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VRあるあるあるき

025.パーティーと倉庫
 まずは多品種戦略を取る。
 革ヘルメットを3つ、革ブーツを3つ、グローブ、縄文ブーツ、縄文ベスト、縄文パンツを2つずつ用意してみた。
 オムイさんは、腰につけるポーチ、ハイヒール革ブーツ、革の女性用胸当てを作っていた。
 数はそれほど用意しなくてもスキルがあるから短時間で作成できる。
 真似も簡単だが、あんまり売っていない。
 理由は想像できる。NPC町人には需要があまりなくて相手にされていない。
 第一陣のプレイヤーは回避系の人は布装備ようするに服系、タンク盾とかのガチ防御は金属系とかで革メインは少ないのかもしれない。
 軽くてある程度は丈夫なので、人気が高そうなのに、軽金属のブレストプレートとかになるんだろう。
 生産は飽きたら辞める人も多い。
 初心者用革装備より、上級装備を生産したほうが儲かるから、革防具は流行らない。
 もしかしたら競合の有名店とかもあるのかもしれないけど、プレイヤーの装備を観察した範囲ではレザーアーマーぐらいしか作ってないように思う。
 初心者は全身防具を揃えたりしないのかも。
 とにかくあんまり売ってないから、俺たちが売ってみるまでだ。

「革ヘルメットいいな。ひとつくれ」

「俺も」

「俺も俺も」

 パーティーメンバー3人全員が買ってくれてヘルメットが売り切れる。
 追加を3つ生産しておく。

 他も靴とかがポロポロ売れる。
 縄文人セットは売れない。ブーツかベストだけ売れたりする。
 パンツはさすがになしだったか。

「イノシシ革だよね、お兄さん」

 俺をおじさんではなくお兄さんと呼んでくれる女性プレイヤーが来た。

「はい、そうです」

「私さ、イノシシ革の処分をパーティーから頼まれてて、買ってくんない?」

「お、いいですよ」

「いくらになる?」

「あ、相場とか分かりますか? 俺も皮のまま売り買いしたことないんで分からないんですよ」

「適当でいいよ。ガツガツしないさ」

「ありがたい。では5kぐらいでどうです?」

「ぜんぜんいいよ。はい。40枚よろ」

「200kですか」

「うん。まずかった?」

「いいえ、現金が減ると心細いんですよ」

「貧乏性だね。1枚を10kで売れれば400kになるんだから頑張れよ」

「確かに。ではトレードを」

「はいよ。ありがとう。ヘルメットいいね。初めて見るよ。ほう、補正もいいじゃん。6個作れる? 大至急」

「はい」

 俺はヘルメットを追加で3つ作って6個売る。

「森に行くと上から襲われるんだよ。頭守って当然だわな。ゲーム脳だから顔とか頭が隠れるの嫌うんだよどの子もね」

「そりゃゲーム脳だわ。気持ち分かります。そのせいでリボンとかが最強防具なんですよね」

「そそ。でもヘルメットがいいよな。VRの当たり判定ならね」

「ですよね。ありがとうございました」

「じゃ、またよろ」

 ヘルメットが売れるようだ。
 隙間産業だけど何万人かはプレイしてるから、隙間といっても結構大きい。
 ヘルメットをあと20個は作れる。やらんけど。
 ヘルメットは6個増産しておいた。

「売れると嬉しいですよね」

 隣のオムイさんも女性プレイヤーの需要を掴んで、そこそこ売れていた。

「うん」

「人に必要とされてる気がしてきて、ゲームやっててよかったなって」

「そうそう。露店売れて嬉しい快感。MMOあるあるだよ」

「こうやって、はまっていくんだなって思いました」

 入手した皮全部捌くことは無理だったけど、かなり儲かった。
 夕ご飯は、アイテムボックスから串焼きを出してかじった。

 生産系のキモは需要および、材料の入手性にある。
 例えば1時間狩りをして10個分しか手に入らないものより、材料をお店で買えて、売れればだけど100個生産するほうが儲かったりする。
 もちろん準備資金なども必要だけど、数は暴力だ。

