設定を選択してください。

黄金の魔女フィーア (旧版)

カマーン村編 エピソードゼロ さらわれた少女
「……これが、救助対象の少女の似顔絵か」

 村長のジイさんによこされた依頼書を見て、改めて状況を確認する。
 見かけは普通の田舎少女だな。左側のサイドテールに茶髪が特徴、目は青色か……
 彼女はこの村に出稼ぎに来ていたみたいで、薬草売りで日銭を稼いでいたそうだ。売り物を採りに行ったところを運悪くオーガに見つかり、奴らの拠点へ連れ去られた。それが現状。
 彼女の接客は不愛想だが、なぜか村人達から大人気だった。特に男衆達には休まず買いに来る奴が多かったらしく、そのおかげで売り物は毎日完売していたとか。
 そんなに愛されていた彼女がさらわれたのだ。大騒ぎになって当たり前だ。中には心配のあまり仕事に身が入らない奴までいるらしい。
 まあ俺は帰郷してばかりだから何も知らないが。だからこうやってジイさんに似顔絵を頼んだ。
 それにしても帰ってきてすぐに、また仕事とは。だが今ここで戦えるのは俺だけだ。帝都から冒険者を連れてくるには、どんなに手続きが円滑に終わっても三日以上かかる。
 待つ時間に比例して最悪の事態が近づくからな。そんなことをしている暇などない。俺一人で責任持って助け出す。
 さて、早く行くか。オーガは地下を拠点とすることが多い。恐らく近くに手頃な洞窟があるのだろう。まずはそれを探さなければな。




「グハハハ! お前がカマーン村から来た戦士か! よく来たな、かかってこい!!」

 あれから半日、思ったより早くターゲットをつきとめた。が……

「く、卑怯者め……」

 奴は救助対象を盾に括り付けていた。あろうことか、固定する鎖以外の全てをさらけ出した姿で。
 人間一人の重量を片手で支えるのは俺達ではほぼ不可能。怪力によって実現する非常に悪趣味な、無敵の盾。
 それでいて、自分からは積極的に攻めない。武器はリーチが長く、盾と相性抜群の槍。まるで一人でファランクスを成立させたかのような、非の打ち所がない攻防一体の体勢。だからと言って魔法で攻撃したら、人質も巻き込んでしまう。

「おのれ……」

 やむを得ない、一旦後退だ。打開策を考えてからまた来よう。あの策には人質が必要不可欠。俺を殺すより先に人質に手は出さないだろう。
 彼女には悪いが、無策で挑むわけにはいかない。むしろ助けられないことの方がかえって事態を悪くする。




 奴は全く追ってこない。積極的に追撃するつもりはないらしく、おかげで安全に離脱できた。これも一本道の構造になっているおかげだ。手下も掃除した後だし。
――さて、どうするか。人質を傷つけず倒すのは困難。盾を破壊することも、毒で殺すこともできない。だからこそあれは無敵の大盾となるのだ。
 人間の同情心に漬け込む狡猾な策。オーガにも賢い奴がいるものだな。
 だが、それでも俺は彼女を助ける。どんなに困難だとしても、見捨てることなどできるものか……
次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(ツイッター)で共有する