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謎スキル【キンダーガーデン】のせいで辺境伯家を廃嫡されましたが、追放先で最強国家を築くので平気です。

第7話 園児と保育士
「園長先生、さようなら。最後になでなでして欲しいの」
「わたしも~」
「ぼくだって」
「ずるい~」

「じゃあ園長先生が、一人ずつよしよしするから、おへそを前にして並ぼうね」
「はーい!」

「よしよし……。みんなよい子にするんだぞ……って、ここは、どこだ……」


 俺は知らない部屋にいた。どうやら、父に呼び出される前の夢を見ていたらしい。

「痛てっ……」

 ベッドから体を起こすと、目の前にはフリルのついた白いカーテン。室内は白で統一されているが、病室という感じはしない。女性というよりむしろ、女の子の部屋のように感じる。

「ジーク様、ご無事で何よりでございます。私は男爵家にメイドとして仕えておりますエリンダです。お見知りおきを」

 エリンダはそう言って丁寧にお辞儀をした。
 普段着にエプロン姿。美人には違いないのだが化粧気がなく、髪の毛を後ろで一つにくくっている。歳の頃は俺より少し上くらいに見える。

「手当てしてくれて感謝する。すぐに領主殿にお会いしたいのだが」

 慌てて半身を起こす俺に駆け寄るエリンダ。俺の背を支えながら、申し訳なさそうに視線を落とす。

「申し訳ありませんが、我が主は病により伏せておいでです。どうか面会はご容赦ください」
「男爵様は、そんなに悪いのか」
「はい。ですが、領主の仕事に関する引継ぎの一切は私が行いますのでご安心の程を」

 そのとき、奥の扉がゆっくりと開いた。

「ジーク殿目を覚まされたら、すぐに案内するよう言いつけておいたではないか」

「マナカ様こそ、少しでもお休み頂かないと、病の進行が……」
「わらわの寿命が一日や二日短くなったとて、いかほどのことがあろうか」

 慌てるエリンダの先には、薄い水色のワンピースを着た銀髪の美少女が現れた。年の頃は五、六歳にしか見えないから少女というより幼女と言うべきか。
 着ている服がスモッグに似ているせいか、エプロン姿のエリンダと並ぶと園児と保育士にしか見えない。


「初めまして。セミリア男爵家当主、マナカ=セミリアでございます」

 マナカはそう言うと、スモッグ姿で完璧なカーテシーをした。

 俺のポカンとした顔を見てマナカはくすりと笑った後、その容姿に似合わぬセリフを口にした。

「ふふっ。ジーク殿は、わらわの事をいたいけな幼女だと思っておられるようじゃの」
「わらわ? じゃの?」

「マナはこれでも、満八百歳のうら若き乙女なのじゃ」

 そう言うと、スモッグの端を両手でつかんで、赤らめた顔を隠したのだった。


◇◇◇


「ジーク殿、普通に話させてもらうぞ。どうも貴族の話し方は未だに慣れぬのじゃ」

「それは構いませんが、マナカ様は体がお悪いのでは? それからその……幼な……いや、若いお姿についても教えていただけないでしょうか」
「よかろう。そのかわり、ジーク殿はわらわの事をマナと呼んでくれい」


 マナは【魔導士】のスキルを持つ魔法使い。禁断の法により、一切の攻撃魔法の能力と引き換えに永遠の命を手に入れたという。
 流行り病に罹ったわけではく、療養所をつくるために土魔法や治癒魔法を使い過ぎたせいで、命を留める禁術のタガが外れて魔法が逆流し、どんどん若返っているらしい。

「永遠といっても、たかが千年程度のものじゃがの。どうじゃ、このワンピース似合っておるじゃろう。一度は可愛い恰好をしてみたかったのじゃ」

 スモッグの端をつまんでくるりと一回転するマナだが、あきれる俺に気付いたエリンダに止められた。

「いい加減にしてください! 大人しく横になって頂かないと進行が早まるのですよ!」
「こ、コホン。済まん、そう恐い顔するでない。うむ……。話せば長い話じゃが、一言でいえば子爵のせいじゃ。ぐぬぬ……」

 拳を握りしめ、悔しがる幼女。

「とにかく子爵家|《あやつら》は、わらわのことが気に入らないらしく、色々と嫌がらせをしてきおったわ。もちろん適当にあしらっておったのじゃが、あやつらはついに軍を起こしおった。やむなくこちらも出陣したのじゃが、急に辺境伯の軍が来ての。一斉突撃でこちらは粉砕されたわ。そなたの父の【聖騎士】スキルにかなう軍など、この大陸にはおらぬ。わらわも家臣や領民のことを考えて降伏したのじゃが、まさか本領安堵の条件が病人の受け入れとはの」

「何と申していいのか……」
「いや、ジーク殿には責任の無いことじゃ。元よりわらわは貴族だの領主だのに未練はない。ジーク殿に後を託せてほっとしておるのじゃ」

「そういえば御者の……猫耳族のミイはどこですか」
「ジーク殿に合わせることかなわぬと伝えたら、療養区の方に行ったぞ。危ないから止めたのじゃが」
「あいつは馬車で一角狼の群れを振り切って俺をここまで運んでくれた恩人なのです。それにしゃべることができないのが心配で……」
「あの傷は薬や魔法では完治せぬの。僧侶や聖女、そしてわらわの力でも無理じゃったわ」
「そうですか。ありがとうございます」
「さ、そんなことよりすぐにでも領主の引継ぎを行おうかの」

「それでは、ジーク様。奥の間にどうぞ」

「その前に一つよろしいでしょうか。俺の葬儀を行ってくれませんか」
「くくく……そうくると思っておったわ。ジーク殿が気を失って当家に運ばれて後、この部屋に立ち入った者は、エリンダとわらわしかおらんでの」
「マナカ様、の命により準備は整えております」
「そういうことじゃ。ジーク殿の葬儀は明日にでも執り行うことにしようぞ。それよりまず、引継ぎじゃ」

 マナは満足気に頷|《うなづ》くと、俺の手を取り、奥に連れて行ったのだった。
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