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[総ルビ]海老郎の短編集

12.少女全員が奴隷首輪をする国[前編](5000文字)
●タイトル
少女しょうじょ全員ぜんいん奴隷どれい首輪くびわをするくに

●あらすじ
このくにまれたは二十五さいまで奴隷どれい首輪くびわをする風習ふうしゅうがある。
それは奴隷どれい身分みぶんちることを意味いみしていたが、少女しょうじょたちはしあわせであったという。しかもどの少女しょうじょ少女しょうじょぞろいと評判ひょうばん他国たこくまでながれるレベルであった。旅人たびびとのバルはこのくにおとず奴隷どれい少女しょうじょう。二人ふたりはおたが相手あいてをよいひと評価ひょうかする。バルは彼女かのじょれる儀式ぎしきいどむ。

●前編
 さむさもやわらいだ三がつすえおれたびた。

「バルさんどこまでくんだっけ」
おれはひとまずミセドラシル」
結構けっこうとおいな……」
「ああ、でも少女しょうじょおおいってうわさで」
「なんだ嫁探よめさがしかぁ、わかい。わかいねぇ、うらやましい」
ちがうけど興味きょうみ本位ほんいだ。さけはなしくらいにはしようかと」
さけおんなにはをつけろよ」
てみたいじゃん。他国たこくまでこえてくる少女しょうじょ楽園らくえんとか」
おれもあと十ねんわかければくっついていくんだがな」

 ということでバルがおれ
 となりしおかせたジャーキーでっちゃべっているのが居合いあわせた猫耳ねこみみ商人しょうにんのおっさんだった。
 乗合のりあい馬車ばしゃいですすんでいく途中とちゅうだ。
 おれ胡椒こしょうふくろえるだけった。となり商人しょうにんおなじだった。
 ひがしくに内陸ないりくがわだからふね輸送ゆそうしてくる南国なんごくさん胡椒こしょうたかれる。
 しおだい商人しょうにんがマジックバッグに大量たいりょうめて輸送ゆそうするようになってから個人こじん商人しょうにんではかない商売しょうばいになってしまった。

 胡椒こしょうった拠点きょてんにしている海洋かいようこくのイルクルー王国おうこくからバスティア女王じょおうこくさらさき、ミセドラシルけん王国おうこくへと到着とうちゃくした。

 ここまでくると流石さすが異国いこく情緒じょうちょというものがあちこちにえてくる。
 とくになるのが国境こっきょうもんけてすぐから目立めだちはじめたアレだ。

 ――奴隷どれい首輪くびわ

 みちおんなちいさい一さいから二十五さいまでのおんな全員ぜんいん奴隷どれい首輪くびわをしている。
 くろくて革製かわせいのそれはイルクルー王国おうこくでは奴隷どれいちした本当ほんとう奴隷どれい身分みぶんになったひとだけが強制きょうせいてきけさせられるいわくつきのものだ。
 ここでは常識じょうしきちがうらしい。

 国境こっきょうもんのすぐまえった馬車ばしゃまちなかすすんでいく。
 となりのおじさんは黒毛くろげ犬耳いぬみみだ。このひと一応いちおう商人しょうにんらしい。

「なんでおんなはみんな首輪くびわしてんの?」
西にしくにひとかい? これは安全あんぜんのためだよ。防犯ぼうはん対策たいさくなんだ」
「へぇぇ」
「でも首輪くびわなんかしたら……奴隷どれいだろ」
「もちろん奴隷どれいさ。でもみんな奴隷どれいだからそれ以上いじょうちようがないんだよ」
「なるほどなぁ」

