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[短編]アヤとトウコの恋愛小説

本編1600文字
「ねえ、アヤ。私、恋愛小説書こうと思うんだけど」

 放課後の教室。私とアヤだけが残っていた。
 高校二年生。アヤとは一年からの付き合いだ。

「恋愛小説? トウコが?」
「うん。ちょっとやってみたくなって、出来心なんだけど」
「ふーん。それでTL、BLそれともまさか百合?」
「えへへ、百合」

 ニヤリと笑ってみせる。
 TLは男女の恋愛。
 BLはボーイズラブ、男性同士。
 そして百合は女性同士の恋愛だ。

「トウコ、女の子好きだもんねぇ」
「んだんだ」
「例えば、こうよ。私とトウコが急接近、恋に落ちる」
「いいね、そんな感じ」
「禁断の恋。秘密の花園」
「もうっ、にしし。それで」
「校舎裏のニワトリ小屋が二人だけの秘密の場所で」
「ほーん?」
「あとは自分で考えて」
「ふむ。そうか」
「私、部活だから、ばいばい」
「あばよ、親友」

 アヤがいなくなる。
 彼女が紡ぎだした妄想の続きを私が受けて考える。

 そうだな……。
 もう使われていないニワトリ小屋。
 誰も来ないし、邪魔されない。

 二人は身を寄せ合って、雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も、そこで語らう。

 今日なんかは雨だ。

「アヤ、調理実習楽しみだね」
「うん。トウコの作った料理食べたい」
「二人で一緒に作るんだよ」
「そうだね。まるで愛の結晶。初めての共同作業」

 二人は楽しそうに肩を寄せ合い話をする。
 雨足は段々と強くなってくる。

「男子は役立たずだもんね、アヤ」
「いいのよ、皿でも洗わせておけば」
「まぁそうね」
「ふふふ」

 その時、ピカッと空が光り、次の瞬間、ドンバリバリバリと凄まじい音がする。

「キャッ」
「アヤ……」

 アヤが私に抱きついてくる。
 顔も近くなり、アヤのいい匂いがする。
 怖がっているアヤをそっと抱き寄せて、背中をさすってあげる。

「んっんん」

 しばらくしたら、雷もやみ、雨足も弱くなってきた。
 再びギュッとアヤを抱きしめていると、アヤも抱き返してくる。
 心臓と心臓が近い。
 お互いの激しく鼓動する胸のドキドキが聞こえそうだった。
 怖いからじゃない。
 こうして女の子同上で抱き合っているからだ。
 胸の高鳴りは意識しだしたら、止まらなくなり、恥ずかしくなる。
 急に顔まで赤くなってきて血が上り何も考えられなくなる。
 ただ、アヤの安心するいい匂いだけは感じられた。

「アヤ?」
「トウコ?」

 目線と目線がぶつかり合い、激しく交差する。
 顔が近い。

 いつしかその顔は真正面から見つめ合い、影を合わせるように近づく。
 そしてどちらかともなく首を斜めに傾けて、唇めがけて押し付けた。

 チュ……。

 唇同士の優しいキス。
 お互い生まれて初めてのキス。
 異性ではなく同性同士の恋心からのキス。

 いつしか空には晴れ間も見えている。

 小鳥のようにチュッチュッチュッと何回も貪るようについばむ。
 それに合わせるように、雀のチュンチュンという声が聞こえてくる。
 なんだか、協奏してるみたいで、ちょっとおかしい。

 わずかに甘い口の匂いがする。

 夢中でキスをしていたが、我に帰りそっと離れていく。

 安全距離までくると、お互い顔を赤くして、チラチラと顔を見る。
 私たちは今、どんな顔をしているのか。
 二人して恋に落ちて溶けたバターみたいな顔だ。

「キス、とうとうしちゃったね。トウコ」
「うん。でもいいの貴重なファーストキスだもん。男に無理やり奪われるくらいなら、これで」
「あはは、トウコらしい」

 アヤは優しく笑う。
 私もそれに応えて笑い返す。
 二人とも昔は優しい白馬に乗った王子様が来てくれると信じてファーストキスを取っておいたのに、ついに現れなかった。
 男に見る目がないのだ。
 こんなかわいい女の子たちを放っておく男子が。

「ちょっと甘かったね」
「うん、さっき、キャンディー舐めたもんね」
「だよね、あはは」

 初めてのキスはキャンディーの味。
 女の子の唇は甘口なのだと知った。

「帰ろっか、アヤ」
「うん」

 手をつないで立ち上がる。
 隅にあるバッグを回収してニワトリ小屋から出ていく。
 ちなみに鍵は前から壊れたままだ。

 女子高生が二人、手をつないで歩いていく。
 ミニスカートと美しい髪の毛をなびかせながら、どこか威厳でもあるみたいに。
 キスをしたのだ。二人はもう大人なのだ。
 余裕の表情で笑顔を浮かべて、仲睦まじく、下校していく。

 夕日は傾き、二人の繋がった影が長く伸びている。

 今日も日本は平和だ。

 □◇□◇□◇□◇□

 という、妄想をノートに綴る。
 さて、帰りますかね。
 教室で一人残っている私、トウコ。
 もう夕日が迫ってきている。
 鍵を掛け学校をあとにした。

(了)

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