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黒い鎧

黒い鎧
「君のことが、好きだ」

 男から差し出された花束、それを女は跳ねのけた。
 野次馬達がみっともなく騒ぎ立てる中、男女は別れた。






「君のことが、好きだ」

 男から差し出された花束、それを女は受け入れた。
 その瞬間野次馬のみっともない叫びが、祝福へと変わった。


――これは、同じ日に別々の場所で起きた、恋の物語であった。




「私には、君が必要だ」

――これも、同じ日に別々の場所で発せられた、全く同じ言葉。

「さあ、行こう」

――これも、また同じ。

「幸せを作ろう」

――これは、森で発せられた言葉。

「地獄を作ろう」

――そしてこれは、街で発せられた言葉。







 森で結ばれた恋――それはすぐに終わってしまった
 響き渡る、軍靴の足音と燃え盛る業火の音。
 彼らは一人残らず戦争で死んでしまった。

『お願いだあ、オラのことはどうしてくれても構わないから、オラの赤ちゃんだけは助けてあげてぇ!』

 一人の母は、侵略者に対してこのように懇願した。
 それに対しての、残虐な返事は――













『ゴブリンの捕虜なんかいるかよお!!』



 失恋の後の街では――軍隊のパレードが行われていた。
 彼らはこれより、駐屯地の外へ進軍を開始するところだった。
 そこに、花束を拒んだ女は確かにいた。

ごめんね、オスカー君。私は行かないといけないんだ」

 彼女は望んで花束を拒んだわけではなかった。
 黒い鎧を着た彼女は、これまでに多くの返り血を浴び、手と鎧を紅く染めた。

 彼女はかつて、異国の戦災孤児だった。外人兵の彼女は、戦争を知らない国の男の子から花束を貰う資格が自分にないと、思っていたからだ。

――だがそれは、心を覆い隠す言い訳という鎧。真の理由は、戦争でまた大切な人を失うのが怖かったから。

――そんな彼女は、今日も戦場で剣を振るう。

『ゴブリンの捕虜なんかいるかよお!!』

 彼女とは対極の白い剣の異名で呼ばれる、相棒の女兵士シルヴィアの怒号が響き渡る中。

『いやだあ! 死にたくない、死にたくないよお!!』

 泣き叫び逃げる少女の後ろを追う、黒い鎧。

『なんで、なんでこんなことするの!』

 目の前にいるのは、自分と同じ戦災孤児だった。

『――お前達が、人殺しの子供に生まれたからだ!!』

――だが彼女は、それをためらうことなく巨剣で叩き殺した。






 失うことを恐れた、一人の戦災孤児アネット。
 彼女は、自分と同じ戦災孤児を作らないために戦っていた。

 その純粋な願いの下に振るう剣は、彼女の意識しない内に無数の戦災孤児を生み出す。
 彼女は同じ日の内に、二つの恋を壊したのであった

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