 つまりこうだ。みんな奴隷どれいならもうそれ以上いじょうがらない。みんな一緒いっしょ
 まちなかすこ治安ちあんわる裏通うらどおりをとおるところだった。

「お、おう、あかいのもいるな」
「あああか首輪くびわはどのくに共通きょうつうだろ?」
「まあそりゃそうなんだがな、胸糞むなくそわるい」
「まあそううなって」

 あか首輪くびわ。つまり娼婦しょうふ奴隷どれいだ。
 くろ首輪くびわおんなにはかならずご主人しゅじんさまとして登録とうろくされたひとがいる。
 おんな全員ぜんいん首輪くびわをしているのでご主人しゅじんさま男性だんせい高齢こうれい女性じょせいだ。
 奴隷どれい普通ふつう主人しゅじん命令めいれいそむいてはならない。
 とく首輪くびわ魔法まほう登録とうろくされた契約けいやくにはさからうとばつあたえられる。
 そのなか必須ひっす項目こうもくせい行為こういがある。
 だからくろ首輪くびわをしているおんな勝手かってせい行為こういをしてはいけなくてさからうとばつける。
 それは強姦ごうかんだろうと発生はっせいする。電撃でんげき一般いっぱんてき男性だんせいおそうと首輪くびわからおんなもろともおとこまで電気でんきでしびれてしまう。この電撃でんげき。かなりいたいと評判ひょうばんだ。
 しかもこの電撃でんげきびると不能ふのうになるといううわさがある。事実じじつらしいから実行犯じっこうはんはかなりのバカだ。
 つまり電撃でんげきおんなへの懲罰ちょうばつなのだが、暴漢ぼうかん対策たいさくにもなっている。
 それからすでに首輪くびわ登録とうろくされている奴隷どれいほかひと奴隷どれいにできない。
 あか首輪くびわ特殊とくしゅせい行為こういばっせられない。だから娼婦しょうふ専用せんよう

 あらかじめ奴隷どれいにしてしまえば、おんな誘拐ゆうかいされて強姦ごうかんされたり奴隷どれいとしてはらわれるという心配しんぱいから解放かいほうされる。
 ただし身分みぶんはあくまで奴隷どれいだった。このくにでもそれはおなじだ。

「よくこんなことかんがえたよな。最低さいてい奴隷どれいとすなんておれくにだったらロクデナシだが、全員ぜんいんがやっちまえば防犯ぼうはんになるとか」
「だろ。面白おもしろいよな。しかもこれはじめたのは百ねんくらいまえ王女おうじょさまだっていうんだから」
「そうなのか、へぇ」
「しかも絶世ぜっせい少女しょうじょだったらしいな、王女おうじょさま
「そりゃまたなんで」
いのちねらわれたり強姦ごうかんされそうになったんだろう、お可哀かわいそうに」
「あぁ貴族きぞくこええな」
「まったくだ」

 けん王国おうこくでは少女しょうじょおおいとはるむかしから有名ゆうめいだった。
 しかしそれがあだとなりおんなたちはずっと誘拐ゆうかいされ奴隷どれいとされてられるということが平然へいぜんおこなわれていた。
 百ねんまえには昼間ひるまであろうとおんなだけか一人ひとりあるくことは危険きけんすぎて禁止きんしされていた。
 それでも誘拐ゆうかいおさまらないどころか専門せんもん犯罪はんざい業者ぎょうしゃ多数たすう存在そんざいしていて有名ゆうめいだったほどだ。
 他国たこく裕福ゆうふく金持かねもちはこういった少女しょうじょはべらすのをステータスとしていたのだ。
 みんな誘拐ゆうかいされてきた事実じじつっていても、この風習ふうしゅうながあいだつづいてきた。
 さすがにいま違法いほう売買ばいばい奴隷どれい少女しょうじょはなしはごくまれにしかみみにしない。
 おんなたちはとっかえひっかえにせい奴隷どれいとしてあつかわれ、としるとてられるという。

 そして王女おうじょがそうした事態じたいについにキレたそうだ。

「こんなのはおかしいっ、こうなったら奴隷どれい自分じぶんからなってやるわ」

 いさましい姫様ひめさま自分じぶん奴隷どれいくろ首輪くびわめた。
 ご主人しゅじんさまとして王様おうさま指名しめいして。

 ひめ奴隷どれいになって一ねん
 奴隷どれい王女おうじょとなったひめは、貴族きぞくむすめ口説くどいてまわった。
 強姦ごうかん心配しんぱいばされる心配しんぱい無用むようわたしたちは貴族きぞく奴隷どれいとして気高けだかきよう。
 女子じょし奴隷どれい運動うんどうはあっというひろがり貴族きぞくむすめ奴隷どれいちした。
 みんな奴隷どれいになってしまえば、もうそれ以上いじょうしたがないのでべつなにわれることもなくなった。
 奴隷どれいだから価値かちひくいどころか、処女しょじょ性病せいびょうっていないことが保証ほしょうされるために貴族きぞくにはぎゃくにステータスですらあった。

 十ねんあまりのあいだにこの風習ふうしゅうはまず市民層しみんそうでも裕福ゆうふく家庭かていからひろがりをみせ、じわじわと一般いっぱんそうにも浸透しんとうしていった。
 そうして現在げんざい、このくにのほぼ全員ぜんいんおんな奴隷どれい首輪くびわをしている。
 しかしこの風習ふうしゅう他国たこくにまではひろがらなかった。
 少女しょうじょとして有名ゆうめいなのはこのくにおんなだけなので、その必要ひつようがなかったともえる。
 奴隷どれい首輪くびわじつ金貨きんかまいはする高級こうきゅうひんだ。
 魔法まほうにより普通ふつうちからでは破壊はかい無効むこうすることもできない。
 できるのは主人しゅじん奴隷どれい解除かいじょして解放かいほうしたときか、主人しゅじんんだときのどちらかだった。