「じゃあ、暗くなったから終わりにしましょうか。時間も0時過ぎましたよ」

「本当だ。ではまた明日と言いたいんだけど、明日は会社の飲み会があってね」

「そうなんですか。月曜から大変ですね」

「ええ」

「では、アディオス、メルバ」

「アディオス、メルバ?」

「うふふ」

 また謎の言葉を残して去っていくオムイさんだった。
 言った通り明日は予定が、明後日は会社の飲み会で0時ごろに帰宅予定なので、遊べない。
 ぶっちするわけにもいかないので、酒の席でVRの素晴らしさを解説してウザがられて来ようと思う。
 どうせ会社のおじさんたちに話しても理解なんてしてもらえないと思う。



 はい。3日後の火曜夜の午後6時。昨日の飲み会は大変だった。
 インしてオムイさんを捜索する。
 フレンドリストを見るとインしてきている。
 自分の現在地は中央露店市場、フリーエリアだ。

 俺はたまに思い出したようにコミュ障であるので、こういうときに自分からアクションを起こすのが大の苦手である。
 オムイさんに1日会わない間に、新しい男ができて素晴らしくて、愛想を尽かされてもう一緒に遊んでくれない可能性もある。
 現にパーティーが解散されていた。
 どうしようか迷う。

 フリーエリアのものを見て、いいものがないか物色する。
 100kの現金に革が25個で製品価格で250k。
 ブタ皮の購入で200k。
 資金は現在180k。革製品の残り価格で370k増える予定。
 あのお姉さんがヘルメット分120kのキャッシュバックをしてくれたので、助かっている。

 欲しいものもなくブラブラしていたら、メッセージを受信した。

オムイ〉やっほ。タカシさん元気。いまどこ?

 オムイさんだ。何もないみたいなメッセージにほっとする。

タカシ〉フリーエリア露店開く場所です

オムイ〉すぐいくよ

 来てくれるらしい。
 しばらく待った。

 オムイさんは、コブ付きになっていた。
 一緒に女の子を3人も連れている。

 モテモテじゃないか。どんなコミュ力なんだ。

「やっほ。タカシさん。紹介するね。右からルルコ、ユマル、セリナね」

 驚いた。身体スキャン組だ。
 全員若い新入社員とか女子大生みたいな子たちである。
 人数が増えると会話の再現が面倒くさい。
 原住民でもなく、変な語尾とかもしていないので、識別が大変なんだ。
 3人も名前と顔を覚えるのが面倒だ。

「あなたが師匠ですね。初めましてルルコです」

「師匠? ご丁寧にどうも」

「お兄ちゃんあたしがユマルだよ。よろしくりん」

「よ、よろしく」

「ボクがセリナだ。ちゃんと覚えてくれよな」

「お、おう、よろしく」

 キャラ語尾ではないけど個性は強そうだな。

「それで師匠、パーティー入ってください」

 参加確認がホログラムで飛んできた。
 確認を押すとパーティーメンバーにされた。

「じゃあ、リーダーお願いしますよ」

 序列が変更になり、俺がリーダーに任命されていた。

「先輩の師匠なんだから、頼りにしてますよ」

「そうですよん」

「そうだぞ」

「う、うん。頑張るよ」

「それで師匠、倉庫借りましょうよ。私たちはイノシシ倒しますから皮を入れておきます。取り出して製品を売ってください。お代は倉庫に入れておいてくれれば、予定が合わなくても取引が簡単だとWIKIに書いてありました」

「説明ありがとう」

 多くのMMOでは手持ちのアイテム数にかなりの制限がある。
 そのほうがリアリティがあるからだ。
 アイテム種類が30とか64種類とかで同じ種類は重ね置きが可能だ。
 アイテムに重量が設定されていて、重量制限もよくあった。
 重すぎると走れなくなったり、酷いと動けない。
 すぐに一杯になる。

 それを緩和するのが『倉庫』の概念だ。
 アイテムとお金を預けることができる。
 世界の各所で下ろせるゲームと、預けた場所ごとに別の倉庫として機能するタイプとがある。
 キャラクターの倉庫とアカウントの倉庫があり、アカウントではサブキャラとアイテムの共有をはかれる。
 このゲームではサブはないので関係ない。
 そしてクラブまたはギルドの共有倉庫というのがたいていあるのだ。
 そしてクラブ倉庫荒しがいる。そのために、アイテムごとに引き出し権限制限があったりする。
 以上倉庫あるあるだ。
 このゲームには、パーティー倉庫があり、任意の人と共有倉庫を借りられる。
 ひとりで5パーティーまでの制限がある。

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