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オオカミとメカ

その名はアイアンクロス
「……ブリューゲル博士、これでいいのかしら?」

 くり抜いた樹木の中のような空間、これが新型兵器の操縦室だった。両手は操縦用のグリップを握らされ、脚は肉でできたような質感の衝撃緩和装置に固定されている。

『ええ。共和国軍最強の魔女のあなたならできるわ』

――見苦しいくらいに、謙遜する博士。戦闘型としての能力はともかく、こんな得体のしれない魔道兵器を開発するスキルを持っているだけで、軍は私なんかよりあんたを大事にしているに決まっている。

 戦場の空気は好きだ。血を見るのも好きだ。それを味わって死ねるなら、上層部に特攻兵器みたいな扱いをされても全く構わない。現に私は強いから、ここまで生き残りついに佐官にまで上り詰めたのだ。

――だけどここは、それを生身で浴びられる環境ではない。新型兵器という身軽さを殺す鎧に閉じ込められ、実地試験の命令を受けたのは大いに不満が残るが、ブリューゲル博士は今まで我が大隊を支えてきた重大な人材だ。その博士の新兵器を真っ先に試すべき人間は、当然私。上層部の評価は妥当だろう。

『マリョクジュウテン・カンリョウ』

 兵器に搭載された音声システムは、ブリューゲル博士の声を模したものだった。脚から私の魔力を吸い上げてこいつは起動する。故に魔法使い以外には扱うことはできない兵器だ。

『システム・セントウもーど・キドウ』

 ついに見えた光。そこには開いたゲートが映し出されていた。ゲートの先に直進すればそこには魔物達の群れがある。

『これより、新型ゴーレムアーティフィシャルメイジの実地テストを開始するわ』

――何が造られし魔法使いよ、馬鹿馬鹿しい。魔法使いにしか使えない兵器の時点で何一つ名前の意味にそぐわないじゃない。
 だけど、戦場に立つなら武器を選ばないのっが、私の信条だ。何があっても敵は一人残さず殺す……それが私の掲げたアイアンクロスの不動の軍規!

「ベアトリクス・イーダ・シェーンハイト、『ゼーレスヴォルフ』発進する!!」

 こんな何一つ信頼できない新兵器だとしても、それは変わらない。隊の規範を示すのは、大隊長たる私自身だ!!
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