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VRあるあるあるき

012.初心者詐欺
 現在の資金は29kラリル。
 また昨日と同じ、串焼きのお店に来た。
 同じものより色々食べたほうがいいんだが、あの匂いと味が忘れられなくて、食べたくなった。
 リアルでは肉ばっかり食ってると健康がどうとか気になって病気も怖い。

「お姉さん、串焼き4本ください」

「あぁ、昨日のお兄さんか」

「よく覚えてたね」

「客商売だからね。それに話をしたから覚えてるさ。数だけ言ってあとは無言の人がほとんどだよ」

「俺もコンビニとかそうだな」

「でしょ。1本500ラリル4本で、2kラリルです」

「はい、どうも」

「まいどっ」

 俺たちはブタの串焼き、えっとアベルボアの串焼きを食べる。

「これ、他で見ないけど、敵強いの? でも安いよね」

「プレイヤーにとっては、そんな強くないよ。1匹倒すとたくさん肉が取れるんだよ。50個ぶんぐらいかな。それで私はパーティーから外れて串焼き売ってるんだ。楽しいってのもあるね」

「お肉は肉屋とかで買い取ってもらえないの?」

「牧場があるからさ、この国の人は牛が高くて、他は馴染みがないせいで安いんだ」

「そうなんだ。そういえばアイテムボックスに入れるとどうなるの?」

「そのまま何週間も持つよ」

「おし、追加で10本ください」

「ども、まいどありっ」

 俺は合計14本、7kラリルのお買い上げ。
 残り22kラリル。

「お姉さん、俺たち見れば分かるけど初心者なんだ。武器とかどうしたらいいの?」

「それはそうだなぁ。まず防具は一番安い革のでもいいから上から着る。それと槍でも持ちなよ。それかクロスボウいいよクロスボウ。銃みたいに使えるから」

「弓は結構難しいんだよな。なるほど、クロスボウか」

 クロスボウやボーガン系統での中国祖先のという武器は、古代中国のころからずっと使われている歴史のある武器だ。
 またの名を大弓。
 攻城戦では大型のバリスタもある。やはりかなり古代から使っている。

 異世界にあっても不思議じゃない。

 弓を設置して、引き金を引く構造はほとんど銃と一緒だ。
 飛んでいくのが矢だという違いはある。

 俺たちは露店を見て回り、一番安そうな中古の槍を俺が10kで購入。
 残り12kラリル。
 他の店でクロスボウも発見して、それが15k。
 高いと思ったけど、専用の矢のあまりも合計120本、全部貰えた。
 店主はプレイヤーで、なんでもお店で買って使ってみたがメイスに変更したらしい。

「俺にはクロスボウは合わなくてさ。メイス楽だよ。バット殴るのと一緒だもん」

「なるほどです」

「なるほどメイスか。棍棒こんぼうと何が違うの?」

「棍棒は木でできてる。メイスは金属で頭がでかい。スイングすりゃいいんだよ」

「そうだよな」

「クロスボウ難しいんでしょうか」

「難しくはないよ。ただ俺は残りの矢の管理と矢のセットが面倒だし、一人だとね、次を装填するまで撃てないから接近されるとナイフで辛かったんだ」

「確かにそうですよね」

「装填時間か。確かにな。オムイさん、クロスボウでよかったの?」

「いいですよ。私も試してみて、ダメなら誰かに、それこそあなたに譲ってもいいし」

「ああ、俺も試してみりゃいいのか」

「そうです」

「お買い上げ、ありがとうございましたあ、あ、そうだ」

「なに?」

「マント買わない? 俺のお古だけど、このゲーム服は普段は汚れないからきれいだよ」

 店主がフード付きマントを見せてくれる。

「クロスボウでハイドするのにいいと思うんだ。マント」

「あー欲しかったんです。マント。買います。いくら?」

「3kかな」

「買います。買います」

「まいどありです」

 オムイさんはマントを装備した。
 こげ茶のマントでフードを被る。
 長さはお尻が隠れるぐらいまである結構長いのだった。

 他の店で、普通の民間人の服みたいなのを2kで買った。
 俺とオムイさんでおそろいの濃い緑の厚手の服にした。
 残り10kラリル。
 残り金額はオムイさんも似たようなもんだろう。

