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オオカミとメカ

激戦! ゼーレスヴォルフVSゼーレスヴォルフ
「シルヴィア少尉のゼーレスヴォルフが、強奪された! オシリスフォレストに向かっているそうだから、先回りするわよ!!」
「……は、はい!!」


――アネットは、博士をコックピットに乗せてオシリスフォレスト方面へと向かっていた。

「……フィーアが奪ったのが本当にシルヴィア少尉のゼーレスヴォルフなら、もうすぐデルタネビュラ大隊の駐屯地を通過する時間だわ」

 オシリスフォレスト近辺にたどり着いたところで、博士がメモを握りしめながら話した。
 シルヴィア少尉のカスタマイズ機は、アネットのものよりも軽量化している白兵戦型仕様。
 アネットのものよりも装甲は薄いが、当然その分足は速い。
 今の発言はあくまで博士が、強奪された時刻から割り出した概算にすぎないが、おおむね正確な計算であった。

「……もし、見つけたら、どうします?」
「……可能なら、生きたまま捕縛してほしいわ。足回りを破壊して、動きを止めるとか。できそう?」
「…………」

 もしシルヴィアと同等の操縦ができるなら、アネットに手加減をする余裕はない。相手に重傷を負わせてしまうか、自分が撃墜されるか。

「――!!」

 そんな話をしている時だった。

「あれって!?」

 アネットが、強奪されたゼーレスヴォルフを視認した。

「博士、目標が接近しています!!」
「――なんですって!!」

 目標の方も、こちらを視認するなり警戒しだしたのか、動きを止め着地した。
 目標は巨大なコンテナを両手で抱えていた。それを地面に置いて、アネットの動きを伺っている。

「――うそ、想定よりたどり着くのが、早すぎる!!」

 いくらゼーレスヴォルフで一番最高速度を出せるシルヴィア機でも、この短時間でデルタネビュラ大隊の駐屯地を通り過ぎてここまで来るのはさすがに不可能に等しい。

「――博士、ボイスチャネルを開きますか!?」

――だがアネットは、これを見てもなお冷静だった。

「!?」
「今なら、説得できるかもしれません!!」

 戦わずに済むなら、それが一番だ。アネットの判断は、正しい。

「……そうね、ボイスチャネルを開いて。降伏を呼びかけなさい」

 冷静さを失いかけた博士だったが、進言を聞きそれを受け入れることにした。

「はい!!」

 即座にチャネルのレバーを入力し、アネットは叫んだ。

『こちらは、アイアンクロス大隊所属アネット・ピッケンハーゲン少尉! 速やかに武器を捨てて降伏しろ!!』

 強奪されたシルヴィア機が装備しているのは、剣だけ。シルヴィアのカスタマイズそのままであったから、銃器などは装備していないようだ。

『拒むなら、攻撃を開始する!!』

 装備の大剣を構え、少しずつ距離を詰めていく――その時だった。

「!?」

 目標が、早くも動きを見せた。剣を捨てたかと思いきや、スラスターを再び起動しこちらへ全速力で向かってきたのだ。

『なにをするつもり!? バカな真似はやめなさい、フィーア!!』

 博士が呼びかけた、その時だった。

『――お母さん!?』

 向こうもボイスチャネルを開いたのか、博士の娘フィーアの声が聞こえてきた。

『……この声、どう考えても私より小さい子じゃないですか!!』

 聞こえてきた声に戸惑うアネット。彼女は今日まで博士に娘がいるということしか知らなかった。名前はおろか、年齢すら知らなかった相手。それは確かに、アネットより二歳も年下の子供であった。

『今ならまだ間に合うから、大人しくアイアンクロスの駐屯地に帰りなさい!』
『――いやだ! わたしは、自由になるんだ! 邪魔をするなあ!!』

 激高した突進の先端には、ゼーレスヴォルフの標準装備であるレーザーブレードがあった。

「――!!」

 目標は、説得に応じなかった。突進は運良くかわすことができたが、攻撃の意志を感じ取ったアネットは反撃に移りざるを得なかった。

「博士、こうなったらやむを得ません! 目標を撃墜します!!」

 強奪されたゼーレスヴォルフの動きは、あまりにも速かった。あの速度は、シルヴィア機のカタログスペック上の最高速度を明らかに倍以上超えている。

「…………!!」
「博士、衝撃に備えてください! 再び来ます!!」

 ユーターンして再び攻撃する、フィーアのゼーレスヴォルフ。アネットは振り切ろうとするが、増設装甲の分重量がある自機の特製上、かわすことはできても反撃ができない。

「――は、速すぎる!!」

 これまでのシルヴィアとの模擬戦での戦績は、アネットがわずかながら勝ち越しているが、ほぼ五分五分に近い戦績であった。
 だが今アネットの目の前にいるのは、機体は同じでもシルヴィアとは全く違う操縦をしている。

「……あの子は魔力量だけ優秀だった」

 戦闘中、博士がそう言った。

「わがままで、勉強が嫌いで、物覚えも悪い子だけど、魔力量だけはあなたやシルヴィア少尉はおろか、少佐すら超えるポテンシャルがあるわ」
「!?」
「本来ならありえない時間でここまでたどり着いたのも、シルヴィア少尉ですら出せない速度で機体を動かせるのも、あの子が機体の負荷を考えずに魔力を注入しているからよ!!」

 博士が一方的に話している間に、三度目の突進が来た。

『邪魔を、するなああああ!!』

 目標が再びボイスチャネルを開き、絶叫した。その声は、明らかに泣きながら怒り、叫んでいる声だった。

「――博士! 娘さんの操縦の弱点が、今やっとわかりました!!」
「なんですって!?」

 アネットは逃げながら、周囲に利用できるものを探していた。

「――これだ!!」

 樫の巨木――それも幹が一際太いものを見つけたアネットは、自機をこれを背にはりつけるようにして動きを止めた。

「少尉、何をする気!?」

――言い合う暇もないまま、泣き叫ぶ娘の声が博士とアネットを乗せた機体に迫りつつあった。

『アアアアァァァァーッ!!』

 三度目の突撃が、みるみる迫る。

「博士、衝撃に備えてください! チャンスは一度だけです! 娘さんを捕縛するにはこの作戦しかありません!!」
「!?」

 娘よりは年上ながらも、たった二歳しか離れていない少女がそう言うのであった。何をするつもりなのかは全くわからないが、信じるしかなかった。

「……わかったわ。少尉、あなたを信じる」

――とうとう、その時がやってきた。

「――えい」
『――!?』

 アネットの見せた突飛な動きに、目標が開きっぱなしにしたボイスチャネルから困惑の声が響き渡った。
――アネットは、最小限の動作だけでその突進をかわした。アネットを捉えそこなった目標の視界に映ったのは、野太い樫の幹。次の瞬間、それが轟音を立てて激突した。

『ウグアアッ!!』

 目標が、とうとう動きを止める。

「……上手くいったみたいですね」

 アネットが利用したのは、目標自身の速度。目標を樹の幹に激突させることで、それを相手に跳ね返したのだ。
――パイロット自身が衝撃で意識を失ったからか、目標の動力がとうとう停止したのだ。

「…………」

 あまりの景色に、驚愕する博士。自分自身が作り上げたゴーレム同士の本気の戦闘、それを初めて目の当たりにした事実よりも、今は娘の安否を心配していた。


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