設定を選択してください。

VRあるあるあるき

011.転売と詐欺露店
 朝から可愛いオムイさんを見て、嬉しい俺だった。

「今日は違う地区の露店も見ようか」

「はい」

「朝ご飯も食べてくよね」

「あ、あの、さっき夕ご飯食べたばっかりです」

「そうだよね。俺もだよ。でも俺、今お腹空いてるわ」

「私もなんだかお腹空いていますね。空腹度とか言うんですよね」

「ああ、満腹度かな。たぶん。数値が大きいほうの表現に合わせるのが普通だから」

「どういうことです?」

 HPは体力。衰弱度ではなく、健康度だろう。数値が大きいほうの意味を言う。
 耐久度だって消耗度とは言わない。あくまで耐久があるほうを基準にする。
 糖度だって、甘いほうが数値が高い。けして甘くない度ではない。
 温度だって冷度ではない。
 だから満腹度であって、空腹度ではない。
 角度とか例外もありそうだが、一般的にはそうだ。
 名称に対して正の比例関係にある表現にする。負の比例関係では表現しない。
 比例とは限らないけど、多くは比例関係だ。
 ただ数値の1とか0とか100が特別視されたり、反比例や二次関数みたいなタイプもある。

「なるほど」

 露店街に入って、周りを見る。
 この辺は昨日来た場所よりお店が大きい。
 売ってる種類は少ないが、専売というか特定商品を売っている店が多かった。

「店が大きい感じだな」

「お客さん初めて?」

「おお」

「ここは専門店街さ。向こうは毎日適当な商売だが、こっちは毎日同じ場所で露店を出してる。登録制だよ」

「なるほど」

「こう言っちゃあれだけど、こっちは値段が高めだったりするね。向こうで買い取ったものを転売したりするんだ。そうやってものが一か所に集まってきて、安定供給されるんだよ」

「安定は重要ですね」

「そうだよ。毎日同じ場所で同じものが買えなきゃ、面倒くさいからね」

「ですよね」

 MMORPGの露店システムには『転売』問題がある。
 商店とかの業界用語で「スポット」というものがある。
 毎日いつも売ってる「定番品」とは違い、たいてい安く露店に出されるが代わりにその時しかないし、品数も少ないことが多い。
 そういうスポットを買い集めて、固定の露店が転売するのだ。
 現実でもスーパーの特売品は多く仕入れるけど、その時しかない。

 一般客はスポットが買えれば安く済むが、いつもあるとは限らない。
 どうしても欲しいときは転売屋から高いけど買うしかない。
 だからネトゲでは露店巡りをしてまずスポットを探してから転売屋の露店を見る。
 その値段の差に「転売屋」を非難することも多いが、あれが値段の基準値として働いて、市場が安定したりするバロメーターにもなるので、必要悪だと俺は思ってる。
 ただネトゲでは転売屋の値段は相場よりも数割高いので、非難されるんだ。
 もうひとつは転売目的で買われてしまい、露店街から商品が消えると、プレイヤーは困るので、そういう転売タイプは嫌われる。
 将来のアップデート後への投資とかそういうのだ。

 初心者支援で安値で販売したり、相場の値段を知らない初心者が、異常な安値で売り出すのも、転売屋の格好の餌食、お得意様になる。
 支援だとしてもゲームだと転売屋に売るときだけ購入制限するわけにもいかない。
 普通のスーパーなら個数制限とかできるけど、ネトゲでは個数制限は意味をなさないことが多いので、そういうシステムはついていない。
 第一、売り上げ記録をいちいち覚えていて販売時に辿っていたらシステムが重くなってしまう。
 ただしログ追跡などで記録自体は保持していることも珍しくないらしい。

 というわけで、個数制限は普通ネトゲではついてない。
 小説とかでは「ひとり3つまで」とか書いてあるが妄想に過ぎないのだ。

 露店方式ではなく、マーケット方式またはオークション形式の場合もある。
 マーケットでは値段が付いていて、購入希望者の中から抽選になったりする。
 複数の同じ商品が出品されれば、安いほうから買えたり、一覧から並んだ同じ商品の中から好きな値段のものを買える。
 マーケットでは値段検索ができるので、他の商品が登録されていれば、間違った値段にしにくくなる。
 ただ最安値しか買われないので、売れなければデフレ傾向になる場合もある。
 転売対策として、手数料を運営が取るのが普通で、そこが割高感を醸し出すのが欠点だ。
 オークションでは期限までに最高値または即決価格を最初に提示した客が落札になる。
 売り買いに競争がある場合は、それぞれの方式が有効活用されることになる。


 ぐるっと回って見た。
 復活ポーション小が6kだった。
 復活ポーション大は30kだった。

 ちょっと高いかなっと思ってスルーする。

「前の露店に戻ろっか」

「はい、そうしましょう」

 再び、露店街に戻ってきた。

 見た目は復活ポーション大が置いてある。
 看板に小さく「特製ポーション大20k」と書かれていた。
 ちょっと復活ポーション大としてはかなり安いと思う。
 安いのは逆に怪しい店なんだ。

「おっさん、これなに?」

「あぁ? 特製ポーション大だけど?」

「鑑定してみていい?」

「いいぞ」

 俺の鑑定結果は「ポーション大」普通のだ。
 決して「復活ポーション大」ではなかった。
 復活ポーション大の空き瓶か何かに詰めたのだろう。

「普通のポーション大だけど?」

「そりゃそうよ。俺特製だもん」

「ああ、そういうこと」

「おう」

「また来るわ」

「どうも」

 俺たちはその露店から離れる。

「どういうことですか?」

「一種の詐欺さ」

「詐欺なんです?」

「詐欺露店だよ。他の見た目がそっくりの高い商品に偽って安い商品を売りつけるんだ。おっちゃんは嘘は吐いてない」

「でも、ダメですよね?」

「ダメだけど、ダメではないな。値段設定を間違えた。相場を知らなかったと言い訳されたら反論できない」

「確かに。でもずるくないですか?」

「ずるいよ。俺もだまされそうになったことある。騙されたら悔しいだろうな」

 こういう行為はよく行われる。
 名称も『詐欺露店』や「露店詐欺」と言う。
 値段を復活ポーションより10k安いから相場より安く見せかけて、買ったほうは後で高い商品を買ったと知るわけだ。
 普通のポーション大はマーブルでさえ10kだったから相場の倍の値段だ。
 場合によっては使うまで気がつかないこともある。
 商品名、アイテム名が明らかに違っても、間違った看板で誘導したりすることは可能だ。
 特にとても高い商品より2桁以上値段が違う安物を、1桁間違えた高い商品に見せかけるのが常套じょうとう手段とされる。

 高い商品相場……30M
 安い商品相場……100k
 詐欺商品(安い商品)……3M

 こんな感じにして「本日特価」とか書いた看板を設置して、実際には3Mだと、高い商品の値段設定間違いに一瞬、見えるのだ。
 そして焦って買った人は、あとで間違いだったと気づく。

 ちなみに間違って安く売っている店には、店主に値段間違ってますよ、と声をかけるのが半分はマナーだ。
 逆に高い商品はスルーが基本だ。
 そのような値段間違いを転売目的で購入して教えてあげないヤツが、金に目がくらんでわなにはまる。
 あと値段をよく知らない初心者が「なんだか前に見たより安い気がする」と勘違いして買う場合もある。
 初心者さん可哀想。

 でもまさか「NPC露店」が詐欺してるとか、信じられるか?
 怖いゲームだぜ。
 リアリティはあるけど、これでは相場観を持つまでまともに買い物なんてできない。

次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(ツイッター)で共有する