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黄金の魔女フィーア (旧版)

地下倉庫の大激戦
「行くぞ!!」

 迫ってきた。巨体からは想像もつかない勢いで。

「フィーアさん、援護を頼む」
「大地よ怒れ、アース・ブレイク!」

 位置を調整し、隆起がすぐ手前に発生するように調整し来たら起動する……

「ぬおっ!?」

 少しずれたかしら。運のいい男……

「クッ! 邪魔だ!」

――でもこの魔法の用途は攻撃だけではない。隆起が妨げになる。閉所だと影響が大きいわよ。

「フン!」

 振りかぶる音、迂回せず破壊するか。今の内に離れよう。
 崩れ去る隆起。離れていたおかげでガレキに当たらず済んだ。

「今だ!」

 そこをティファレトさんが攻める。反撃よりも先に鋭い突きを放った。

「ぐおっ……!!」

 たまらず後退するオーガ。致命傷にはならなかったが、これでまた迎撃できる間合いに。

「……ほう、なかなかやるな。特にお前、今の迎撃は見事だったぞ」

 剣を向けて私を指す。戦いの最中におしゃべりなことね。

「私がすごいわけじゃないわ。無策で攻めるあなたが愚かなのよ」

――まあ、それに反応して説教する私も同類のおしゃべりか。

「だったら俺も、少し工夫しようか」

 ……何か取り出したわね。手持ちのベルかしら。
 チリンチリーンと、高い音が響く。そんなものを取り出して何をしているのかしら。

「ゴアァァッ!!」
「!?」

 気が付いた時には、後ろ側にゾンビが三体。

「そいつらはこのベルが鳴ると外に出てくるよう手なずけているのさ」

 そういうことか、工夫というのは。私を遠ざけてその間に前衛を潰す。恐らくそれが奴の狙い。

「お前達、そこにいる魔女を殺せ」

 命令を認識したかのような雄叫び。やっぱり私が狙いか……

「ティファレトさん、あいつの相手は任せたわよ」
「……一人で大丈夫か?」
「ええ。むしろあなたの方が気をつけてね。援護できなくなるから」
「……そうか。じゃあ頼む!」

 オーガへ突撃するティファレトさん。さて、私も役目を果たさないと。
 相手は一人でさばける数ではない。ただしそれは正攻法で挑んだ場合。私には普通でないやり方ができる。

「来なさい! もう一人の私フィーア・ドゥーエ!!」

 本当なら最後まで使わずに済むようにしたかったけど、勝利を確実にするためにあなたを呼び出すわ。
――現れたのは人形。十歳前後の背丈をした女の子の形。長すぎない金色の髪の毛に黒いロリータ服。その姿は幼少時代の私をかたどっている。
 だが手に握ったナイフからは、はっきりと戦士の気迫を感じさせた。

「……お母様、ご命令を」

 彼女は最も賢く美しいゴーレム。戦闘力はグラーネに劣るが、小柄だから小回りが利く。暗殺用としては間違いなく完成形だ。

「あのゾンビを倒しなさい」
「……はい」

 さあ共に行きましょう。

「オオオオー!!」

 まずは一匹目……爪で襲ってくるが、そんな乱暴な動きでは容易に見切れる。ほらね、遅いのよ。
――反撃だ。背中側から飛び込み締め上げる。

「ゴアッ!?」

 ……触っていて気分が良くないわね。柔らかすぎて気持ち悪いし、臭いも強い。
 ジタバタ暴れないでよ、手元がブレるじゃない。

「えい!」

 ナイフを喉に突き立て、切り裂く。ナイフ戦闘の基本だ。数が多い時は使えないが、今はドゥーエがもう二匹を抑えている。だから使える。

「ガァァァ……!!」

 よどんだ血を垂れ流し、伏すゾンビ。どんな人だったかは知らないが、望まぬ生から解放されて喜んでいるだろう。
 さて、もう二匹は……フフ、気が利くじゃない。もう倒しちゃったのね。

「……お母様、次のご命令を」

 あとは二人で加勢するだけ。いくらオーガといえど、三対一でまともな勝負ができるはずがない。
 状況は……見たところ互角な斬り合いね。リーチの長さを活かし反撃を牽制。そして軽い動きには武器を盾代わりにして防ぐ。
 お互い攻めあぐねている。それは好き放題横槍を入れれるということだ。

「あのオーガを刺しなさい」
「……はい」

 隙を作ってしまえば一気に決着が付くはず……いいわ、オーガはもちろん、ティファレトさんにすら気が付かれていない。斬り合いに集中しているおかげだ。
――ついに彼女がオーガのそばへ。足に向けてナイフを突き立てる。

「グオッ!? 何だ、このガキは……!?」

 反撃する間すら与えない。ナイフだけを置き去りにして戻ってくる。

「……今だ!」

 このチャンスを逃さない。渾身の水平斬りが放たれ、一気に胴が引き裂かれる。
 切り伏せられ倒れるオーガ。力が入らないのか、武器すら手放した。これはもう終わりね。

「……ふう」

 鞘に刀をしまい、彼が戻ってきた。

「いや、大変助かったよ。礼を言おう」

 どういたしまして。

「君もありがとう。助かったよ」

 ドゥーエにもお礼を言うのね。どうやら直感的に味方と認識してくれたようだ。

「…………」

 だけどドゥーエは何も言わない。少しの間彼を凝視したら視線を私に戻した。

「……あれ?」

 ……この子の困るところはここなのよね。私以外の人は風景としか認識できないのよ。さすがに外敵とそうでないものの区別はつくけど、それでもこの態度はまずいわよね。

「ごめんなさい。この子、私以外の誰にもなつかないの」
「……ミレーヌにもか?」
「ええ……」
「そうか……」

 褒められた時くらいは愛想よくしてほしいのだけど……まあ、仕方がない。私以外の誰とも会えない森の中で教育したもの。先生ができないことを生徒ができるようになるはずがないわ。

「……だけど助けられたことには変わりない。ありがとう」

 それを聞いても何も話さない。

「名前は何て言うんだい?」
「…………」

 ああ、もう見てられないわ。

「名前くらい教えてあげなさい」
「……はい」

 ふう、やっと答える気になってくれたかしら。

「……名はドゥーエ。あなたは?」

 ……驚いたわ。この子が自分から人の名前を尋ねるなんて。

「私はティファレトだ。よろしく頼む」
「…………」

 また黙ったわね。何かを考えているのかしら?

「……次はもっとお母様の役に立ちなさい。あんな戦いでは私がいなかったら間違いなくお母様を守れなかった」

 ちょっとこの子、いきなり何を言ってるのよ……まるでティファレトさんが役に立っていないみたいな言い方じゃない。

「……ハハハ、それは手厳しいな」

 いやいやいや、ここは怒ってもいいのよ? むしろ怒らないとダメでしょ。

「いや、君の言う通りだ。確かにさっきは手こずりすぎた。私一人では守り切れなかっただろう」

 ……ハア、こうして見ているとテオドールの言葉があながち間違いでもないように見えてくるわね。

「さて、エミリーを取り戻しに行こうか」

――そうね。今のままでは目先の危険を取り除いただけに過ぎない。奪われたエミリーの死体を取り戻さないと、かつての仲間を殺さなくてはいけなくなってしまう。

「……ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
「何かが騒がしいぞ?」

 騒がしい? 言われてみれば確かに、何かが聞こえるような気がする。何の音……?

――次第に音はハッキリと聞こえるように。何者かの怯えた声だ。

「ヒエエエー!!」
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