設定を選択してください。

VRあるあるあるき

007.ストーカー
 というわけで、南の冒険者ギルドに向かっている。
 掲示板での合言葉は「冒険者よ勇敢であれ」だ。

 今のところ登場したのは「人間たるもの、人間たれ」「旅人よ自由人たれ」の2つ。
 これを「たるたれテンプレ」と呼んで、掲示板で提案する遊びが流行ってる。
 もちろん第一陣たちオンリーの遊びだ。
 俺たち第二陣はその間、配送業者が運んでくれるのを神に祈って、第一陣を羨ましがる日々を過ごしたわけだ。

 なんという悲しい思い出だろう。

 ところでまたご飯エリアを通過してきた。
 時間はまだある。
 しかし食い物を見ながら進むのは辛い。

 こんなにNPCの店が多いなら、プレイヤーの生産者が困りそうだけど、事情は違うらしい。
 プレイヤーの生産品も買い取ってくれる。
 そしてそれが店に並ぶ場合もあるとか。
 要するに代わりに販売してくれるようなものだ。

 確かに販売にまで手を掛けていると、生産している時間がない。
 当たり前だけど、自分で個人商店としてやるには、露店はあまり都合が合わない。
 売り子は欲しいよね。
 でも売り子に給料出して、とんずらされたらどうするの。
 商品売り渡したほうが、安全だ。
 ということらしい。

 NPC全員が善人であるはずがない。
 そんなのおかしいということらしい。
 怖いゲームだ。

 普通のゲームなら盗賊、スリぐらいしか悪いヤツは出てこないけど、一般人のバイトが信用できない可能性は、リアルに考えれば確かにないとは言えないだろう。
 数をちょろまかしたり、安く売ったり、色々考えようによってはあり得る。
 ゲームなんだから品行方正に決まっている、というのも考えようによってはおかしいのだろう。
 この世界の普通の人は倫理観は高いらしいけど、全員とは言えないというのが公式見解だそうだ。

 面倒くさいなぁ。
 と思うと同時に、開発はファンタジーらしさを全面に出すつもりのようだ。
 名前だって、ズバリそのままだし。
 ある意味一貫していて、一定層には評判が高い。

 そうして、通り沿いの店を眺めて、南門前ギルド支店に到着した。

 人は多いが混みまくりというほどではなかった。

 石造りの丈夫そうな建物に入る。
 そして、列に並ぶ。
 呼び出し番号なんて現代兵器があるはずもなく、立ったままだ。

 MMOではなく、ファンタジーあるあるだけど、美人の受付嬢が対応してくれる。
 これなんであるあるなのかと思うと、勘で言うと、銀行窓口を想像するからだろう。
 たまに偉い人とか、おばちゃんが紛れてるのもそうだ。

「薬草採取がしたいんですが」

「それでしたら、薬草を露店や薬草店に持ち込むといいですよ」

「ギルドでの依頼はないんですか?」

「中間マージンがありますから、若干安くなりますね」

「なるほど。薬草店はどこにあるんでしょうか?」

「3軒隣です。先に見せてもらうといいですよ、薬草。知らないで外に出ても意味ないですから」

「なるほど、ありがとう」

「いいえ。はい、次のかたお願いします」

 俺たちはギルドを出る。
 確かに3つ隣に「マーブル薬草店」とあった。

「まんまですね。先に気がつくのが普通かもしれないですね」

「めんぼくない」

「いえいえ、私も見落としてました」

 オムイさんは心優しい。
 これが知らない男だと平気で以下のような罵倒が飛んでくる。

「こいつ使えねえ」
「バカに案内頼んで損したわ」
「なんで俺は野郎に指図されなきゃいけないんだ」
「ハズレだな」

 酷い。
 想像であるが、たまに目にするし、言わなくても思うことがあるのは、どっちもどっちで、おおむね事実だから、世の中「ギスギス・オンライン」とか言われるわけだ。
 そこで天使であれば、ネカマでもほらこの通り、癒されるわけだよ。

