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穴場に隠れた哀しみの過去

穴場に隠れた哀しみの過去
 ある陸軍の駐屯地の裏。ここは知る人ぞ知る覗きの穴場である。
 今日もやましく覗きに勤しむ男の目線の先に、とうとう望みのものがやってくる。

「おおっ」

 建物から外へ出てきたのは、とても軍の関係者とは思えないビキニ姿の美少女。だがそれは、ただのビキニではない。金属でできた、専用のトレーニングウェアである。
 痩せた胴体は目視で見える範囲のほぼ全ての部位が筋肉で形成されており標準的な色気とは呼び難いものの確かに男達を釘付けにする女体であった。
 覗いている男がいることに気づかず少女は一心不乱に過酷なトレーニングの数々を己に課す。皮肉にも、覗いている男も彼女の肉体美に釘付けであった。

「……おい、お前何をしている」

――が、楽しみの時間は想像より早く終わる。

「えっ」

 男が振り向いた先にいたのは、軍服を着た女性。彼女は一転して、年相応のふくよかな体格をしていた――



「…………」

 軍の権限で同僚のトレーニングを覗き見していた男を逮捕した彼女、シルヴィア少尉。このことを彼女は同僚のアネット少尉に黙っていた。
 二人はこのアイアンクロス大隊の最強戦力である大隊長直属配下。そして二人共戦災孤児出身という異例の経歴を持つ。
 かつての戦争で数多の学友を失ったアネットは、自分と同じ戦災孤児を出さないために、魔物を殺すため過酷なトレーニングを常に貸していた。その過程で形成されたのが、美しさを両立しながらも年不相応に発達した剛体である。

 シルヴィアはそれを子供の理想と思う。なぜなら彼女にとって魔物は殺したい以外の理屈をつける必要がない存在。故に国家の忠義よりも殺すために志願した。
――だが彼女は、戦場においては一人の努力で叶わない願いを持っている同僚に惜しむことなく力を貸す。なぜなら彼女の目的が、アネットの望みを叶える手段であるのだから。これが普段喧嘩ばかりしている二人の確かな絆である。

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