 けん王国おうこく王都おうとビッシュバルテンに到着とうちゃくした。
 なるほど、さすが王都おうと少女しょうじょがたくさんいる。
 しかも誘拐ゆうかいされる危険性きけんせいひくく、治安ちあんうそみたいにいいため、おんなたちが露店ろてん販売はんばい店員てんいん、ウェイトレスとしてひろ活躍かつやくしていた。
 他国たこくでは治安ちあんわる酒場さかばなどでは娼婦しょうふはともかく生娘きむすめなどあぶなくてやとってはもらえない。それは露店ろてん販売はんばいでもおなじだ。

「オレンジどうですか、オレンジ美味おいしいよ」
「ひとつください」
「ありがとうございますっ」

 おれ店員てんいんにつられてオレンジをひとった。
 少女しょうじょ店員てんいん商品しょうひんおなじようなオレンジかみ猫耳ねこみみぞくのようで、元気げんきはつらつとしていて非常ひじょうにかわいらしい。
 おれたちのくにではこんな少女しょうじょ露店ろてんなんてしていたらうら路地ろじまれるのがちだ。

「うまいなこれ」
「ありがとうございますっ」

胡椒こしょうってくれるみせらない?」
「それならアビレイシ香辛こうしんりょうてんっていうのが普通ふつうだけど、あの、トレマリンク調味ちょうみりょうてんのほうがたかくていいですよ」
「なるほど、どっちかな?」
みぎって、すこさきひだりです。すこちいさいみせですが看板かんばんもあるので」
「わかった、ありがとう」

 こうしておれはトレマリンク調味ちょうみりょうてんりをしてもらった。

たしかに品質ひんしつたか胡椒こしょうじゃな。うちはひんしつわるいのはっていないのでな」
「ふむ」
品質ひんしつたかぶん値段ねだんたかいするのがうちの流儀りゅうぎなんで」
「ありがとうございます」
「おたがさまじゃろ。あっちのみせなんて品質ひんしつなんてつぎりょう勝負しょうぶだそうだからな」
「ああぁさっきいたみせですね」
「あんたもはらこわしたくなかったら、あっちのみせうのはやめたほうがいい」
かりました。ありがとうございました」

 みせのおばあちゃんは目利めききができるようだった。
 このみせちいさいながらにおばあちゃんを信頼しんらいしているやはりモノのしがかる顧客こきゃくがひっきりなしにおとずれていた。
 そのなかには有名ゆうめいレストランのシェフもいるようだ。
 そしておれおもったよりもかなり胡椒こしょうもうかった。るときに文句もんくわれたらこまるとおもい、いいものってきたのが正解せいかいだったようだ。

 シェフにみせ名前なまえ場所ばしょいて、オレンジの少女しょうじょところ報告ほうこくもどる。

「なあオレンジちゃん」
「えっ、わたしですか?」
「そそ。猫耳ねこみみのオレンジちゃん」

 そういうとかおあかくしてみみすこらす。そのしぐさがめちゃくちゃかわいい。

胡椒こしょうたかれた」
「いい胡椒こしょうちでしたものね。わたしのところまでにおいがして、すぐかりましたから」
「お、そうだったか。胡椒こしょうき?」
「はいっ」
「ところでもうすぐお夕飯ゆうはんだけど、このあと一緒いっしょにステーキとかどう? おれい
「おれいだなんて。でもうれしいです。ありがとうございます」

 オレンジの少女しょうじょあたまをぺこぺこげておれにおれいった。
 おれいうのはおれだというのに、健気けなげなものだ。

 おれたちはさっきのシェフのみせあるいていく。

「こっちということはバッフェルドですか? あそこいいみせですよね。ちょっとたかいんですけど」
「そうなのか。胡椒こしょうみせ常連じょうれんだからきっといいみせだとおもって名前なまえ場所ばしょいておいたのがやくった」
「なかなかないですね。トレマリンクの常連じょうれんといえばたしかにどこのみせもいいみせばっかりですね、なるほど、そうやってつながってるんですねぇ」

 オレンジの少女しょうじょはいたく感心かんしんしてくれた。
 おれなんだか自分じぶんめられたようにおもってうれしかった。

「ステーキ美味おいしいです」
「ああ、うまい。さすが胡椒こしょうをケチらないだけある」

 しお胡椒こしょうのシンプルなステーキだがそれがばつぐんにうまい。
 こんなステーキはったことがなかった。
 にく高級こうきゅうひんのようでくちなかがほどけてけてしまいそうなくらいだった。

