●１５. きな臭くさい話はなし

　皆みんなで東国とうごくへ行いくことに決きめた次つぎの三日みっか間かんは特別とくべつなこともなく、平和へいわに迷宮めいきゅう探索たんさくをし魔法まほうの練習れんしゅうをして、ご飯はんを食たべて過すごしていた。
　ちょっとだけアリスの俺おれへ対たいする態度たいどが前まえより柔やわらかくなったと感かんじる程度ていどだ。

　異変いへんがあったのは、さらに次つぎの日ひだ。

　普通ふつうに迷宮めいきゅうへ入はいって暫しばらくしてからピーテがひそひそ声ごえで言いった。

「今日きょうは何なにかつけられてますね。人数にんずうはそこそこです」
「とりあえず、このまま進すすもう」

　俺おれたちは気きが付ついていないふりをして、二に回かい角かどをまがって様子ようすを見みる。

「次つぎの角かどを曲まがったら待伏まちぶせしよう」

　俺おれたちは角かくをまがって武器ぶきを準備じゅんびする。
　そこへ、なに食くわぬ顔かおでボロイ金属きんぞく製せいの鎧よろいを着きた五人ごにんの男おとこたちが角かどを曲まがってきて、俺おれたちと対峙たいじする。賊ぞくはすでに武器ぶきを抜ぬいていた。全員ぜんいんがショートソードと大盾おおたてを装備そうびしている。盾たてだけが金きんピカで高たかそうだ。全員ぜんいん猫耳ねこみみだが、黒くろい仮面かめんを着つけていて顔かおは分わからない。

「おっと。俺おれたちはたまたま後うしろを歩あるいていただけの冒険者ぼうけんしゃでさあ。通とおしてくれませんかね」
「ずっとあとをつけてきただろ。分わかってる」
「それなら、お姫様ひめさまをこっちに渡わたしてもらおうか。素直すなおに引ひき渡わたしてくれたら手ては出ださねえ」

　五ご対たい四よんでこちらが不利ふりかもしれない。俺おれが最強さいきょうだったら一人ひとりで狂くるったように戦たたかうだけで勝かてるかもしれないが、そうではない。
　徐々じょじょに近ちかづいてきて威圧いあつしてくる。俺おれはとりあえず従したがうふりをすることにした。

「分わかった。言いうとおりするから全員ぜんいん殺ころさないでくれ」

　アリスが息いきを飲のむのが見みえた。

「よし。そのまま、俺おれたちが言いうとおりに、俺おれたちの前まえを進すすんでもらう」
「ホクトたちに何なにかしたら、全員ぜんいん雷かみなりで丸まる焦こげになってもらうウサ」

　賊ぞくに命令めいれいされてアリスが反発はんぱつする。

「なに、従したがってる間あいだは何なにもしないさ」

　右みぎや左ひだりに誘導ゆうどうされて進すすんでいく。この辺へんは入いり口ぐちからほど近ちかいので、敵てきはほとんど出でない。しかし一度いちどレタスが出でて、俺おれたちが戦たたかわされた。
　そのまま出口でぐちから何なに食くわぬ顔かおで出でて、門番もんばんの前まえを通過つうかする。真後まうしろを取とられているので、声こえを上あげたりするとすぐバレる。しかし珍めずらしく門番もんばんが声こえを掛かけてきた。

「ちょっといいかな」
「なんだ？」

　賊ぞくが聞きき返かえす。俺おれたちは立たち止どまって様子ようすを見みる。

「アリス姫様ひめさま。握手あくしゅしてください。お願ねがいします」

　兵士へいしは笑顔えがおで手てを伸のばしてくる。アリスは賊ぞくの様子ようすを見みながら、ひきつった笑顔えがおで握手あくしゅに答こたえる。

「警備けいび、頑張がんばってくださいウサ」
「姫様ひめさま。ありがとうございます」

　俺おれが目線めせんと表情ひょうじょうで困こまっている顔かおを兵士へいしに向むける。しかし兵士へいしは眼中がんちゅうにないようで、デレっとした顔かおをしている。

　そのままギルド前まえを通過つうかする。周まわりの人ひとはこちらをチラチラ見みてくる人ひとが多おおい。アリスが原因げんいんだ。ローブを被かぶっていないので、赤あかと白しろの似非えせ制服せいふくが目立めだちまくる。
　賊ぞくたちはダウンタウンの細ほそい道みちの方ほうへ行いこうとする。
　そして細ほそい路地ろじのほうへ曲まがろうとした所ところ、路地ろじから兎うさぎ人ひと族ぞくの冒険者ぼうけんしゃが三名めいでてきて俺おれたちを通とおしてくれない。

「通とおらせろよ」

　賊ぞくの隊長たいちょうらしい一人ひとりが吠ほえるが、冒険者ぼうけんしゃはどかないで無視むしして突つっ立たっている。
　気きが付ついた時ときには、後うしろ側がわにも冒険者ぼうけんしゃ風ふうの兎うさぎ人ひと族ぞくが六人ろくにん周まわりを囲かこんでいる。

　賊ぞくの隊長たいちょうは「くそっ」と一言ひとことつぶやいた。戦たたかう気きはないらしく、剣けんを地面じめんに置おいて降参こうさんするようだ。
　兎うさぎ人ひと族ぞくがその剣けんを拾ひろうとした所ところ、バン！　っと大おおきな音おとがして煙けむり玉だまが投なげられた。

