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VRあるあるあるき

028.転移ゲート
「お兄ちゃん、イノシシ大きいね。お肉もたくさん取れるよん」

「ああ、串焼き屋のパトリシアさんの知り合いは森で戦闘してたんだろうね」

「うふふ。男たちとイノシシの熱い戦い。たぎるわ」

「変な奴がいる。無視しよう」

「師匠酷い。いいだろ。ボクがちょっと妄想するぐらいさ」

 まぁいいけどね。

 森マップは草原マップと同じくらいポピュラーな存在だ。
 あまり山岳マップではなく、平坦へいたんな森のイメージのゲームや小説が多いと思う。
 でも俺の住んでるリアルの国に限れば、森は山岳地帯ばっかりであまり平野には広がっていない気がする。
 平地はほとんど開拓されてる。
 異世界ファンタジーはまだ土地が余ってるようだ。
 あと火を起こすのに木が必要な世界だと、どんどん伐採していって、森が消えるのはよくある。
 この世界では火は魔道具の七輪があるので、あんまり必要ない。
 燃料は魔石が使われて、火の魔法が掛かっている。

 ルルコたちの活躍で余裕を持って森を進んでこれた。

 そして少し開けた土地に出た。
 目の前には柵で囲まれた、簡易陣地があり、NPCの衛兵が見張っている。
 そして中央には、大きな転移水晶が設置されていた。
 通称クリスタルだ。
 青い澄んだ色をしている。

「タカシさん、凄いです。きれいですね」

「あれ、オム子、中央広場にもあるの知らない?」

「知ってますけど、これだってきれいですよ。形が違うから、違うよさがあるんです」

「まあ、そうだね。それじゃあ、登録していこうか」

「はい」

 転移水晶は、拠点毎に設置されていて、料金を払うと使用させてもらえる。
 登録がそれぞれ必要で、一度自分の足で行かないと、いけない。
 それでも毎回歩くよりずっと楽だ。
 歩いて移動するのも、風流だとかいう人もたまにいるが、ダンジョンや他の町まで毎日移動するのに、いちいち馬で移動してられない。
 そういうゲームを「マラソンオンライン」と哀れみをもって呼ばれている。
 決して「オンラインマラソン」ではない。
 ついでに言えば、特定のクエストを繰り返しおこなうのもマラソン、マラソンゲーと呼ばれて、バカにされたりする。
 金策や経験値のためだが、繰り返しは飽きるに決まっているので、よく批判される。
 ちなみに「○○オンライン」というのを、○○しかしないという意味で使用する。
 サーバーが落ちて、ログインが困難になると、ログインゲー、ログインオンラインと呼ばれる。
 釣り、フィッシングしかしない人は自称とかで釣りオンラインとか呼んでいる。
 なんでかと言われても、そういう文化があるとしか言えない。

 この陣地の正面には通称、初心者ダンジョンがある。
 岩の崖の横に洞窟が口を開けていた。
 これがひとり用RPGではセーブポイントになる。
 このゲームでも同様で、復活ポイントに設定されていた。
 復活をリスポーン、場所をリスポーン地点と呼ぶこともある。
 特にモンスターの復活は、リポップと呼ぶ。復活ではなく、別の個体という認識であるなら、単にポップ、湧くという。

「じゃあ、一度戻ろうか。ライトの魔法覚えてこよう」

 全員で王都セントラルシティーに戻る。
 ちなみに国の名前は、マクルリアンという。

 衛兵に5kラリルを支払って王都に戻ってみる。
 水晶に触れて、転移先を思い浮かべる。
 目の前が真っ白になり、もとに戻るとすでに王都中央広場だった。

「オム子は感激です」

「ルルコもびっくりよ」

「お兄ちゃん、凄い戻ってきたよん」

「うっほ。あっという間だった。頭が真っ白になって、絶頂したかと思ったぞ」

 なんとか無事に戻ってきた。
 簡単らくちん、さすがゲーム。
 ご都合設定でユーザーフレンドリーはいい運営だ。
 ファンタジーをこじらせたり、変なこだわりがあるゲームプロデューサーがいると、理不尽な仕様のゲームが出来上がって、ユーザーに不満をいっぱい言われる。
 サービスイン後の仕様変更でそういうことをすると、炎上するが、それでも話題にするのは、ゲーム関係の人だけで、多くの一般人は興味すらないので知らなかったりする。
 炎上といってもそんなもんだ。

 なお、転移すると壊れてしまうレアアイテムがあるらしく、それを輸送する商人プレイも用意されているそうだ。
 転移ではつまらないという人向けコンテンツらしい。
 まだ町の人による噂だけで、実際に流通しているかは知らない。

「そんじゃ、魔法使いギルドからだな」

 ギルドは中央西側だから意外と近い。

 魔法使いギルドに着いて、俺たちは「ライトのスクロール」を購入する。
 ひとり持っていればいいんだが、将来を考えれば、必須スキルなので、全員に買わせる。
 万が一、ダンジョンで落とし穴とかではぐれたら、真っ暗で困るのは目に見えてる。

 お値段は安めの10kラリル。

「段取りが悪くてすまんが、帰還魔術石買っていこうか」

 帰還魔術石は、復活地点に瞬時に戻れる、超便利アイテムだ。
 名前の通り魔術石だから魔石だ。
 転移水晶も宝石魔石という魔術石の一種だ。
 だから個人用の小さいのを「ホーム」に置いたりする。
 ホームは知っていると思うけど、個人の家または部屋のことだ。
 簡単にホームが持てるMMOと、ホームは難しいゲーム、それから未実装だったりインスタンスマップとして異次元に実装など、工夫されていることもある。
 移動式も珍しくない。
 クラブハウスにも置きたいのが転移石だ。

 露店の専門店街に行った。
 前、リカバリーの準魔術石を買い取ってもらった店だ。

「おじさん、帰還石、3つください」

「はいよ。60kね」

「1個20kか。ちなみに魔石小、買い取りいくら?」

「10kかな」

「そんなもんか」

「まあそんなもんだと思うよ」

「まあいいや、ありがとう」

 俺たちはイノシシの魔石をひとりで10個以上は持ってると思う。
 なんか高いと最初見ていたので、取ってあるんだが、使い道がなくて売ってもいいかもしれない。


「武器とか盾とか欲しい人いる?」

「いいえ」

 みんな首を振ったのでいいにする。

「それでは、初心者ダンジョンツアーに出発します」

「「おーー」」

 みんな仲良く手を挙げてくれた。
 女の子たちはそのまま、ハイタッチを交わしていた。
 コミュ障の俺はもちろん交ざる勇気なんてない。

「タカシさんもほら、ハイ。タア~チ」

 オムイさんに強制されて、恥ずかしがる俺。
 周りに見られてるじゃんか。
 リア充ではないぞ、そんなににらまないでくれよ、お兄さん。

 俺だけ、無言の非難の視線を感じていた。

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