「どう似合ってます?」

「あーうん。明るいのも暗いのも、何着ても似合うよ」

「ありがとう、うっふん」

「なにそれ」

「色目を使いました」

「色気はゼロだな。残念ながら」

「そうですか」

 オムイさんは可愛い顔だが色気はあんまりない。
 おっぱいはそれなりだし腰もくびれているがエロくはない。
 スカートでも普通なのに、おっさんとお揃いのズボンにマントになって現場作業員みたいになってしまった。
 やはり残念ながら初心者のネカマちゃんなのだろうか。

 まあ、しょうがないかな。
 お金がじゃぶじゃぶ稼げるようになったら、スカート付きアーマーとか着せてみたい。

「あと10kしかないんだけど、革防具、えっとレザーアーマーが欲しい」

「買えますかね?」

「どうだろうな。運だな」

 今武器ゾーンで、この先のゾーンは防具が多いらしいよ。

「あったあった。レザーアーマー。お値段8k」

「私の分もありますね。お値段8k。ギリギリですけど」

「試着してもいいですよ」

「どうもです」

 俺たちは装備をしてみる。
 装備の切り替えは、メニューでワンタッチだ。
 悪くないかな。現場作業員が防具により、下っ端戦闘員にランクアップした。

「まぁまあかな。見た目が」

「まぁまぁですね。見た目も」

 補正、能力値のことも鑑定で見たらしい、ないよりはいいだろう。
 購入を決めて残り2k。オムイさんは余裕なしだろうな。

「じゃあ戦闘しますかね」

「はい。行きましょう」

 今度は西門側に向かう。
 南は牧場、北は森、東は海、そして西が牧場だけどすぐ先が岩場の混ざった草原だった。

 西門前で、初心者装備、シャツにズボン、サンダルだけのデフォ男に声をかけられた。

「すみません」

「なんですか?」

「俺、初心者で一文無しなんです。外は敵強いし、剣ぐらい欲しいので、恵んでくれませんか」

「すまん、俺も一文無しだ。装備買ったら、すっからかんさ」

「1kラリルでもいいです。できれば10kぐらいは欲しいです。マジ初心者なんです」

「VRゲームというかMMO初めてなの?」

「そうっす。こういうゲームはマジ初めてっす」

「1Mくれてやろうか」

「マジですか。あなたが神か。一生忘れません」

「嘘に決まってんだろ。『1M』が何か知ってるやつが初心者なのかよ」

「うげ。あ、ほら、1Mバイトとか言うじゃないですか」

「初心者は間違いなく『100万ラリル、千ラリル』って言うよな。普通。どうなんだよ」

「うぐう、このくそったれ、敵にやられて死んじまえ、バカっ」

「通報したろか、あん」

「くそっ」

 自称初心者は走って逃げていった。

「なんなんですあれ」

「あれはな、初心者詐欺っていうんだ。乞食だよ。ちなみに知られてないけど、リアルでは乞食行為は違法だ。VRの中は関係ないけどね」

「あ、なんか残念な人でしたね。一文無しでも、ああはなりたくないです」

「同感だ」

 これは本当の『初心者詐欺』を利用した詐欺だ。
 初心者詐欺という言葉自体は、初心者をかたった時点でそう呼ばれる。
 レベル100なのに「私初心者で~す」とか言うと、詐欺だと言われる。
 ゲームによっては最初からレベル100なので本当に初心者だったりするから世の中は訳が分からなくなる。

 ちなみに「一生忘れません」も台詞あるあるなので覚えておくといい。
 たいていそういうヤツは1週間もすれば忘れていると思う。
 俺は結構覚えているから言われたほうは他の人も覚えてるかもしれんが、言ったほうは何か軽いイメージがある。
 まああれだ「ずっとも」「ずっと友達だね」「一生友達」と一緒だよ。
 そういえば「あなたが神か」は言われたことがない。
 その代わり「廃人」とはよく言われる。
 トッププレイヤー様を攻略組とか、トッププレイヤーとか勇者、英雄とか呼ぶことは「まずない」。
 普通は侮蔑を含んだ「廃人」としか呼ばないと思う。
 小説とかでは「有名人」はかっこいい人の象徴だが、現実ではゲームしかしてないバカの象徴だ。

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