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VRあるあるあるき

009.格差社会
 俺と同じくらい集めたオムイさんもお金をゲットした。
 ファンタジーにあるまじき安心安全な薬草採取だった。

 男が入店してきてカウンターに問いかける。

「ポーション大、200個くれ」

「はい。2Mラリルです」

 俺たちは目を丸くする。
 だって聞いたか。
 2メガだぜ。
 俺の稼ぎの60倍だ。

 これが第一陣との圧倒的格差の現れだった。

 『格差社会』。

 よく貧富の差が大きくなったと、報道されるアレだ。
 俺たちは貧乏日雇い。
 彼は高級取りのエリートということだ。
 それがたったの2週間で起きるなんて、信じられるだろうか。
 一人で使うわけではないかもしれない。
 友達と共同購入の可能性もある。
 それでも6人だったとしても10倍にはなる。
 恐ろしい現実だった。

 店から出て考える。

「36kラリル。何買おうか」

「さあ、ご飯食べないんですか?」

「お肉の串焼きかな?」

 時間はリアルで午後11時半。ゲーム内換算だと午後5時だ。
 この国の人は、朝晩の2食でリアル時間でいうとこの6時間置きにご飯を食べる。
 そろそろ夕食時だった。

「なんで肉串なんです?」

「ファンタジー小説あるあるだからだけど」

「あるある集めしてるんでしたね」

「別に集めてるわけじゃないけどね」

「そうなんですか」

「ほとんどは向こうからやって来るんだ。悪いあるあるばっかりね」

「それは怖い」

「うむ」

 夕方の市場を眺めて飲食店を探した。
 物価などもよく分からないので、こういうときは困る。
 1ラリルが現実の通貨でいくら相当とかは議論しても意味があまりない。
 ものによって、高い、安いが違うからこの世界では何が高いかなどを知る必要がある。
 こういう相場観は、市場や露店を注意深く見て回り、覚える以外に方法はほとんどない。

 ポーションのお値段は小が1個1.8kラリル。中が4kラリル、大が10kラリルだ。
 これだって内容量と効果がよく分からないので価格の参考にならない。
 普通のゲームだと使用後の再使用時間「クーリングタイム」が存在するため、HPが多い場合は大きいポーションを使用してクーリングタイムを1回で済ますようにするのが常識だ。
 クーリングタイムが問題ないなら、単価の安い「小」をそれこそ千個とか買って使う場合すらある。
 アイテムボックスに入れておいて、キーボードを連打すればいい。
 値段からすると倍になると回復量も倍になるように見える。
 この値段もマーブル薬草店での値段で、市場価格はもう少し安い可能性が高い。
 ここは一等地にある高級店だということだ。
 買い取り価格も、地道に探したほうが高く買い取ってもらえると思うが、その店を探すほうが手間なので、このお店をとりあえず使った。
 基準値としてマーブルを使ったということになる。
 ここより売値が高い店は論外で、ここより買い取り価格が安い店も論外ということだ。
 ただ露店だと毎日あるとは限らない。
 それに買い取り量、販売量ともに上限が少ない可能性とかもあるので、多少コスパが悪くても、こういう店は便利なんだ。
 だから一等地で一丁前にお店を出せる。
 要するにサービス内容や信頼度が段違いだ。
 長い付き合いをするなら、こういう店のほうがいい場合も多い。
 小さな店でも店主が信用できるならそれで構わないが、なかなか当てるのは難しい。
 結果として一等地のマーブル店は利益率も高くて経費も高いけど、そのぶんもうかる。
 儲かる店はたくさん儲かって、他の店は利益も少ないということになる。

 やっぱり『格差社会』だった。

 既存のMMOのNPCはただのプレイヤーの補助であり、NPCだけで経済を回しているわけではなかった。
 お店も低レベル用の武器を売っているだけとかがザラで、高レベル品は敵からドロップしてプレイヤーたちが露店などで交換するような経済が多い。
 NPCはあくまで脇役に過ぎなかった。
 ポーション、POTはお店から買えるゲームも多いが、プレイヤーが作ることもある。
 プレイヤーが作るなら生産系が生きてくるけど、NPCがそれに参加してくると、プレイヤーの出番が減ってしまう。
 でも首都とかでNPCは全然経済を回していないなんて世界は「世界」として見るならおかしいわけで、プレイヤー優遇というわけにもいかないのだろう。

