設定を選択してください。
インヴォーク! 起動せよ、新生レグルス!!
再臨のロリータ~幼き熟女は再び剣を握る
元同僚イングリットの母「レウルーラ・アンテス」氏を、私達のご主人様が屋敷で保護してから早くも三日が経った頃。
「ふん、ふん!!」
レウルーラ婦人は料理以外の時は私達の手伝いをするわけでもなく、自由な時間を過ごしている。イングリットと社長の意向とはいえども、とても自由なお方であった。
これまで過酷な家事を一人でやってきた結果ささくれた手を、大事に手袋で守っているとはいえども。彼女は体力を付け直すために、屋敷の一室を借りて一心不乱にトレーニングをしていた。今ささくれた手を包んだ手袋で握っているのは、私が貸したフェンシングの剣だった。
「…………」
若いころと比べたら格段に体力が落ちている上、手は洗い物の数々でだいぶ痛んでいるとはいえども。先日私達に特製のグラタンを振る舞ってくれた手は、戦士としての才覚を取り戻そうと必死で剣を握っている。
「――せいやあッ!!」
――瞬間、婦人の試合相手を務めていたシャーロッテの握った剣を、彼女は一瞬で弾き飛ばした。
「――ッ!?」
「……私の、勝ちじゃな。小娘」
事情はわからないが、この人を屋敷に連れてきたのはシャーロッテだ。彼女はシャーロッテのことを妙に気に入ったらしく、体力作りのリハビリのために対戦相手として真っ先に指名した。
「……シャロちゃんが負けるなんて。あのおばさん、リハビリ中と考えたらすごいわよ」
隣でウェアのヘルメットを脱いだ同僚ナナリーがそう発した。ナナリーはうちの屋敷にいる子の中で、一番フェンシングが上手いメイド。研修時代からフェンサーメイドチームの隊長筆頭格で、私が一番得意だったこの科目で主席の座を譲ることになった相手だ。
「もしかしたら、私以外でヴェロニカと互角に戦える貴重な人かもね」
――とはいえ、人に教えるのはあまり上手じゃないようで、本人もあくまで一隊員としての配属を希望したから、この屋敷におけるフェンサーメイドチームの隊長は私なのだが。
「……ふう、ふう」
――だが戦士を引退して長く経つ人だ。技術と瞬発力だけなら私達をはるかに凌駕するとしても、持続力においては大きく劣化しているらしい。見た様子だと大分息が上がっている。
「……ヴェロニカや。水をおくれ」
「……はい、どうぞ」
用意しておいた水筒を、手袋をしたままの手に渡した。
「……ふう、ふう。小娘、運が足りなかったようじゃな」
――それにしても、現役の冒険者であるシャーロッテのことを小娘と呼びつけにする気概は、なかなかのものだ。
「お前さんがもう少し持ちこたえておれば、負けていたのは私の方だったかもしれんぞ……」
――そうは言っているものの、既に同じ相手に五回以上試合をしている上での結果だった。
リハビリ中の十全とは言い難い体な上に連戦でスタミナを損なっているのにも関わらず、反撃する隙を最後まで与えなかったのはさすが元冒険者。それも、ギルドトップの実績を持っていただけはある。
「……いかん、ささくれがますます悪くなっておるわ」
「おばさん……だから言っただろ……無茶はやめてくれって」
それにシャーロッテは仮にもホムンクルスだ。女性型であることを考慮しても体力は生まれたての時点からかなり強靭に造られているはず。
「……若者を導くのが年寄りの役目じゃ。とはいえども、次稽古の相手をするのはケガが治ってからにさせておくれ」
「……ヴェロニカや」
「はい」
「今日もグラタンを、頼んだぞ」
与えられた部屋に帰っていくレウルーラ婦人の背中は、完全に戦士としての背中であった。
「ふん、ふん!!」
レウルーラ婦人は料理以外の時は私達の手伝いをするわけでもなく、自由な時間を過ごしている。イングリットと社長の意向とはいえども、とても自由なお方であった。
これまで過酷な家事を一人でやってきた結果ささくれた手を、大事に手袋で守っているとはいえども。彼女は体力を付け直すために、屋敷の一室を借りて一心不乱にトレーニングをしていた。今ささくれた手を包んだ手袋で握っているのは、私が貸したフェンシングの剣だった。
「…………」
若いころと比べたら格段に体力が落ちている上、手は洗い物の数々でだいぶ痛んでいるとはいえども。先日私達に特製のグラタンを振る舞ってくれた手は、戦士としての才覚を取り戻そうと必死で剣を握っている。
「――せいやあッ!!」
――瞬間、婦人の試合相手を務めていたシャーロッテの握った剣を、彼女は一瞬で弾き飛ばした。
「――ッ!?」
「……私の、勝ちじゃな。小娘」
事情はわからないが、この人を屋敷に連れてきたのはシャーロッテだ。彼女はシャーロッテのことを妙に気に入ったらしく、体力作りのリハビリのために対戦相手として真っ先に指名した。
「……シャロちゃんが負けるなんて。あのおばさん、リハビリ中と考えたらすごいわよ」
隣でウェアのヘルメットを脱いだ同僚ナナリーがそう発した。ナナリーはうちの屋敷にいる子の中で、一番フェンシングが上手いメイド。研修時代からフェンサーメイドチームの隊長筆頭格で、私が一番得意だったこの科目で主席の座を譲ることになった相手だ。
「もしかしたら、私以外でヴェロニカと互角に戦える貴重な人かもね」
――とはいえ、人に教えるのはあまり上手じゃないようで、本人もあくまで一隊員としての配属を希望したから、この屋敷におけるフェンサーメイドチームの隊長は私なのだが。
「……ふう、ふう」
――だが戦士を引退して長く経つ人だ。技術と瞬発力だけなら私達をはるかに凌駕するとしても、持続力においては大きく劣化しているらしい。見た様子だと大分息が上がっている。
「……ヴェロニカや。水をおくれ」
「……はい、どうぞ」
用意しておいた水筒を、手袋をしたままの手に渡した。
「……ふう、ふう。小娘、運が足りなかったようじゃな」
――それにしても、現役の冒険者であるシャーロッテのことを小娘と呼びつけにする気概は、なかなかのものだ。
「お前さんがもう少し持ちこたえておれば、負けていたのは私の方だったかもしれんぞ……」
――そうは言っているものの、既に同じ相手に五回以上試合をしている上での結果だった。
リハビリ中の十全とは言い難い体な上に連戦でスタミナを損なっているのにも関わらず、反撃する隙を最後まで与えなかったのはさすが元冒険者。それも、ギルドトップの実績を持っていただけはある。
「……いかん、ささくれがますます悪くなっておるわ」
「おばさん……だから言っただろ……無茶はやめてくれって」
それにシャーロッテは仮にもホムンクルスだ。女性型であることを考慮しても体力は生まれたての時点からかなり強靭に造られているはず。
「……若者を導くのが年寄りの役目じゃ。とはいえども、次稽古の相手をするのはケガが治ってからにさせておくれ」
「……ヴェロニカや」
「はい」
「今日もグラタンを、頼んだぞ」
与えられた部屋に帰っていくレウルーラ婦人の背中は、完全に戦士としての背中であった。
このお話にはまだ感想がありません。
感想を書くためにはログインが必要です。
![Share on Twitter](Img/logo-black-39x40.png)