設定を選択してください。

VRあるあるあるき

032.掲示板と晒し
 俺たちは11時にログインして状況を確認する。
 運営のお知らせは「メンテナンス終了」としか告知されていない。
 特に不具合の詳細については、記載がなかった。
 時間は掛かったけど、たいした問題ではない可能性もある。

 今回のゴーレム石は1人1個ずつとりあえず配っておく。
 ゴーレムの心臓はレアではあるが、一般的にはネタ装備の範囲内だそうで、需要がいまいちであり、売れないことはないが「相場」がなかった。
 流通が少ないアイテムの相場はあってないようなものだ。
 どうしても欲しい人は高く買ってくれる。要らない人にとってはゴミみたいな場合もある。
 でも高く売れたほうが嬉しい。買うほうもできるだけ安く買いたい。
 だから売り買いの立場でも値段は違うし、人によって相場感が全然違うことも珍しくない。
 偽情報で高く見せかけることもよく行われている気配があるアイテムもある。
 だまされた人が主流になると、実際の相場も高くなる。だって高く売れるから。
 みんなが納得さえすれば、それが相場だ。
 実際には全員が納得なんてしないので、相場WIKIのような信頼性の怪しい場所は荒れる。

 ということで、ゴーレムの心臓の値段は保留になり、俺のものになった。
 実質貰ったことになった。

 いつもの魔術石屋さんに行って、魔石中を鑑定してもらう。

「いいの取ってきたね。100kで買うよ」

「おお。ありがとう。売ります。水晶石もあるんですけど」

「また、珍しいな。こっちは500kだな」

「そんなにですか。売ります」

「今後もご贔屓ひいきに」

 600kを5人で割ると120kか。
 まあまあの収入にはなった。

 俺たちはお金を分配してログアウトする。

「ではアディオス、ラルベ」

「ああ、アディオス。ラルベ?」

 オムイさんの謎の言葉に意味はあるのだろうか。

 俺もログアウトして、『掲示板』を巡回する。

 外部掲示板と呼ばれるところがある。
 匿名掲示板だ。
 掲示板の話題別のものをまとまりという意味のスレッド、通称スレ。
 個々のコメントは返信コメントの意味のレスという風に言う。
 呼び方が紛らわしいが、慣れるしかない。
 ゲーム板にあるゲーム攻略がメインの「本スレ」、雑談メインの「雑談スレ」などができることがある。
 ゲーム用のレンタル掲示板でも特定ゲーム用に誰かがレンタルしてくれて、内容ごとの専門性に分かれたスレッドがたくさんある。
 どれも普通、特定のプレイヤー名を書き込むのは禁止のローカルルールにしている。
 そして、ネットウォッチ系掲示板では、隔離スレとして、個人名を挙げるのが専門の「さらしスレ」が運用されることが多い。
 そう『晒し』である。意外と難読らしい。常用外で人名用漢字だ。

 どういうことかというと、特定のキャラクター名について、公言した場合、ほとんどは誹謗ひぼう中傷なので、そういうのは一律禁止なのだ。
 だから、小説とかで○○さんのスレとか、称えるレスとかが散見されるが、空想に過ぎない。
 一般スレで、誰かを誉めたりなんかしたら「信者乙」「信者キモイ」「信者消えろ」と返信されるのが、普通だ。
 馴れ合いがキモいとも書かれるだろう。
 そこは「匿名」掲示板だからだ。

 ゲームによっては公式掲示板が出てくる場合もある。
 書き込み者のプレイヤー名などが書かれている。
 こういう掲示板はゲームによって雰囲気などが異なる。
 そしてやはり、第三者の人物について書き込むのは、規約違反であるのが普通だ。
 名前や個人情報が書かれると削除対象になる。
 一方で小説などでは「最弱地雷職」を書いたスレッドが運営削除されるものがあった。
 こういうのは、逆におかしい。
 運営が言論弾圧をしていると捉えられかねない。
 基本的に内容の真偽は関係なく、特定個人ではない範囲での批判は、できて当然だ。
 内容が正しいか判断するのは読者自身だ。
 弾圧されるなら外部掲示板に人が流れるだけで、そこは削除も制御も運営には一切の手が出せない。

 そして「まとめサイト」でもなければ、日時が併記されているのが常識だ。
 一年前の内容に返信しても誰も相手にしてもらえない。
 他にも空想と現実では、差がある。
 例えば「実況行為の禁止」などが顕著で、実況板以外では禁止が普通だ。
 また「チャット行為の禁止」、出会い系関連禁止などもある。

 外部の話題別の専門スレッドは、過疎だったりするのもあるあるだ。

 基本的に戦闘中に掲示板なんて眺めている暇なんてないわけだから、掲示板がもの凄く流行るなんてことはない。
 レスが延びるのは、不満があるときと、祭り状態、あとは炎上ぐらいだ。

 晒しスレも全員が見てるとは限らない。
 というか、まともなプレイヤーはあまり見ない。
 内容も地雷プレイヤーを挙げるのがほとんどで、真偽も不明で、さらに間違った情報が憶測で書き込まれるところなのだ。
 ただし、強制野良パーティーがあるゲームでは地雷プレイヤーを調べるために見るだけの人、通称「ROM専」の人は多い。

 少しでも不満があると相手を晒し上げて、あることないこと書き込む文化は、ネトゲの光と闇の闇の部分といえる。

 小説サイトで掲示板回が盛り上がるのは別に構わないが、実際の掲示板は殺伐とした嫉妬と妬み、荒しが混ざったギスギスした場所であることが、珍しくない。
 みんなで楽しく盛り上がるとか、やはり「御伽噺おとぎばなし」なのだろう。
 現実を知っていると、小説に出てくる掲示板回の一体感の「クサさ」を感じてしまうことすらある。
 掲示板住民全員が作者の電波を受け取って洗脳されているみたいにも見える。
 実際、匿名掲示板で何か同じ話題を続けると「このスレなんか臭う」「IDコロコロ」「工作」「自演」と書かれるのが常だったりする。
 そういうのが嫌いな人はマイナス検索で掲示板を排除して作品を選んで読んでいるらしい。


 そしてVRファンタジーにも、そのような掲示板、晒しスレがあった。

 今回晒された、といっても名前不明のスクショだが、それは鉄の剣といい防具を装備した中級冒険者の3人組だった。
 そう、俺たちがダンジョンですれ違った3人だ。

 初心者ダンジョンでソロの初心者を狙い、悪口を言ってあおってくる。
 こちら側がキレて襲いかかると、逆襲されて、瀕死ひんしにされ脅されアイテムを取られる。
 と書かれていた。
 一番被害に遭うのは、帰還石らしい。
 先に襲ったのは初心者側であるので、PK犯罪としてシステム的に扱われないそうだ。

 なるほど、うまいことやる。
 前に俺は剣は戦争用だと言ったと思う。
 まさしくアイツラの敵、獲物はモンスターではなく、人間だったわけだ。
 なんとなく引っ掛かりを覚えたのは、そういうことだったのだ。

 俺たちは5人パーティーだったから、フレンドリーな態度をとったに過ぎないのだろう。

次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(ツイッター)で共有する