 おれながいことあちこちっているが、ここはだいアタリだ。
 それにしてもみせ場所ばしょとおりを二ほんはいったところで目立めだたない。
 最初さいしょ本当ほんとうにここかとうたがうほどだった。

 そのためか一見いっけんさんなどがほとんどいないらしく、どこからったのかグルメな上客じょうきゃくばかりがあつまる高級こうきゅうてんというかんじだ。
 しかし値段ねだんおもったよりずっとやすい。
 なにか秘密ひみつがあるのだろうか。
 高級こうきゅうてんなかにはその信頼しんらいたいする価格かかくでぶっちゃければボッタクリでしかないみせもある。
 高級こうきゅう食材しょくざい使つかってむちゃくちゃ値段ねだんたかいというみせならはいったことはある。あじ相応そうおうかちょっと微妙びみょうなくらいでにくげていたので、二度にどくまいとちかった。
 ここは値段ねだん相応そうおうすこやすいくらいなのだ。

 ウェイトレスのおんな年齢ねんれいすこひくくて心配しんぱいだったが、年相応としそうおう笑顔えがおはとても気持きもちがよくて素晴すばらしいし、なにより文句もんくなしの少女しょうじょだしで、態度たいど真面まじだった。
 若手わかて教育きょういくちかられているのだろう。いいみせといえる。

「ありがとうございました。ごちそうさまでした」
「ああ、じゃあまた。おれ宿やどる」
「さようなら。またいつかどこかでおいしましょう」

 おれくにではしんじられないが、もうすぐしずみそうだというのにオレンジのおんな一人ひとりいえかえるらしい。

「これのおかげで……だい丈夫じょうぶなので」

 すこかおあかくして首輪くびわでる。
 首輪くびわはどうしてもすこしだけだがくるしいのだ。その存在そんざいかんはいやでも装着そうちゃくしゃにはかる。
 安心あんしんかんもあるのだろうけど、まぎれもなく拘束こうそくされているのは事実じじつだ。
 みせまえわかれてあるした。

「さようなら」

 またってくれる。
 かわいいだった。オレンジのかみ猫耳ねこみみ少女しょうじょ

 一瞬いっしゅんがけにしたよめさがしにというわらばなしおもす。
 まさかおれがオレンジの猫耳ねこみみ少女しょうじょをそういうていたとは自分じぶんでもびっくりする。
 あのしあわせなたびをして家庭かていつくり、結婚けっこんする。
 どうだろうか。わるくはない。
 いや、素晴すばらしいがしてくる。

 おれこいをしているのだろうか。あんなわか少女しょうじょに。おれよりだいぶ年下とししただ。

 宿やど普通ふつう宿やどだ。
 これもオレンジの少女しょうじょおしえてもらったところにした。
 獣人じゅうじんおおいがそれ以外いがいへんなところはない。

 そのかわりサービスはよいのに値段ねだんやすめだ。良心的りょうしんてきなのだろう。

「なあなんでこの宿やど、こんなサービスいいの?」
獣人じゅうじんたちはたすいが基本きほんだからな。人間にんげんにはからねぇとおもうが」
人間にんげんですまんな」
「いや、おきゃくさんなら大歓迎だいかんげい。もっとこう高圧こうあつてきっかかってくるひとおおいんですわ」
「そりゃいやだな。おれ平和へいわ主義しゅぎしゃなんでね。偽善者ぎぜんしゃばれようが平等びょうどう主義しゅぎなにわるい」
「あははっ、そこまでってもらえるなら本望ほんもうですよ」

 奴隷どれい差別さべつもあれだが獣人じゅうじん差別さべつもある。
 このくにでも獣人じゅうじん一段いちだんしたられてつらおもいをしているのだろう。
 それでやす宿やどをやっていると。たかくすれば人間にんげんさまかってなんだということになってしまう。

「オレンジの紹介しょうかいしてもらってよかったよ」
「オレンジのってああぁ、あのね。名前なまえ名乗なのらなかった?」
「いやいてない」
「じゃあ勝手がってにはえないけど、あのもいいでな。ひとがあるんだ。あんたれてくるみたいにな、がはは」

 獣人じゅうじんのクマ親父おやじはいいひとだった。
 そうかオレンジの少女しょうじょひとがあるか。おれ合格ごうかくだとおもうと途端とたんにうれしくなってくる。
 おれはフライドポテトをちびちびとつまんで気持きもちよくた。

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