「煙けむりの外そとに賊ぞくを逃にがすな」

　兎うさぎ人ひと族ぞくがメンバーに命令めいれいする。怒号どごうや剣けんが当あたる音おとが響ひびく。

「ウィンド！」

　アリスの声こえがして風かぜが吹ふき、煙けむりを吹ふき飛とばしていく。
　すぐに兎うさぎ人ひと族ぞくが猫ねこ人ひと族ぞくの賊ぞくの剣けんをはじいて次々つぎつぎに捕つかまえていく。俺おれも最後さいごまで煙けむりの中なかにいた賊ぞくの一人ひとりの剣けんを弾はじき飛とばして剣けんを突つきつける。あっという間まの捕とり物ものだった。

「俺おれたちを生いかして迷宮めいきゅうから出でたのが失敗しっぱいだったな」
「ちくしょう」

　捕とり物ものを終おえると、兎うさぎ人ひと族ぞくの隊長たいちょう以下いかがアリスの前まえにひざまずく。

「全員ぜんいん捕とらえ終おえました。いかがいたしましょう」
「助たすかったウサ。処遇しょぐうはまかせるウサ」
「はっ」

　アリスはローブを被かぶるとまた迷宮めいきゅうの方ほうへ戻もどろうとする。ちょっと待まってくれよ。

「この後あとどうする？」
「どうって、迷宮めいきゅうへ行いってやり直なおしじゃウサ」
「今日きょうは何なにか疲つかれた。もう休やすみにしようか」
「ホクトは軟弱なんじゃくウサ」
「まあね」

　しかしギルド前ぜん方面ほうめんを見みた所ところ、なにやら人々ひとびとがひそひそ話はなしながらこっちを注目ちゅうもくしている。

「う、やっぱり今日きょうは休やすみにするウサ」

　アリスは進行しんこう方向ほうこうを王宮おうきゅう方面ほうめんへ変かえる。さすがのアリスも注目ちゅうもくの的まとの中なか、突つき進すすむのは苦手にがてなようだ。

　しかし賊ぞくとはいえ人ひとを斬きりそうになった。魔物まものは平気へいきで斬きったり叩たたいたりしていたが、会話かいわが通つうじる相手あいてを殺ころすのにはまだ抵抗ていこうがある。
　アリスも賊ぞくを迷宮めいきゅう内ないで魔法まほうの餌食えじきにしなかったことについて、殺ころしてしまうかもしれない。あと盾たてが何なにか嫌いやな感かんじがした。と言いっていた。
　後あとから確認かくにんしたところ実際じっさいにあの盾たては魔法まほう抵抗ていこう力りょくがある高価こうかな装備そうびだったそうだ。
　アリスはいままでも騎士きし団だんと一緒いっしょの時ときに何度なんどか迷宮めいきゅう内ないで盗賊とうぞくと遭遇そうぐうしたという。それらは騎士きしに斬きり捨すてられて殺ころされたようだ。
　姫様ひめさまを襲おそった賊ぞくは、自供じきょうをさせられた後あとに反逆罪はんぎゃくざいで処刑しょけいされるだろう。

　これからの警護けいごについて確認かくにんしたらアリスが警護けいごをつけて歩あるくのに反対はんたいのようだ。

「いままでも、これからも危険きけん度どは同おなじウサ。陰かげから守まもるだけでいいウサ」

　アリスの護衛ごえいのギーナさんは反対はんたいしたがアリスは頑固がんこで、結局けっきょくギーナさんが折おれた。
　ただし迷宮めいきゅうの出入でいりの確認かくにんは前まえより厳きびしくするようだ。特とくに仮面かめん、ヘルムで顔かおを隠かくしたまま通とおるのは許ゆるされなくなる。顔かお隠かくすのがダメならアリスは毎回まいかいバレることになるが、それはしょうがないということになった。

　これからも賊ぞくと会あった場合ばあいにどうするか考かんがえないといけない。

「なるべくなら殺ころしたくはないウサ。殺ころすのが普通ふつうになって自分じぶんが殺人鬼さつじんきみたいになるのが怖こわいウサ。でも誰だれかに仲間なかまをやられそうになったら容赦ようしゃしないウサ」

　俺おれも同感どうかんである。ただ今回こんかいちょっと目立めだったので他ほかの盗賊とうぞくに対たいする警告けいこくになったのならいい。

　ついでの情報じょうほうとして迷宮めいきゅうの門番もんばんは、上司じょうしにこってり絞しぼられたらしい。


　この日ひは結局けっきょく暇ひまになったので、この前まえの油あぶらの残のこりを使つかって揚あげパンを作つくってみた。こちらでは高価こうかな調味料ちょうみりょうの一ひとつである砂糖さとうをたっぷり振ふりかけてやった。

「甘あまくて美味おいしいにゃ」
「サクフワで美味おいしいです」
「うん、美味びみじゃウサ」

　皆みんなに好評こうひょうで何なによりだ。
　以前いぜんカニパスタが出でてきたので、ついでにパスタ揚あげも作つくってみた。こちらは塩味しおあじである。固かたいパスタを油あぶらで揚あげるだけだ。

「ホクトさんは天才てんさいです」
「パスタがカリカリに変身へんしんにゃ」
「こんな風ふうになるのねウサ」

　甘あまいのとしょっぱいのを交互こうごに食たべてみんな満足まんぞくのようだ。
　俺おれは一本ほんのパスタ揚あげをアリスに食たべさせてみる。

「はい、あーん」

　アリスはちょっとずつ高速こうそくに食たべると、俺おれの手てまで食たべられそうになった。ぎりぎりで手てを放はなして事ことなきを得える。

「アリスさんだけずるいです。私わたしにもください」

　俺おれは次つぎにピーテにも食たべさせる。ピーテも高速こうそくで食たべた。

「あたしだけくれないなんていやですにゃ」

　ソティも同おなじように食たべる。

「もう一回いっかいくださいウサ」

　アリスが二に回かい目めを催促さいそくする。結局けっきょく、全員ぜんいんに催促さいそくされて三さん周しゅうした。