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黄金の魔女フィーア (旧版)

男手を確保
 カウンター席を立ち、テーブルまで歩く。男性はすぐに私たちに気が付いた。

「おや君か。何だい?」

 ミレーヌの方を向いて話す男。声もキレイだ。

「昨日言っていた友達をつれてきたのよ」

 ミレーヌは一歩前に出て、私を前に出すように促す。
 仕方ないので言われた通りに前に出れば、彼はこちらを見てきた。

「……ほうそうか。座ってくれ」

 一瞬だけ真剣なような表情を見せた後、すぐに顔色を戻し着席を促してきた。それに従い着席すると、隣の椅子には彼の荷物が置かれていることに気が付く。武器か何かだろうか? あまりジロジロ見るわけにもいかないので視線を逸らすと、今度は目の前に紅茶が置かれる。いつの間にか店主が準備していたようだ。

「この人が友達か?」
「ええそうよ。フィーアっていうの」

 ふと、彼に目を向けると、二人の話が始まった。今のところは普通の話。致命的に仲が悪いわけではなさそうだ。
 もっともこの子が本気で嫌っている相手と組むとは思わないが。許せないことはためらわずに指摘する子だし。

「おっと、二人で盛り上がってすまないな。私はティファレト・パヴェロパーという。よろしく頼む」
「フィーアです……」
「君は高名な魔法使いだと聞く。彼女がまるで我が事のように自慢していたよ」

 もう、おしゃべりな子ね。知らない人にベラベラしゃべってほしくないんだけど。

「で、君はどのような研究をしているのかな?」

 しかもそういうことは教えていないんだ。使える魔法のことは仲間同士で共有できた方が有利なのに。

「人造生命の研究をしているわ」
「ほう? 人造生命の研究? それは珍しいな。私の村にはそんな研究をしている魔法使いはいなかったからな。これは興味深い」

 かなり踏み込んで来るわね。確かに私と同系統の魔法使いは珍しいから、気になるのは自然なことだわ。

「そうね。戦闘用のゴーレムも多く開発しているから、貢献できる自信はあるわ」

 仕事の話もしないとね。どんな風に役立てるかをアピールするのは重大だわ。さて、どんな反応をするのかしら。
 私の話を聞いたティファレトさんは、興味深そうな顔をした。
 だが、それもつかの間、すぐに笑顔に戻った。

「ふむ、そうかそうか」

 相手は自然に笑っている。どうやら私のことを戦力として信頼してくれるそうね。

「あなたはどんなことができるの?」
「私は主に剣術だな。ここにいるのもその修行のためだ」

 話ながら剣を掲げるティファレトさん。さやにしまったままとはいえ、迫力がある。
 さやの形は細長く緩やかだけどカーブを描いている。これはこの辺りで製造されている剣にはない特徴だ。普通なら太くて真っ直ぐな形をしている。

「その剣は?」
「ああ、これは我が家に伝わる宝刀マサムネだ。細い刃だが切れ味はこの国にあるどんな剣よりも鋭いと自負している」

 刀か。噂は聞いたことがあるけど、現物は初めて見るわ。古代に存在した島国ヤーポンの戦士が好んで使ったと言われている。
 その話が真実か作り話かは知らないけど、珍しい武器なのは間違いない。
 使い勝手も一般的な剣とは全く異なるそうだ。簡単に使えるものではないはず。
 それでも彼が自信を持って言うということは、それだけの実力を持っているのだろう。
 試しに使っているところを観てみたいけど、無理よね。さすがに帝都の中で振り回すわけにはいかないし……
 でも、ギルドが運営している訓練所があるらしいし、そこでなら見せてもらえるかも。

「なるほど、確かに頼りになる男手ね」
「はっはっは、それはどうも」

 人柄も静かながらもほどほどに陽気で、ミレーヌほど元気すぎないからとても話しやすい。
――それにしてもミレーヌはなんで性格に難があるとか言ったんだろう。話を聞いている限りはとてもいい人そうだけど。

「ミレーヌ、どういうこと? 普通にいい人じゃない」

 ティファレトさんに聞こえないよう話す。私には本当に難があるようなところは見つからなかった。
 だからと言って、この子の態度も嘘を言っているように見えない。

「それはこのまま話を聞いていたらわかるわよ」
「そう?」
「……どうかしたかな、二人共?」
「あ、何でもないわ」

 気づかれたから慌てて視線を戻す。初対面の人の前で内緒話はあまり良くないわね。

「まあいいや。あなたとは良いパートナーになれそうだな。風変わりな戦技を持つ者同士、仲良くしよう」

 風変わりな戦技ね……まあ、否定はできないわ。私の場合は珍しい魔法系統、彼の場合は帝都では見られない異邦の武器。普通の人から見ればどちらも異質に感じるかもしれない。
 しかし、初対面の人にこんなに褒められると照れるわね。ちょっと嬉しいかも。

「そうだ。フィーアさんも私の故郷の話を聞かないか?」

 ティファレトさんがそう言った途端、ミレーヌの顔色が変わった。

「あ、私ちょっと大事な用事思い出したから、二人で話しておいて」

 逃げるようにカウンターの方へ行くミレーヌ。止める暇すらなかった。

「ライト、これ飲み物代ね」

 硬貨を置く音が聞こえると、あっという間に彼女はいなくなっていた。
 ……どうしたのかしら。ティファレトさんは故郷の話をしたいと言っただけなのに。

「ああ、それは多分嘘だよ。なぜか彼女は故郷の話をするとものすごく嫌がるんだ」

 一体どうしてかしら。興味がないとしても逃げる必要はないと思うけど。

「まあいいや。聞きたくないと言うのなら、彼女抜きで盛り上がろう」

 ……これは、ただごとではなさそうね。もしかしてこの先に、難あり認定の理由があるのかしら?
 でもここで拒否するのもよくないし、一人で聞くしかないか。

「では、どんな話がいいかな……?」

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