしんたちと話はなして、予定よていを立たてた。
　今いまのまま馬車ばしゃの旅たびを続つづければいいらしい。
　向むかうのは東ひがしの果はて。

　また気球ききゅうの怖こわい、空そらの道みちを通とおって帝都ていとに戻もどり、三日みっか間かん観光かんこうをした。
　観光かんこうぐらいは別べつに問題もんだいないらしい。

　そして東ひがしへと旅立たびだち、毎日まいにち馬車ばしゃに揺ゆられた。
　もう慣なれたものだ。
　アリスは奴隷どれいになってから顔かおを隠かくせないので、現地げんちの人ひとたちは怖こわがったりするが、笑顔えがおを向むければころっと態度たいどを変かえたりする。
　たまにアリスが目めに涙なみだを浮うかべて泣なき脅おどしをすると、やっと態度たいどを軟化なんかさせる人ひともいる。

　途中とちゅうの宿町しゅくまちの食堂しょくどうでこんなことがあった。
　ちょうど夕食ゆうしょくを食たべていたところだった。

「おい、そいつ、セルフィールの白しろい悪魔あくまじゃないか」
「それは本当ほんとうかい」
「ああ、白しろいウサギは王家おうけの証あかし、そして悪魔あくまだって、昔むかし確たしかに聞きいたぜ」
「そりゃ怖こわいわね」

　高齢こうれいの夫婦ふうふが言いっていた。

「よし、身体検査しんたいけんさをしようぜ。全裸ぜんらに剥むいて、俺おれたちにそれでも逆さからわないか確たしかめるんだ。どんな体たいしてんだろうなぁ」

　ゲスい中年ちゅうねんのいかにも悪わるいやつですっていう感かんじの顔かおの暴漢ぼうかんが、舌したなめずりして言いってくる。
　酒さけでも飲のんでいたのか顔かおが赤あかい。
　まだ胸むねもほとんど膨ふくらんでいないこんな可愛かわいいアリスを全裸ぜんらにするだなんて冗談じょうだんじゃない。

「そんな、酷ひどいですウサ。私わたし何なんにも悪わるいことしてないのに。人ひとだって殺ころしたことないのにウサ」

「ほれ立たてよ、悪魔あくまさんよ」

　アリスは立たち上あがると、目めに大粒おおつぶの涙なみだを浮うかべて泣なき出だした。
　他ほかの子こたちも、全員ぜんいんで暴漢ぼうかんをにらみつける。

「あんたさ。忠誠ちゅうせい奴隷どれいの赤あかい首輪くびわが見みえないかね。俺おれの奴隷どれいだ。命令めいれいすればすぐに全裸ぜんらにもなれるが、このか弱よわい女おんなの子こにそんなことさせられない」
「けっ、なにが女おんなの子こだ。獣けものじゃねえか動物どうぶつだよ」
「脱ぬがしてみれば女おんなの子こだって分わかるけど、それをしたら今度こんどはあんたさんの評判ひょうばんが地ちに落おちるけどいいのか」
「そりゃ困こまるな。人間にんげんだったらな、ガハハ。この国くにじゃあ獣人じゅうじんなんて獣けものだよ。人ひとじゃねえ」
「この子こは、死しねと命令めいれいすれば、躊躇ちゅうちょせず首くびにナイフを刺さして死しにますよ。忠誠ちゅうせい奴隷どれいですからね」
「ご主人しゅじん様さまこうですウサ？　裸はだかにされてなぶられるくらいなら、ご主人しゅじん様さまいっそ死しなせてください」

　アリスはそういうとナイフを収納しゅうのうから魔法まほうで取とり出だして自分じぶんの首くびに向むける。

「ぐぬぬ」

　暴漢ぼうかんは若干じゃっかんひるんだがまだのようだ。
　そこへフルベールが手てを挙あげて、話はなしだす。

「この子こは確たしかにセルフィールの白しろい悪魔あくまよ。でもね今いまはホクトの忠誠ちゅうせい奴隷どれいなのですよ。もし万まんが一いちにもここで何なにかしてごらんなさい。なんでもいうことを聞きく、悪魔あくまの名なにふさわしい魔法使まほうつかいのお姫様ひめさまにいくらの値段ねだんがつくと思おもうのかしら？　どんなバカでもそれくらい分わかるでしょ。それこそ国家こっか賠償ばいしょうに、国家こっか間かんの問題もんだいになるわ」
「ぐっ、くそ」

　アリスのナイフは先端せんたんが鋭利えいりにとがっていて、ほんの少すこしだけ肌はだを傷きずつけて血ちが浮うかんできた。
　アリスは涙なみだを浮うかべたまま辛からそうな顔かおをして、暴漢ぼうかんをまっすぐに見みつめていた。
　それを見みている周まわりの客きゃくも、暴漢ぼうかんに非難ひなんの視線しせんを投なげかけてくる。

「泣ないてるじゃないかあの子こ」
「悪魔あくまってどっちが悪魔あくまだか分わからないぜ、まったくよう」
「やだねぇ獣人じゅうじん差別さべつ主義者しゅぎしゃは。忠誠ちゅうせい奴隷どれいなら絶対ぜったい服従ふくじゅうは当あたり前まえだろ、そんなことも知しらないのかねぇ、無知むちはやだねぇ」

「いや、そ、そこまでしろとは言いってねえだろ、俺おれは！　っけ、なんだよ俺おれは悪わるくねえ。悪魔あくまなんだぞ、っけ。そんなミニスカートなんて履はいて誘さそってくるほうが悪わるいんじゃねえか」

「あんな幼おさない子こに欲情よくじょうなんてしてまぁ」
「変態へんたいだわ変態へんたい。悪魔あくまだなんだって言いって小ちいさい女おんなの子こ全裸ぜんらにしたいだけの変態へんたい」
「なんだ獣人じゅうじん差別さべつかと思おもったら単たんなる言いい訳わけかぁ、ダサいなぁ」

　客きゃくたちはどうやら俺おれたちの味方みかたらしい。

「くそったれ、もういい、じゃあな、俺おれは寝ねる」

　暴漢ぼうかんも泊とまり客きゃくらしく、二階にかいに引ひっ込こんでいった。
　最初さいしょに悪魔あくまだと言いった老夫婦ろうふうふは謝あやまってくれた。

　アリスのミニスカートがちょっとエッチいのには俺おれも同意どういするところではあるんだが、あえて地雷じらいを踏ふみたいとは思おもわない。
　特とくに白しろいニーソックスとの間あいだの絶対ぜったい領域りょういきが肌はだがすべすべで白しろいのもあって、とってもまぶしい。
　スカートの中なかがどうなってるのかは、気きになるポイントではあるだろうけど、公然こうぜんと中なかを調しらべようなんて人間にんげんのすることじゃない。