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インヴォーク! 起動せよ、新生レグルス!!
慟哭する熟女
トリスト共和国の首都ラーホルス。ここは真夜中、悪魔が来訪するという。
「うわあああああん、うわあああああん」
共和国に属する錬金術師達は彼らと契約することで国力を拡大し、トリスト共和国にとって悪魔はインフラを提供するのに重要な取引相手である。
「うわあああああん、うわあああああん」
繰り返すがこの国の真夜中は、悪魔が出歩く時間。故に親は子供を決して外に出してはならない時間。
「うわあああああん、うわあああああん」
――だけど俺が今目の前で見ているのは、事情はわからないが声をあげて号泣している小さな女の子であった。
「――なあ、頼むよシャロォ。この子がさっきから、ずっと泣きながら俺についてくるんだヨォ」
「無茶言うなよ、ジャック……」
隣にいるのは、最下級悪魔であるジャック・オー・ランタンの『ジャック』だった。
ちなみにジャックという名前は、初対面の時俺が勝手につけた名前で、こいつ自身もそれを気に入ってくれたのか、人間界で名乗る名前として使ってくれているようだ。
「これ、俺に一番頼んじゃダメな案件だって、一発でわかるだろ」
実を言うと、俺は子供が嫌いだ。その中でも、静かにすべき場所で騒ぐ子供はとびっきり嫌いだ。
「大人しく前みたいに憲兵を呼ぼうよ。それかおっさんの屋敷で一旦預かるか……」
――しかし、さっきから奇妙なところが気になる。人前をはばからず泣くような年齢の子供にしては、やや背が高い。
そして涙でぐちゃぐちゃになっているとはいえども、かなり厚めの化粧だった。女の子は声変わりの変化が緩やかとはいえども、それも問題なく過ぎているようだし。もしかしてジュニアハイスクールの子か?
だけどそんな年齢の子が、この時間に外で人目をははばからずに泣くとどうなるかはさすがに分別がつくはず。
不可解なところが、多すぎる。
「……と、とにかくさあ。君、どこの学校の子? おうちはどこなの?」
不可解なところが、多すぎる。ひとまず質問してみる。
「――ッッ!!」
――その途端、泣き顔に激怒の表情が現れた。
「――ッ!?」
「なんで! なんで! なんで!! みんなわたしを子ども扱いして!!」
握っていた買い物かばんを振り回して激怒する彼女の声は、どう考えても成人している大人の女性の声だった。
「せっかくわがまま放題な娘から逃げてきたのに! こんな仕打ってないよおお!!」
――そして聞こえたのは、娘という衝撃の言葉。
「……お、お子様をお持ちの方なのですか?」
刺激しないよう、丁寧に話しかけたときだった。
「お母さん!?」
――その声は、俺のいる屋敷で元々働いていたメイドの女の子、イングリットちゃんだった。
「イングリットちゃん!?」
「――イングリット、帰ってきてたの!?」
「お母さんこそどうしたの、こんなところで!?」
民間人がやってきたことに気づいて、慌てて逃げていくジャック。
『すまないシャロォ、後でまた珍しいお宝持ってくるかラァ、その子よろしく頼むダァ』
一方的にテレパシーでそう告げたジャックは、また夜道を放浪する時間に戻ったようだ――別に構わないけどさあ、こんな厄介な案件押し付けて逃げたんだから、珍しいお宝というもの、後で本当に持って来いよな。
それからイングリットちゃんの頼みを聞いて俺はこの子……いや、ご婦人を屋敷に連れて行った。
ベッドに入ってすぐ眠った彼女の代わりに事情を説明してくれた。
「……私の母、レウルーラは私が仕事に出ている間、私の代わりにずっと一人で妹のリデラートの面倒を見てくれているのです」
お名前はレウルーラ・アンテスさんというのか……屋敷の持ち主であるユークリッドのおっさんの話によると、俺がこの世界にホムンクルスとして生まれた時点ではとっくに引退していたが、優れた冒険者であったようだ。
――低身長でありながら体力はとても丈夫なご婦人だったらしく、本人は嫌がっていた名のようだが『ジェノサイダーロリータ』というなんとも言えない二つ名をお持ちの女性戦士だったようだ。
ただ今のレウルーラさんは……かつてギルドで才覚を放った戦士には、とても見えない体つきであった。もとから低身長なのもあるが、それを差し引いても心労でやつれているように見える。
「……きっと、リデラードを一人で見ないといけない時間が増えすぎたせいで、ストレスが限界に近いラインに迫っていたのでしょう」
「だからって……成人している子供が二人もいるような方が、あそこまで人目をはばからずに泣くものかなあ? なあ、おっさん?」
「それは俺だってわからねえ。レウルーラさんは俺達が子供の頃ヒーローだった。正直この眼でやつれきった今の姿を見ても、信じられない」
これを見て一体どうすればいいんだ、俺達は。かつてのギルドで有力戦士であったご婦人が、あんな背丈通りの子供にしか見えなくなるほどに幼児退行するほどのストレスなんて、想像もできない。
「……リデラードは私がなんとかします。どうか時間が許す限りでいいので、お母さんを実家から離してあげてください」
「……イングリットちゃんがそういうなら、そうするしかないよなあ。おっさん」