「そんな悲しそうな顔しないでください。大丈夫ですか?」

「うん。もう大丈夫。ちょっと心の古傷が痛んだだけだから」

「痛いの痛いの飛んでいけっですよ」

「おう。すげー効いた。ヒールみたいだった」

「そうですか。よかったです。でヒールてなんですか? かかと?」

「ヒーリングなら分かる?」

「ああ、癒しですね」

「そそ」

 全部演技だったら俺はドン引きまでいくけど、その辺は許容量に差があるから何とも言えない。
 まぁあれだ、俺のリアルには無関係だからいいということにしよう。

 マーブル薬草店に入って中を見る。
 カウンターが複数あって、客も数名いる。
 そして薬草の匂いがなんとなくする気がする。
 カウンターの奥に積んであるんだ、緑のものが。
 スーパーのほうれん草みたいになっている。

「いらっしゃいませ」

「今冒険者始めたばかりで、薬草採取に行きたいんだけど、薬草の現物が見たいんだ」

「はい。それでしたら、はい。こちらをどうぞ」

 店員の可愛いお姉さんが見せてくれた。
 何に似ているかといえば、タンポポの大きいのかな。
 葉っぱがギザギザしていて、分かりやすい気がする。
 他の草を見てないから判別も分かんない。

「これって見つけやすいですか?」

「はい。この種類は近くに生えてまして、牧草地帯に生えているので、家畜に食べられる前に採ってもいいことになっています」

「なるほど」

 大都市のすぐ近くに空き地なんて広がってるわけがないんだよね。
 そう言うわけで、周りは牧草だから牧場が広がっているようだ。
 結構土地が必要だと思われる。

 で牧草に混ざって薬草が生えているのを家畜より先に失敬してきてもいいルールになっているわけだ。
 ありがたい。
 何がって周りが「草原」とか「森」とかで「モンスター」と来たら即、戦闘だ。
 何も知らない、もしくは知らなそうな、地雷臭みたいな匂いのするオムイさんを戦闘地域に放り出すなんて、絶対にまずい。
 一緒に死に戻る危険性が高い。

 まあ、オムイさんとなら死んでもいい。

 という気持ちもなくはないけど、敵が出てこないなら好都合だ。

「ありがとうございます。薬草、採ってきます」

「よろしくお願いします。今日はなんだかお客さんが多くて、びっくりですよ」

「あはは、ちょっと異世界人が多いんですよ」

「そうみたいですね。ほんと、助かります。ポーションの需要も増えてきてるみたいで、材料もたくさんいるんですよ」

「なるほどね。ありがとう」

「はい、いってらっしゃいませ」

 店員のいい態度に感心しながら、店から出た。
 門を出て、街区から野菜畑を通って牧草地帯に向かう。

 そろそろいいだろうか。
 後ろを振り返る。

「どうしました?」

 オムイさんがこっちを向いて首をかしげる。
 しぐさがいちいち可愛いくて、癒される。
 問題はそっちではなかった。

「いやちょっとね。変なヤツがずっとついて来てたんだ」

「えーっ、やだぁ」

 オムイさんは本当に嫌そうな顔をした。

「いや、門から外には出てきてないみたいだな」

「『ストーカー』とか最悪」

 可愛い子だと判断されると、変なのがついてくる。
 ネットゲームの宿命だけど、初日からはかなり運が悪い子だとしか言えない。

「ちなみに、中央の冒険者ギルドの後ろに並んでたヤツだよ」

「顔なんて覚えてないです」

「俺だって覚えたくないよ」

「そうですよね。もういないなら大丈夫でしょう。気にしないで、薬草集めましょうか」

「お、おう」

 思ったより神経が太いみたいだ。
 弱い子だと明日からもうインしないとか言われる可能性すらあったので、俺は密かに緊張していたのだ。
 マーカーもなければこの広い町で特定者を探すのは、かなりのムリゲーだ。
 その辺は理解しているんだろう。
 集団ストーカーだとヤバい可能性はあるけど、今のところそんな感じではなかった。
 4か所しかない入退場の門がウィークポイントだ。
 でも実は裏門みたいなのもあるので、実は8か所から出入りができる。
 一人なら会う確率は単純化して13%か。
 高いかというと結構高い。
 服や防具とか着るだけでも、だいぶ分からなくなるから、そのほうがいいかもしれない。

次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(ツイッター)で共有する