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謎スキル【キンダーガーデン】のせいで辺境伯家を廃嫡されましたが、追放先で最強国家を築くので平気です。

第11話 奇跡のヒールで若返り?!
「わらわが魔法が使えぬせいで、街をはじめ領内の整備がそのままになっておるのじゃ」

 この日、俺はマナとエリンダを連れて街を見回っていた。もちろん表向きはマナに俺とエリンダが付き従っている体である。

「マナカ様が床に臥されてからは、街のことまで手がまわっておりません。今や働き手のほとんどが看護や介護にまわっている状態ですので」
「それじゃあ、どうやって収入を得ているんだ?」
「うん……ま、まあ。商人もやってくるしの。ありがたいことにポーションがよく売れておるのじゃ」
「え? ポーションの製造販売は、中央聖教会の許可がいるはずだが……」
「仕方ないじゃろうが。セミリアは病人であふれておるのだぞ」

 要するに密造酒ならぬ密造ポーションでなんとか領地経営を行っているそうだ。しかもどうやら、かなり薄めた粗悪品を安値で売りさばいているとか。

「全てのポーションを患者に使いたいのじゃが、そうすると収入がなくなるのじゃ。ジーク、いやリューク殿、何か良い知恵はないかの」
「とにかく病人の治療を優先しよう。教会に案内してくれないか」
「うむ……。初めに断っておくが、リューク殿、驚かないでくれの」



 教会の中に一歩足を踏み入れると、そこには所狭しと患者が横たわっており、あたかも野戦病院のさながらの惨状だった。その中をマナとエリンダは顔色一つ変えることなく、患者をかき分けるように奥へ進む。

「これでもここは比較的軽い患者が多いのじゃ。リューク殿のおかげで体調もいいし、久しぶりにヒールでもかけて少し楽にさせてやれるかもしれぬ」
「俺が魔力を注ぎ込み続ければ、マナは、ここにいる全員にポーションをかけられるのかな?」
「うむ。ただ、頭をなでなでするだけではだめじゃ。もっとこう……スキンシップが必要かもしれぬ。例えば膝の上でなでなでされるのが効果的だと思うのじゃ」

 俺は仕方なく椅子に腰かけると、マナは俺の膝の上にちょこんと乗った。 

「では、はじめるぞ。ポーションをかけて欲しい者は来るがよい」

 どうやら歩ける患者からはじめるようだ。奥の方ではエリンダがてきぱきと指示を出して患者を並ばせている。

「……これはこれは、御領主様。こ、このような婆にお情けをかけていただき、もったいないことでございます。コホコホゴホッ」
「うむ。苦しゅうない」

 マナは俺の膝の上で老婆に向かって手をかざすと、老婆の肌つやが、みるみるうちに良くなった。
 ……って、あれ?!

「きゃっ、どうしましょう‼」

 なんと、肌つやが良くなるのを通り越して、しわだらけの老人が、つやつやプルプルになった。曲がっていた腰が伸び、白髪がいつの間にか美しいブロンドに変わる。見た目も十代後半のようになった。


「「「おおおおお~っ‼」」」


 老婆が美少女になったといおう奇跡に、どよめきが教会を包んだのだった。



「わらわは、普通のヒールをかけただけじゃが……。【キングガーデン】の力が覚醒しつつあるのかも知れぬ。まさに神の恩恵じゃ」
「でも、明日になればまた元に戻るんじゃ……」
「魔力が逆流していたわらわと違い、患者は本当の意味で若返ったわけではないから心配ない。病気やケガだけでなく、加齢による全ての症状が回復したとみえる」

 マナは俺にこっそりと耳打ちすると、患者たちに向かって声を張り上げた。

「皆の者、このような奇跡が起こせたのは、リューク殿がわらわに魔力を送り続けてくれたおかげじゃ。リューク殿を讃えよ‼」

「うおおお~っ!」
「リューク様~!」
「リューク様、マナカ様ありがとうございました~‼」
「リュウックッ! リュウックッ!」


 結局俺は、この日一日中、マナを膝に乗せてひたすら頭をなでなでし続け、千人以上の病人が元気に若返ったのだった。



「ふう~何とか終わったのう」
「……って、あれ? まだひとり残っているのか?」

 最後の患者にポーションをかけ終えたと思うと。フードを深くかぶった猫耳の少女が、もじもじしているのが見えた。

「ミイ!」
「何じゃお前か。遠慮するでないぞ」
「あうう……」

 フルフルと首を横に振るミイ。
 どうやら、病気にかかっている訳ではないので、ヒールは受けれないと思っているらしい。

「あうぅ……」

 ミイはエリンダに手を引かれて俺たちの前にやってくるなり、俺を見て不思議そうな顔をした。ひょっとして、見破られたのかも知れない。
 俺は、他人のふりをすることにしたのだが……。

「よし。ミイよ。これですっかり治ったと思うぞ」
「あ、あうぅっ……み、みぃ~?」
「お! わらわが誰か答えてみよ」

「ま、マナカ様……?」
「よし! ミイはこれより我に仕えるがよい」
「で、でも……ミイは奴隷なのです」

 ミイは消え入るような声で、俺たちに背を向けた。
 そして、震えながら上着を脱ぐと、背中をこちらに向けたのだった。

「よし。成功じゃ」
「え?」
「そなたの奴隷紋はきれいに消えておるわ」
「ひにゃっ?」
「安心せい。わらわに仕える以上、もう奴隷ではないぞ」
「ありがとうございます、精一杯頑張るのです‼」
「うわ~ん‼」

 ミイはひとしきり泣いた後、涙を拭きながら小さな猫耳をぴくつかせた。

「そ、それから……」

 ミイは俺をじーっと見つめてきた。やはり、気付かれたか。

「ミイも、お膝でなでなでポンポンして欲しいかの」
「はいなのです‼」

 マナは俺の膝から降りようとしたのだが……。

「ところで、なんでおぬしが並んでおる」
「え、あ、いや、その……」

 なぜかエリンダがしれっと病人の列に並んで、もじもじしていたのだった。

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