「正直、ここまで説明してもらっても信じたくない話だが、引き受けよう。頼んだよ、イングリットちゃん」
「うわあああああん、うわあああああん」
共和国に属する錬金術師達は彼らと契約することで国力を拡大し、トリスト共和国にとって悪魔はインフラを提供するのに重要な取引相手である。
「うわあああああん、うわあああああん」
繰り返すがこの国の真夜中は、悪魔が出歩く時間。故に親は子供を決して外に出してはならない時間。
「うわあああああん、うわあああああん」
――だけど俺が今目の前で見ているのは、事情はわからないが声をあげて号泣している小さな女の子であった。
「――なあ、頼むよシャロォ。この子がさっきから、ずっと泣きながら俺についてくるんだヨォ」
「無茶言うなよ、ジャック……」
隣にいるのは、最下級悪魔であるジャック・オー・ランタンの『ジャック』だった。
ちなみにジャックという名前は、初対面の時俺が勝手につけた名前で、こいつ自身もそれを気に入ってくれたのか、人間界で名乗る名前として使ってくれているようだ。
「これ、俺に一番頼んじゃダメな案件だって、一発でわかるだろ」
実を言うと、俺は子供が嫌いだ。その中でも、静かにすべき場所で騒ぐ子供はとびっきり嫌いだ。
「大人しく前みたいに憲兵を呼ぼうよ。それかおっさんの屋敷で一旦預かるか……」
――しかし、さっきから奇妙なところが気になる。人前をはばからず泣くような年齢の子供にしては、やや背が高い。
そして涙でぐちゃぐちゃになっているとはいえども、かなり厚めの化粧だった。女の子は声変わりの変化が緩やかとはいえども、それも問題なく過ぎているようだし。もしかしてジュニアハイスクールの子か?
だけどそんな年齢の子が、この時間に外で人目をははばからずに泣くとどうなるかはさすがに分別がつくはず。
不可解なところが、多すぎる。
「……と、とにかくさあ。君、どこの学校の子? おうちはどこなの?」
不可解なところが、多すぎる。ひとまず質問してみる。
「――ッッ!!」
――その途端、泣き顔に激怒の表情が現れた。
「――ッ!?」
「なんで! なんで! なんで!! みんなわたしを子ども扱いして!!」
握っていた買い物かばんを振り回して激怒する彼女の声は、どう考えても成人している大人の女性の声だった。
「せっかくわがまま放題な娘から逃げてきたのに! こんな仕打ってないよおお!!」
――そして聞こえたのは、娘という衝撃の言葉。
「……お、お子様をお持ちの方なのですか?」
刺激しないよう、丁寧に話しかけたときだった。
「お母さん!?」
――その声は、俺のいる屋敷で元々働いていたメイドの女の子、イングリットちゃんだった。
「イングリットちゃん!?」
「――イングリット、帰ってきてたの!?」
「お母さんこそどうしたの、こんなところで!?」
民間人がやってきたことに気づいて、慌てて逃げていくジャック。
『すまないシャロォ、後でまた珍しいお宝持ってくるかラァ、その子よろしく頼むダァ』
一方的にテレパシーでそう告げたジャックは、また夜道を放浪する時間に戻ったようだ――別に構わないけどさあ、こんな厄介な案件押し付けて逃げたんだから、珍しいお宝というもの、後で本当に持って来いよな。
それからイングリットちゃんの頼みを聞いて俺はこの子……いや、ご婦人を屋敷に連れて行った。
ベッドに入ってすぐ眠った彼女の代わりに事情を説明してくれた。
「……私の母、レウルーラは私が仕事に出ている間、私の代わりにずっと一人で妹のリデラートの面倒を見てくれているのです」
お名前はレウルーラ・アンテスさんというのか……屋敷の持ち主であるユークリッドのおっさんの話によると、俺がこの世界にホムンクルスとして生まれた時点ではとっくに引退していたが、優れた冒険者であったようだ。
――低身長でありながら体力はとても丈夫なご婦人だったらしく、本人は嫌がっていた名のようだが『ジェノサイダーロリータ』というなんとも言えない二つ名をお持ちの女性戦士だったようだ。
ただ今のレウルーラさんは……かつてギルドで才覚を放った戦士には、とても見えない体つきであった。もとから低身長なのもあるが、それを差し引いても心労でやつれているように見える。
「……きっと、リデラードを一人で見ないといけない時間が増えすぎたせいで、ストレスが限界に近いラインに迫っていたのでしょう」
「だからって……成人している子供が二人もいるような方が、あそこまで人目をはばからずに泣くものかなあ? なあ、おっさん?」
「それは俺だってわからねえ。レウルーラさんは俺達が子供の頃ヒーローだった。正直この眼でやつれきった今の姿を見ても、信じられない」
これを見て一体どうすればいいんだ、俺達は。かつてのギルドで有力戦士であったご婦人が、あんな背丈通りの子供にしか見えなくなるほどに幼児退行するほどのストレスなんて、想像もできない。
「……リデラードは私がなんとかします。どうか時間が許す限りでいいので、お母さんを実家から離してあげてください」
「……イングリットちゃんがそういうなら、そうするしかないよなあ。おっさん」
「正直、ここまで説明してもらっても信じたくない話だが、引き受けよう。頼んだよ、イングリットちゃん」
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