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黄金の魔女フィーア (旧版)

冒険者ギルド
 受付に向かうとカウンターの中に店主と思わしき一人の男性がいた。

「やあいらっしゃい。おや、ミレーヌじゃないか」

 彼は私たちを見つけると、すぐにミレーヌに声をかける。顔を見たところ、かなり若い。年齢は二十代後半といったところだろうか。酒場の店主はおじさんみたいなイメージがあるけど、これは驚いたわ。顔つきは優しげな印象
を受けるし、爽やかな青年といった感じ。

「こんにちは、ライト」
「それでそちらのお嬢さんは? 新しい仲間かい?」
「うん。今日は友達を連れてきたの」

 そういえばまだ自己紹介をしていなかったわね。私は慌てて頭を下げる。

「初めまして、フィーア・ブリューゲルです」
「フィーア? ああなるほど。この人がこの間話してた一緒に引き受けてくれる人なんだね?」

 ミレーヌは彼に普段からお世話になっているのか、もう話が通っているみたい。
それにしても随分親し気だけど、そうとう信頼し合っているみたいね。手紙に書いてあった、帝都で魔女として武功を挙げているというのは本当だったみたいだ。

「……待てよ、フィーアってあの黄金の魔女かい?」
「えっ」
「やっぱりそうだね。あの四年前に陛下が直々に勲章を贈呈したという」

 やっぱりこの名前で呼ばれるのか……本当迷惑なことをしてくれる、あの独裁者は。

「いやあ、君の名はこの街でも広く知れ渡っているよ。これは心強い」
「…………」
「……どうしたんだい?」

 何も知らなさそうな顔。仮にもギルドの人間なのだから、決して老婆扱いをするような姿勢で言っているわけではないと信じたいけど。

「ああ、ごめんなさい。この子、その名前で呼ばれるのあまり好きじゃないみたいなの」

 そこにミレーヌのフォロー。助かったわ。この呼び方が嫌いなことを知ってくれているのは彼女だけだから。

「そうなのかい!?」
「ええ……」
「ライト、できれば魔術師って呼んであげて。まだそっちの方がいいらしいわ」
「それはすまなかった。お詫びに好きな飲み物ただであげるよ」

 事情を理解した店主は素直に謝罪し、慌ただしく品揃えの紙を持ってきた。ちなみに私が注文したのはコーヒー。アイスにしてもらった。
 ミレーヌはいつも通り紅茶。お砂糖たっぷりの味を好むようだ。一口飲むと、ほんのり甘い味が口に広がり、気分が安らぐ。ふぅ、落ち着くわ。これでようやく話が始められる。

「さて、と。フィーアさんもこの仕事に参加するんだね? それじゃあこの紙にサインしてくれ」
「わかったわ」

 貰ったコーヒーを飲んでいる中、書類を渡される。誓約書か。別に特別なことが書いてあるわけでもなく、良識を持っていれば意識せずとも守れるもの。何の気負いもなく、持ってきた羽ペンでサインした。

「ありがとう。それじゃあ仕事の説明をするよ」

 早速本題に入るのね。しっかり聴かなくちゃ。

「今回の仕事は多くのパーティーが参加する。そのパーティーの何組かをまとめて一つの班を作るんだ」

 まあ、そうでしょう。村が丸ごと魔物の巣になったのだから。少人数でどうにかできるはずがない。
 人が多いところは苦手だけど、私は私にできることをしないと。

「班の最低人数は七人。多い場合は十人から十二人くらいの編成になるそうだ」

 そのくらいの人数ならまだ大丈夫そうね。三十人くらいの小隊を組まされるのかと思ったけど、安心だわ。後は実力次第ね。どんな敵が出るのかわからない以上、こちらも慎重に行動しなければならない。
 それと、一番気を付けなければならないのは、私の正体がバレても悪感情を抱かせないようにしないと。

「だったら四人は知らない人と組むことになりそうね」
「四人?」
「あ、そういえばフィーアにはまだ言ってなかったわね。実はあなたの他にも一緒に戦ってくれる人を探していたの」

 なるほど、有意義な判断ね。この仕事をするにあたって、私の能力は絶対に必要になってくる。だけど、だからといって私一人だけでできることは限られる。

「どういう人が見つかったの?」
ムラクモ族の人よ。男手が必要そうだから交渉してみたの」

 ムラクモ族……月と妖精を信仰する戦士の民。辺境の部族か。
 基本的には自分達の故郷に定住する部族だけど、たまに武者修行のために旅へ出る人もいると聞くわ。帝都にいるということは、そういうことでしょう。

「でもちょっと性格に難ありなのよねー……」

 ……なんか、不穏な一言ね。
 でもこの子の基準は偏っているからまだ判断できないわ。フラれた腹いせで言ってることもあったから。
 婚活パーティーの帰りに「またハズレばっかだった……」とか、いつものように言っているのよ。私は参加してないから実情は知らないけど。

{{{「ミレーヌ、いつもみたいにフラれた腹いせじゃないわよね?」}}
「はあ!? そんな言い方されると私がモテない女みたいじゃない!!」

 あ、怒らせちゃった……どうしよう。

「ごめん……」
「こら、ミレーヌ。友達になんてことを言うんだ! 君の方こそ謝りなさい!!」

 主人の仲裁が入る。これを聞いてミレーヌも言い過ぎたと思ったのか、謝りはしなかったものの静かになった。

「……で、ミレーヌ。その人は何で難ありなの?」
「それは実際に会ってみたらわかると思うわ」

 落ち着きを取り戻した返事。この言い草からして、腹いせの線は完全になくなった。

「ちなみに彼ならテーブル席にいるよ。まだ会っていないなら挨拶に行ったらどうだい?」

 主人の指す方向には男性が一人いた。
 長く伸ばした銀髪が特徴的だ。そして背が高い。長い脚を持ちながらも人並みに高い座高を見ればわかる。
 衣服は黒いコートで丁寧に手入れされている。不衛生な印象は全く感じない。見かけだけは好印象を覚えるまさしく美男子だ。

「行こうかフィーア」
「ええ」
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