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[総ルビ][中編]ウォーロック

4.エルフのラティア(2)
ゴーストghost欠片かけらギルドguildってくれたが、くろ水晶すいしょうってくれないのか?」
くろ水晶すいしょうアクセサリーaccessoryになっているので、加工かこうひんとか製品せいひん買取かいとりしていないんです。素材そざいだけなんですよ。もしくは中古ちゅうこあつかいですごくやすいんです」
「そうなのか」
「はい」

 ふむ。買取かいとりとかほとんどすべてドルボDorboまかせっきりだったかららなかった。
 ソロsolo活動かつどうしていたころは、れるほど装備そうびとかっていなかったし。

「ところで、あの……」

 ラティアLatiaじょうこまったようなかおをする。

「お名前なまえおしえていただけませんか?」
「あ、おれか。名乗なのるほどのものではないが」
「そんな、貧乏びんぼうわたしクエストquestとはばかりの仕事しごとあたえて、ほどこしをしてくれました。いのち恩人おんじんです。野垂のたぬところだったんです」
「いや、あれはおれ都合つごうで」

 おれギルドguildきたくないという理由りゆうだとはおもっていないようだ。
 貧乏びんぼう少女しょうじょほどこしをする名目めいもくだと勘違かんちがいしている。

わたし、こんなに貧相ひんそうなのに。こういう薄幸はっこう少女しょうじょきなんですか?」
「は? どういう意味いみだ」
「あの、あまりにわたし都合つごうがいいですよね。本当ほんとうからだ目当めあてで……」

 なぜか半笑はんわらいでなみだぐんでいる。

ちがちがう、誤解ごかいだ。ほどこしも、ごほん、その、からだ目当めあても、全部ぜんぶ誤解ごかいだ」
誤解ごかい?」
「そうだ。おれギルドguildきたくない。目立めだちたくないからな」
「ああ、そうですよね。換金かんきんしたとき、すごい、注目ちゅうもくされちゃって。びっくりしました」
「だろう」
「あっ、はいっ」

 今度こんどは、納得なっとくしたのか、にぱっとあかるい笑顔えがおりまく。
 その純真じゅんしんさは聖女せいじょのようだ。

「それで、お名前なまえは?」
ルークLukeベラクリウスVeracrius

 おれ名前なまえそれから、滅多めったくちにしない苗字みょうじ名乗なのる。
 この聖女せいじょさまに、うそきたくなかった。

ベラクリウスVeracrius、ど、どこかで」
のせいだろ」
「あっ、んんっ、おもしました。伝説でんせつ魔法使まほうつかい、バラエルBaraelベラクリウスVeracriusさまおな苗字みょうじ!」
「あ、そうだな、うん」
「もしかして、ご先祖せんぞさまとか?」
「そういう逸話いつわいたことがあるが、実際じっさいとお親戚しんせきなにかだろう。どうせ」
「そ、そうですよね」

 うれしそうにしたり、ちょっとしょんぼりしたり、ラティアLatiaじょう表情ひょうじょうがよくわる。
 一割いちわりでも、おれにその表情筋ひょうじょうきんけてほしいものだ。
 そうしたらおれももうすこし、おんなにモテるようになるのに。

 こんな朴念仁ぼくねんじんおれだが、女性じょせい興味きょうみがないわけではない。
 むしろぎゃくだ。
 美少女びしょうじょをめちゃくちゃにしたい。そんな衝動しょうどう幾分いくぶんおもうこともある。
 女性じょせいベッドbedでにゃんにゃんしてみたい。
 ねこちゃんは、どんなこえいてくれるだろうか。ぐへへ。

 いかんな。まえ清純せいじゅんそうな表情ひょうじょう興味深きょうみぶかそうにいてくれている美少女びしょうじょもうわけたない。

「でもでも、ルークLukeさまっておつよいんでしょう?」
「これでも個人こじんランクrank追放ついほうされたがパーティーpartyはAランクrankだった」
「Aランクrank! すごい」
おれ業績ぎょうせきじゃない。おれ無名むめいだからな」
「Aランクrankってったら『水竜すいりゅうひめ巫女みこ』とか大剣たいけん使つかドルボDorboの『だいさつ風雲ふううん』とかですよね、ね?」
「うっ」

 まさにそのドルボDorbo追放ついほうされたわけだが。
 ちなみにだいさつとはドルボDorboのことではなく、おれ魔法まほう即死そくしすることを意味いみしている。
 ただし、その事実じじつっているひとはごく少数しょうすうだ。

「そのだいさつ風雲ふううんが、そうだ」
「ええぇえ、なんで、そんなひとがこんなところでソロsoloで」
「まあ色々いろいろあって、パーティーparty追放ついほうされた」
「そんな!」

 概要がいようをかいつまんで説明せつめいしたら、ラティアLatiaじょう自分じぶんのことのようにおこってしまった。

「そんなの、あまりにひどいです。あんまりですよ」
「ああ」
黒魔術くろまじゅつウォーロックwarlockだからって、ちょっとうしろで魔法まほうってるだけなのに」
「ぐ、それはまあ、事実じじつだし」
卑怯者ひきょうものだなんて、あんまりです。事実じじつ誤認ごにんです。パーティーparty全滅ぜんめつしたらぬのなんて一緒いっしょなのに」
「そうだな」

 なんとか興奮こうふんしている彼女かのじょをなだめる。

「わ、わたしなんか『もっと役立やくたたずのエンチャンターenchanter』なのに差別さべつとかなくてみんなやさしくしてくれるのに、ウォーロックwarlockひと可哀想かわいそうすぎですっ!」
「ああ、エンチャンターenchanterなのか」
「はい」
「そ、それは、なんかすまん」

 しょんぼりしてしまった。
 役立やくたたずのエンチャンターenchanterとはいえてみょうだ。
 事実じじつ特定とくていパーティーpartyでは無用むよう長物ちょうぶつだった。

 エンチャンターenchanterは、対象たいしょう人物じんぶつスキルskill強化きょうかする特殊とくしゅスキルskill保有ほゆうしている。
 剣士けんしなら身体しんたい強化きょうかつよくなったり、ヒーラーhealerなら回復力かいふくりょくアップupをしたり魔力まりょくタンクtankてき使つかかたをしたりできる。

 しかし致命的ちめいてき欠点けってんがあるのだ。

 エンチャンターenchanterは、対象者たいしょうしゃえず身体的しんたいてき接触せっしょくをしていないと、その効果こうか十全じゅうぜん発揮はっきできない。
 つまり前衛ぜんえいともにするのは「邪魔じゃま」なのだ。
 そう意味いみで、ゴミあつかいされているクラスclassだった。

「そうか、しかしそれは、いいことをいた。おれにはとくしかない」
「はい?」
おれパーティーpartyいや、ペアpairまないか」
わたしなんかが?」
わたしなんかではない。ラティアLatiaじょうこそがおれペアpairにふさわしい」
「きゃっ、なんですかそれぇ、おだててもなにませんよ~」
おれ本気ほんきだ」

 真剣しんけん表情ひょうじょうで、ラティアLatiaじょうひとみつめる。
 ずかしそうにほほめるが、彼女かのじょ真剣しんけんかおをして、つめかえしてくる。

「どういう意味いみなんですか? れちゃいました?」
ちがう。きみエンチャンターenchanterとしてのちからしい」

 ラティアLatiaじょうは、見開みひらく。
 本当ほんとうおどろいているようだ。おれにとってエンチャンターenchanterやくつ。

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