 このVRファンタジーではNPCは基本的にアイテムボックスを持っていないので、商品はその辺に山積みになっている。
 そこがプレイヤー待遇になっていて、露店では絶大な効果を発揮することになる。
 NPC露店は在庫が圧倒的に少なくならざるを得ない。
 もちろん店を構えている規模は別だ。
 ポーションのような基礎品が枯渇とかしたら困るので、マーブル薬草店が配置されているのだろう。

 露店でもポーションとかも売っているみたいだ。
 ポーション小、1つ1.5k。

「タカシさん、ポーション安いですよ」

「ほんとだ。おっちゃん、そのポーション4つください」

「まいど」

 おっちゃんからポーション小を4つ買う。
 残り30kラリルだ。

「露店では在庫を捨てるみたいなところもあるよ」

「なるほど」

「3つしか買えないとかだと、定期購入もできないし、一期一会的な場所も多いさ」

「なるほど。物知りですね」

「俺、MMORPG結構いろいろやったんだ」

「そうなんですか」

「はい。ポーション2つ持ってて」

「あ、すみません。お金出しますね。3kラリル」

「うん」

 オムイさんからお金を受け取る。

「初心者ポーションとかタダ同然で初心者支援してるゲームも多いけど、このゲームにはないみたいだね」

「序盤はお金ないですもんね」

「そうそう。レベル10までしか使えないポーション1つ10ラリルみたいな感じだよ」

「ほうほう」

「チュートリアルで100個単位でくれたり、チュートリアルでレベルが10になったりするゲームもあるんだ。だったら最初からレベル10で始めればいいのにとか思ってると、本当にそうなったりしてさ。最後にゃレベル100からスタートとか、ユーザーをバカにしてるんだよ」

「デミノっていうんでしょうか。レベル100をレベル1に修正したら一緒ですね」

「そう思うでしょ。数字だけ見栄張ってダメージ5千万みたいな感じになってるよな」

「ああ、数値だけ大きくしても読みにくいだけですね。本質を考えるとしょぼいだけですね」

「そういうことさ」

 再び歩き出す。
 夕方のこの時間は、プレイヤーだけでなくNPC住民も出歩く人が多い。

「串焼きありましたよ」

「お、いい匂いする」

「美味しそうです」

 謎の肉を焼いている串焼き屋を発見した。
 七輪みたいな携帯コンロを4つも並べて商売している。

「お姉さん、これ何の肉?」

「お客さん、プレイヤーさんだね。アベルボアの肉だよ。豚肉だけど結構美味しいと思うよ」

「本当? とりあえず俺は1本ください。あ、いくら?」

「500ラリルだよ。毎度あり」

 お金を払い商品を貰う。
 食べてみると確かに豚肉系だけど、肉の旨味と香ばしさもある。
 味は塩コショウだろう。

 オムイさんも1本購入して食べていた。

「美味しいです。VRだからって別に普通ですね」

「ああ、自然なのが不思議な感じすらするな」

「はい」

 2Mラリルあればこれが何本買えるだろうか。
 えっと、こちょこちょ。
 4000本だな。
 格差社会だろうこれは。

「プレイヤーだよね? 一日どれくらい売れるの?」

「そうだなぁ。毎日400ぐらいかな。材料は仲間が売ってくれるから」

「そうなんだ。ポーション大、200本。2Mラリル買った人見たんだけど、どう思う?」

「凄いね。トッププレイヤーなんじゃないかな。レア装備とか手に入ると、ポンとお金が手に入る、宝くじみたいなところがあるからさ」

「あぁ、なるほどね。誰も持ってない新装備を売れば、相場なんか目じゃないわけだ」

「そういうことよ」

「あ、あと5本追加で」

「まいどっ」

 最強装備の槍が手に入ったら、平気で5Mラリルとかで売れるわけだ。
 誰だって最強装備が欲しいに決まってる。
 プレイヤーは無理してでも買いたいし、競争になれば値段の相場は上昇する。
 比例みたいじゃなくて、文字通り桁が違うんだろう。
 一つ前の武器の10倍の値段とかになるわけだ。
 そして二流プレイヤーはお下がりの安くなったお手頃武器を手に入れる。
 三流プレイヤーは二流のお下がりという風に、どんどん安くなっていく。
 下の人は収入も少ないけど、出資も少なくて済む。
 そしてだんだん成長して、新規が下に入ってきて、自分たちが上がっていく。
 こうしてカースト制度みたいに三角形の『格差社会』が形成される。
 自由人はこれに含まれないこともあるけど、基本的には社会の一部になる。

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