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オオカミとメカ
新たな士官候補生、誕生
ベアトリクスが出ていき、二人きりになった。
二歳しか年の離れていない未成年同士、アネットは何を話すべきか迷った。
お互いに沈黙する中。ふとフィーアが口を開いた。
「……あなたも軍人?」
「……ええ」
その問いに対し、アネットが頷く。
「私はアイアンクロス大隊所属、アネット・ピッケンハーゲン少尉よ」
「……そう」
そしてまた、沈黙した。
話題が見当たらずにいたアネットだが、やがて口を開いた。
「……ねえ、フィーアちゃん?」
「……なに?」
「どうしてお母さまと喧嘩しているの?」
その問いに、彼女は再び沈黙する。その目は恐怖で怯えていた。
そんな彼女の様子を見たアネットは、こう続けた。
「言いたくないなら無理には聞かないわ。でも、これだけは言っておくけど、軍の備品を強奪して損壊させたとなると、おそらく軍法会議にかけられるわ」
その言葉にフィーアの表情がこわばる。
「それも、君だけじゃなくて、お母さまも監督不行き届きで処罰される」
「……別にいい。私はお母さんが嫌いだ」
「…………」
その言葉にアネットが黙り込む。
何を言おうか迷っているようだった。だが、意を決したようにフィーアの方を見る。
「――言いたくないなら無理して言わなくてもいいよ。でも、このままだとあなたのお母さんもあなた自身も不幸になるわ」
その声には優しい響きがあった。彼女の声がやわらいでいたのと合わせ、母親に対する憎悪に染まっていたフィーアの表情が和らぐ。
「私はともかく、少佐とシルヴィアはやさしくないから、なるべく早く、正直に教えてほしいな」
「…………」
「どうしたの?」
アネットのやさしさは、フィーアに伝わったらしい。しかし彼女は、再び無言になった。
「……そっか」
アネットには、フィーアの心情がわかったようだった。
「じゃあね」
それだけ言って部屋を立ち去る。それからしばらく経ち……。
やがてドアが開き、医務室にベアトリクスが入って来た。
「……そろそろ、話す気になったか? フィーア・ブリューゲル」
「…………」
フィーアが黙ったまま、下を向く。
「……わかった。話すからあの赤い髪のお姉ちゃんをつれてきて」
「…………」
遅れてきた返事は、アネットを連れてこいというものだった。
フィーアのいる医務室に、アネットが戻って来た。
そしてフィーアと対峙するように座った。
「……私はお母さんが嫌いだ。ずっとこの駐屯地の中に閉じ込めて、やりたくない魔法の修行ばかりさせられて、出来損ないとばかり罵られて」
「…………」
「……だから、逃げるためにあれを盗んだ」
フィーアは、やっと口を開きだした。
「でも、あれを操縦するのは初めてだったのね?」
フィーアが頷く。
「……そう」
アネットが黙る中、ベアトリクスが会話に加わる。
「言っておくけど、あなたのやったことは軍規違反よ。大人なら銃殺確定。君の年齢を考慮しても懲役刑で済めばいい方ね」
それを聞き、フィーアは黙り込む。
「……それでも、あいつから逃げるのには、こうするしかなかった」
「君の母親が、そんなに怖いか?」
ベアトリクスの問いにフィーアが顔を上げる。
「……これ以上お母さんの奴隷にされるなら死んだ方がましだ!!」
彼女は怒鳴った。その時の表情からは恐怖と憎悪をはらんでいた。
ベアトリクスが再び沈黙し……しばらく経った後。口を開いた。
「そうか、わかった」
そして、手に持っていた銃を再びつきつけた。
「少佐!?」
そんな様子にアネットは驚き、思わず叫んだ。
「今ここで選べ。ゼーレスヴォルフのパイロットとして軍に志願するか、私の手で銃殺されるか」
「!!」
「そんなに博士が――お母さまが嫌いならば、死ぬ気で努力して見返してみろ!!」
その言葉に、フィーアは沈黙する。
「少なくとも私は、あの女よりは君の価値を正当に評価している。だから、この引き金をここで撃たせるな!」
アネットの報告で聞いた範囲だけでも、フィーアの操縦は粗削りながらも光るところがあったことをベアトリクスは知っていた。
「さあ答えろ、フィーア・ブリューゲル! このまま出来損ないとして死ぬか、意地で這い上がるのか! 貴様の選択、どちらだ!!」
「わかった……志願する」
決意のこもった声でそう言った。
その答えに、ベアトリクスが微笑む。
「いいわね、気に入ったわ」
彼女は銃をしまうと立ち上がり、こう続けた。
「……訓練教官は、あなたに任せるわ。アネット」
「えっ」
「喜びなさい。あなたに初めて部下ができたのだから」
「……はい」
こうしてフィーアは、アイアンクロス大隊に訓練兵として入隊したのだった。
