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黄金の魔女フィーア

肉欲の結末
 再び洞窟へ入る。チャンスは一度、失敗すれば指一本触れられずに槍に貫かれるだろう。

「グハハハ、また来たか!!」

 俺に気づくなり、また盾を構えるオーガ。

「どうした? 来るがいい。それともこの娘がそんなに大事なのか?」
大事じゃない、なんて答えると思うか?」
「そうか。ならば俺から行くぞ!!」

 重たい突進。だが巨体と重装のせいで足が遅い。今こそ最大のチャンス。

「くらえ、フラッシュ!!」

 手をかざし、詠唱。白い光が放たれた。

「グオッ眼が!!」

 共に、物が落ちる音。狙い通り。帝都でやたら高い講習代を払って学んだ魔法が役に立ったぞ。
――光が止まった頃には立ちくらみ、悶える姿が見える。もらったな。奴が立ち直るまでにトドメを。

「食らえぇー!!」

 胴めがけて剣を突く。一気に体重を込めろ!!

「ぐぬわあ!?」

 反撃してこない。それどころか槍すら手放した。

「トドメだ!!」

 剣を刺したまま手放し、追撃。予備も全部使いさらに攻める。
 ハチェットで垂直に頭蓋骨を叩く。聞こえるぞ、骨の砕ける音が。これだけでも充分すぎるくらい致命傷だが、奴らにはこれでもまだ悪あがきするパワーがある。そこを確実に死ぬように、ナイフで喉を刺すッ!!
――死んだか。奴はもう物言わぬ噴水だ。やった、これで助けられたぞ。
 だがまだ終わりじゃない。むしろここからが正念場だ。少女を連れて守りながら、村へ戻る。ここまでやり遂げた上で初めて、任務は完了するのだ。
 戦えない少女を守るためには、戦闘を避けねばならない。想定できる範囲内で全ての帰路の安全性を吟味し、最も危険の少ないものを選ぶ。それが次の仕事だ。
 だが、それを考えるよりも先に、彼女を鎖から解放しよう。考えるのは後からいくらでもできる。

「大丈夫か?」

 盾を裏返し、仰向けにしてあげる。落下の衝撃で少し体を切っているみたいだが、それ以外の外傷は見当たらない。



 無言で俺を見つめる少女。これまでよほど辛い目にあったのか、口も利けないみたいだ。

「今から外してやるからな。そしたら村に帰ろう」


 これは気の抜けない帰路になりそうだ。

よし、もう大丈夫だ」

 鎖を外すのには時間がかからなかった。思ったより簡素に固定していたみたいだ。

「立てるか?」

――返事なし。これは助かったとしても、後が大変そうだ。
 しかし気になる。この少女にはさっきの落下でついた切り傷以外、外傷が見当たらない。それでいて、特段衰弱しているようにも見えない。
 奴らが思っている程、乱暴に扱わなかったのか?

フフフ」

――その時、彼女が微かに笑う。そして寝ころんだまま、両手をハの字に挙げてきた。
 え、これってもしかしていやいや、ダメだダメだ。流されるな。
 よくある騎士物語で救出されたお姫様がお礼のキスをする、というのは鉄板の演出。だが、お礼に抱かせてくれるという話はさすがに聞いたことがない。
 しかも魔物にさらわれて、裸で盾にされた後でだぞ。恩人相手でも進んで自らのトラウマを刺激するようなことはできないはず。そうだと言うのに、俺に抱いてくれと
 奥にはまだ他の魔物がいるかもしれない。仮に望みを叶えてあげるとしても、その最中に襲われたら元も子もない。
 まあ、彼女が喜ぶなら、キスまでならしてあげてもいいか。よく見たらこの子、結構かわいいし肉付きも中肉中背でアンバランスなところはない。
 正直、これなら男衆がメロメロになるのも納得だ。多少態度が悪いとしてもいや、むしろそこがかえって彼女の魅力を掻き出したところなのかもしれない。
 村に帰ってからならいくらでも受け取ってあげる、とか理由付けして今は脱出しよう。

わかった。けど他の魔物がいるかもしれない。今はキスだけにして逃げよう」

――事情を理解してくれたのか、立ち上がる彼女。そのまま俺の方に来て向かい合う。どうやら、本当にさせてくれるみたいだ。

ゴクリッ」

 優しく組み付かれる。ありきたりな勇者への祝福を、俺が受けれる立場になるとはな。
 少女の口が俺に触れる。その味わいは――金属のように不味く、共に激痛が走った。

「グェッ!?」

 少女の口が触れたのは、唇ではなく首。人間の歯では出せないような、あまりにも鋭い痛み。

「うわああァッ!?」

 思わず膝蹴りが出る。何とか引きはがせたが、首から血が滴っている。襟元を汚すくらいに。そして少女の口元は、俺のそれで紅く染まっていた。

「ウフフフ」

 手を使ってこぼした血を舐めとる少女。まるで猫が顔を洗うかのように、平然としている。まさか、彼女も魔物だったとは。
 考えてみれば不自然なことが多くあった。出稼ぎに来るならこんな田舎より稼げるところはいくらでもある。俺がどこから来たのかオーガが知っていたのも変だ。そして何より彼女は助けを求める声をあげなかった。衰弱している訳でもないのに

「いただきまーす」

 少女がゆっくり迫る。さっきのしぐさは逃げれないように手足で拘束し、確実に捕食を行うためのものか。
――だけど、これならまだ詰んでいない。彼女を倒して止血すれば、まだ助かる。

「来るな!!」

 手を出してきたところにナナメに斬る。軽く当たっただけなのに、信じられないほど右腕が滑らかに斬れた。



 切断面からも血が出ない。幼い笑顔のまま、全く痛がらない。

「お兄さん、強いねぇ。私、あなたみたいな人好き。だって鍛えている人ほどお肉が美味しいんだもん」

 不気味な言葉を吐いている間に、彼女の右腕が再生した。
 面倒な能力だな。これは逃げた方がいいのか。

えっ?」

 気が付いた時には、彼女と全く同じ姿の少女がゆっくりと立ち上がった。
 足元に落ちていた右腕は無くなっていて、血痕だけがわずかに残っている。まさか分裂したのか!?

『さあ、一つになろぉ?』

 それと共に、奥から同じ顔をした少女達が現れる。口を軽く開き笑うその様は、俺を食い物としか見ていない証拠であった。
 お、恐ろしいさっきまで命に代えてでも守ると誓っていたのに。愛おしい囚われの姫はもう既に恐怖の存在と化していた。

「ひ、ひえぇぇっ!!」

 俺はドラゴンもデーモンもヴァンパイアも、伝承上の資料でしかみたことがない。だけど、そいつらが彼女を超える恐怖を生み出せるとは、到底思えない。

「逃がさないよ」

 その一言と共に、背中に激痛が走る。

「いてぇ!!」

 倒れ込んでしまった。背中に手を回したら、ナイフが刺さっている。

「ハッ!?」

 顔を上げた頃には囲まれていた。十人近くの人数で協力して手足を押さえつけ、確実に仕留めようとしてくる。

「お、お願いだやめてくれ

 聞き入れられるはずもなく、一斉に無数の牙が俺を襲った
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