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黄金の魔女フィーア (旧版)
その男、実は……
「では、どんな話がいいかな……?」
そこは私にリクエストさせてくれるのね。ムラクモ族の文化、どのようなことを聞こうかしら。
――そういえばムラクモ族は独特な魔術を使うと聞くわね。その話を聞こう。
「あなたはムラクモ族の人なのでしょう? ミレーヌから聞いたわ」
「ああ、そうだ。私の故郷はこのきらびやかなアルミュールの帝都と比べれば場末の田舎だ」
「ムラクモ族は独特な魔術を持つらしいわね。その話を聞かせてほしいの」
「ほう、なるほど。いいだろう」
そう答えた彼の眼は、さっきにはない活力があった。
「ムラクモ族の魔術は妖精の力を使う」
「妖精魔法……魔術としての根底はミレーヌの魔法と同じなのね」
「まあそうだな。だが、彼女の使う妖精魔法とは規模が違う。私の村の魔術は集団で儀式を行いより強力な妖精の加護を得るんだ」
なるほど、ムラクモ族の魔術は儀式が主な形式なのね。儀式魔術は長時間に渡って呪文を唱え続けるもの。事前準備の手間も多いから戦場で使われることはほぼない。
私のゴーレムを生成する魔術も簡易的な儀式魔術。これは個人でもできるけど、彼らは集団で行う大規模な魔術に精通しているのね。
「あなたはその魔術を使えないの?」
「ああ、それなんだが、私達ムラクモ族は魔法の才能を持つ者が少なくてね。私も才能はどちらかというとない方の人間だ」
「そうなのね」
「簡易な魔術はある程度はできるのだが、儀式に参加できるようなものではない。できるとしたら戦闘に多少応用できる程度だろう」
なるほど、簡単な魔法も使えるのか。
「ちなみに魔法を使う才能を持つのは女性であることが多い。だからムラクモ族の社会では女性、特に巫女と呼ばれる身分の人は大事にされる」
「へえ」
「ちなみに私の母さんも巫女だ。しかも母さんは族長も務めている」
母親が族長、つまり身分の高い家計に生まれた子供なのか。
「特に母さんの魔術はすごい! 通常五人以上で行う儀式を、一人で成功させたこともある!」
……あれ、この人、なんか話し方に熱を持ってきてない?
「さらに母さんは戦士としても優れた才能を持っていた! 先代族長である私の父は私が生まれて間もなく戦いで亡くなってしまったのだが、母さんは後任の族長として勇ましく戦った! その様は今でも一族で最も美しく強い母と形容され、民から尊敬されている! 今こうして私が握っているマサムネも母さんから継承されたものだが――」
それは気が付いた頃には自慢話となっていた。
彼はそれから何度も母さん母さんと連呼し、その武勇伝を饒舌に語った。
ああ、やっとわかったわ。この人、重度のマザコンなんだ。
多分ミレーヌは見かけがカッコイイからこの人に声をかけたんだろうけど、話を聞くにつれて現れていく本性に不満を感じたのね。あの子は自分のことを見てくれない男にはすごくそっけないから。
ただフラれるだけよりよっぽどショックでしょう。裏切られたという気持ちを抱いたのよ、きっと。だから難あり認定したのか。それでも逆恨みと思うけど。
「……以上のことから! 私は母さんを愛している!! 母さんは私が心から愛する唯一の女性だ!!!!」
演説のシメも、強烈なマザコン宣言。そのころには完全に店中が凍り付いていた。
公の場でここまで母さんへの愛を語れるなんて、一周回って勇者だわ。この人。
「……ティファレトさん。もう少し静かにしてくれないかい? 普通に迷惑だよ」
「あ、す、すみません……」
そんな空気の中、たった一人店主がすごく冷静に怒っていた。というか、それもっと早く言ってよ……
そこは私にリクエストさせてくれるのね。ムラクモ族の文化、どのようなことを聞こうかしら。
――そういえばムラクモ族は独特な魔術を使うと聞くわね。その話を聞こう。
「あなたはムラクモ族の人なのでしょう? ミレーヌから聞いたわ」
「ああ、そうだ。私の故郷はこのきらびやかなアルミュールの帝都と比べれば場末の田舎だ」
「ムラクモ族は独特な魔術を持つらしいわね。その話を聞かせてほしいの」
「ほう、なるほど。いいだろう」
そう答えた彼の眼は、さっきにはない活力があった。
「ムラクモ族の魔術は妖精の力を使う」
「妖精魔法……魔術としての根底はミレーヌの魔法と同じなのね」
「まあそうだな。だが、彼女の使う妖精魔法とは規模が違う。私の村の魔術は集団で儀式を行いより強力な妖精の加護を得るんだ」
なるほど、ムラクモ族の魔術は儀式が主な形式なのね。儀式魔術は長時間に渡って呪文を唱え続けるもの。事前準備の手間も多いから戦場で使われることはほぼない。
私のゴーレムを生成する魔術も簡易的な儀式魔術。これは個人でもできるけど、彼らは集団で行う大規模な魔術に精通しているのね。
「あなたはその魔術を使えないの?」
「ああ、それなんだが、私達ムラクモ族は魔法の才能を持つ者が少なくてね。私も才能はどちらかというとない方の人間だ」
「そうなのね」
「簡易な魔術はある程度はできるのだが、儀式に参加できるようなものではない。できるとしたら戦闘に多少応用できる程度だろう」
なるほど、簡単な魔法も使えるのか。
「ちなみに魔法を使う才能を持つのは女性であることが多い。だからムラクモ族の社会では女性、特に巫女と呼ばれる身分の人は大事にされる」
「へえ」
「ちなみに私の母さんも巫女だ。しかも母さんは族長も務めている」
母親が族長、つまり身分の高い家計に生まれた子供なのか。
「特に母さんの魔術はすごい! 通常五人以上で行う儀式を、一人で成功させたこともある!」
……あれ、この人、なんか話し方に熱を持ってきてない?
「さらに母さんは戦士としても優れた才能を持っていた! 先代族長である私の父は私が生まれて間もなく戦いで亡くなってしまったのだが、母さんは後任の族長として勇ましく戦った! その様は今でも一族で最も美しく強い母と形容され、民から尊敬されている! 今こうして私が握っているマサムネも母さんから継承されたものだが――」
それは気が付いた頃には自慢話となっていた。
彼はそれから何度も母さん母さんと連呼し、その武勇伝を饒舌に語った。
ああ、やっとわかったわ。この人、重度のマザコンなんだ。
多分ミレーヌは見かけがカッコイイからこの人に声をかけたんだろうけど、話を聞くにつれて現れていく本性に不満を感じたのね。あの子は自分のことを見てくれない男にはすごくそっけないから。
ただフラれるだけよりよっぽどショックでしょう。裏切られたという気持ちを抱いたのよ、きっと。だから難あり認定したのか。それでも逆恨みと思うけど。
「……以上のことから! 私は母さんを愛している!! 母さんは私が心から愛する唯一の女性だ!!!!」
演説のシメも、強烈なマザコン宣言。そのころには完全に店中が凍り付いていた。
公の場でここまで母さんへの愛を語れるなんて、一周回って勇者だわ。この人。
「……ティファレトさん。もう少し静かにしてくれないかい? 普通に迷惑だよ」
「あ、す、すみません……」
そんな空気の中、たった一人店主がすごく冷静に怒っていた。というか、それもっと早く言ってよ……
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