オオカミとメカ第4話 完
二歳しか年の離れていない未成年同士、アネットは何を話すべきか迷った。
お互いに沈黙する中。ふとフィーアが口を開いた。
「……あなたも軍人?」
「……ええ」
その問いに対し、アネットが頷く。
「私はアイアンクロス大隊所属、アネット・ピッケンハーゲン少尉よ」
「……そう」
そしてまた、沈黙した。
話題が見当たらずにいたアネットだが、やがて口を開いた。
「……ねえ、フィーアちゃん?」
「……なに?」
「どうしてお母さまと喧嘩しているの?」
その問いに、彼女は再び沈黙する。その目は恐怖で怯えていた。
そんな彼女の様子を見たアネットは、こう続けた。
「言いたくないなら無理には聞かないわ。でも、これだけは言っておくけど、軍の備品を強奪して損壊させたとなると、おそらく軍法会議にかけられるわ」
その言葉にフィーアの表情がこわばる。
「それも、君だけじゃなくて、お母さまも監督不行き届きで処罰される」
「……別にいい。私はお母さんが嫌いだ」
「…………」
その言葉にアネットが黙り込む。
何を言おうか迷っているようだった。だが、意を決したようにフィーアの方を見る。
「――言いたくないなら無理して言わなくてもいいよ。でも、このままだとあなたのお母さんもあなた自身も不幸になるわ」
その声には優しい響きがあった。彼女の声がやわらいでいたのと合わせ、母親に対する憎悪に染まっていたフィーアの表情が和らぐ。
「私はともかく、少佐とシルヴィアはやさしくないから、なるべく早く、正直に教えてほしいな」
「…………」
「どうしたの?」
アネットのやさしさは、フィーアに伝わったらしい。しかし彼女は、再び無言になった。
「……そっか」
アネットには、フィーアの心情がわかったようだった。
「じゃあね」
それだけ言って部屋を立ち去る。それからしばらく経ち……。
やがてドアが開き、医務室にベアトリクスが入って来た。
「……そろそろ、話す気になったか? フィーア・ブリューゲル」
「…………」
フィーアが黙ったまま、下を向く。
「……わかった。話すからあの赤い髪のお姉ちゃんをつれてきて」
「…………」
遅れてきた返事は、アネットを連れてこいというものだった。
フィーアのいる医務室に、アネットが戻って来た。
そしてフィーアと対峙するように座った。
「……私はお母さんが嫌いだ。ずっとこの駐屯地の中に閉じ込めて、やりたくない魔法の修行ばかりさせられて、出来損ないとばかり罵られて」
「…………」
「……だから、逃げるためにあれを盗んだ」
フィーアは、やっと口を開きだした。
「でも、あれを操縦するのは初めてだったのね?」
フィーアが頷く。
「……そう」
アネットが黙る中、ベアトリクスが会話に加わる。
「言っておくけど、あなたのやったことは軍規違反よ。大人なら銃殺確定。君の年齢を考慮しても懲役刑で済めばいい方ね」
それを聞き、フィーアは黙り込む。
「……それでも、あいつから逃げるのには、こうするしかなかった」
「君の母親が、そんなに怖いか?」
ベアトリクスの問いにフィーアが顔を上げる。
「……これ以上お母さんの奴隷にされるなら死んだ方がましだ!!」
彼女は怒鳴った。その時の表情からは恐怖と憎悪をはらんでいた。
ベアトリクスが再び沈黙し……しばらく経った後。口を開いた。
「そうか、わかった」
そして、手に持っていた銃を再びつきつけた。
「少佐!?」
そんな様子にアネットは驚き、思わず叫んだ。
「今ここで選べ。ゼーレスヴォルフのパイロットとして軍に志願するか、私の手で銃殺されるか」
「!!」
「そんなに博士が――お母さまが嫌いならば、死ぬ気で努力して見返してみろ!!」
その言葉に、フィーアは沈黙する。
「少なくとも私は、あの女よりは君の価値を正当に評価している。だから、この引き金をここで撃たせるな!」
アネットの報告で聞いた範囲だけでも、フィーアの操縦は粗削りながらも光るところがあったことをベアトリクスは知っていた。
「さあ答えろ、フィーア・ブリューゲル! このまま出来損ないとして死ぬか、意地で這い上がるのか! 貴様の選択、どちらだ!!」
「わかった……志願する」
決意のこもった声でそう言った。
その答えに、ベアトリクスが微笑む。
「いいわね、気に入ったわ」
彼女は銃をしまうと立ち上がり、こう続けた。
「……訓練教官は、あなたに任せるわ。アネット」
「えっ」
「喜びなさい。あなたに初めて部下ができたのだから」
「……はい」
こうしてフィーアは、アイアンクロス大隊に訓練兵として入隊したのだった。
オオカミとメカ第4話 完
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